第38話 Tー13 制圧戦6 レオ
アヴァロンは剣で近接特化、タイタンは銃で遠距離特化が一般的な認識。だが決してそうという訳ではない。アヴァロン側にも弓や魔法という遠距離攻撃があるし、タイタン側にもナイフや警棒、ハンマーといった武器があり近接格闘が得意なプレイヤーもいる。しかし、遠距離では絶対にアヴァロンには負けないとレオは自負していた。――だが。
レオは右に移動し、ライフルのトリガーを引く。
相手のメイドはそれを器用にナイフで弾いて、すぐにカウンターでナイフを投げ寄越す。ナイフは一直線でレオのもとに鋭い刃を向けながら飛んでくる。まさに神業。しかし、レオもまた負けじと向かってくるナイフを銃弾で弾きながらカウンターで銃弾を放つ。そしてリロードになる手前で物陰に隠れる。
――やっぱり、ただでは進ませないってか。
第51フィールドはタイタン側の第1フィールドと同じで城塞フィールドであった。タイタン側が現代、近未来的なら、ここは中世ヨーロッパ風の城をモデルとした石造りの城塞。そしてここに辿り着くまで敵プレイヤーこそいなくても無数のトラップが待ち受けていて、それらを回避しながら奥へと進んだ。正直な話、レオはもうくたくたであった。タイタンでもこの短時間でこれほどトラップを仕掛けるプレイヤーはいるだろうか。
「意外にもお強いのですね。まあ、ここまで辿り着くのですから当然ですわね」
メイドが言葉を投げる。その言葉からは余裕が伺える。
ライフルには装填数がありリロードもあるが弾は無限。それに対して向こうのナイフは有限のはず。無限にナイフは所持できないはず。
レオはもう一度メイドに銃弾を放つ。しかし、またナイフで弾かれ、そしてカウンターでナイフを投げられる。次は4本!
――クソ! どうなっていやがる?
一体あのメイド服のどこにナイフを隠しているのか。なぜかナイフを取り出す瞬間が分からないのか。いつの間にかメイドは手にナイフを所持している。
レオは手榴弾を2つ取り出し、2つともピンを抜き、それを相手に投げる。プロ野球選手も驚きの豪速球で。
相手はそれをナイフで弾くのでなく腕をクロスして防ぐ。
レオは驚いた。てっきりナイフで弾くか避けるのかと思っていたから。ナイフが減ったのだろうか。煙の中から2本ナイフが現れる。レオは回避し、そして煙に向け銃弾を放つ。
金属音が鳴った。
煙からメイド飛び出してくる。腕には鉛色のガントレットが装備されている。金属音の正体は銃弾をガントレットで弾いたときのもの。
メイドが拳を繰り出す。レオは警棒を取り出しガントレットを叩く。軌道をそらせ回避行動をとる。
次にメイドは回転蹴りを放つ。メイドの踵がレオの右肩に当たる。肩のプロテクター越しに痛みが通り抜ける。
その痛みを抑えながらレオは後退する。
それを追うようにメイドはガントレットを溶かしチェーン付きの鉄球を生み出た。鉄球回し、上から下へと落とす。
レオは警棒で防ぐのでなく体を左へと飛んで回避。
鉄球は轟音を立て、地面に陥没する。鉄球により石で出来た地面は割れ、破片が撒き散っている。
当たっていたらひとたまりもない。
「アルケミストか!?」
レオはメイドの攻撃を見てそう判断した。
「錬金術士と仰ってくださいませ」
メイドは鉄球を槍に変える。そしてニッコリ微笑んだ後、槍を繰り出す。
レオは右手の警棒で先端を弾き、左手でライフルのトリガーを引く。
近距離からの銃撃をメイドは後ろに跳びながら槍を傘にして銃撃を防ぐ。
――なんでもありかよ!
傘の尖端が銃口のようになったと思った瞬間。そこから鉛玉が飛ぶ。
レオは瞬時に回避行動をとるが左腹部を2発撃たれた。
「っ! 反則だろ!」
「はて? どこか問題でもありましたか?」
メイドは傘を差しながら可笑しそうな目を向ける。
「銃はこっちの領分だろ」
「銃ではありませんわ。鉛から鉛を出しただけです」
メイドは口に手を当て上品に笑う。
「なんだよ。その屁理屈」
レオは痛みが消えたのを頃合いに動く。回り込みながらライフル攻撃を行う。メイドは傘をクルクル回しながら銃弾を弾く。レオは腰のホルスターから拳銃を抜き取り、銃口を傘の尖端に向ける。
大きな破裂音が鳴った。傘の中心が破裂したのだ。大きな穴を開けられメイドは目を見開き驚く。
レオが放った拳銃の弾の正体は特殊徹甲弾。それは戦車等に使われる徹甲弾を拳銃サイズしたもの。威力は戦車級でどんなに固い装甲をしていても大穴を開ける。そしてあまりにも反動が強いので扱いが難しい。それをレアは片手で普通の拳銃のように引き金を引く。さすがは高ランカーといったところだろう。
メイドの驚いた顔を大きく開いた穴からレオは見る。一気に近付きライフルの銃口を傘の穴に指し、連射する。
穴の向こうがどうなってるかは傘が邪魔で分からない。だが手応えは感じていた。
――やったか?
しかし、傘が大きく開いてレオを包んだ。
上半身を鉛で包まれる。
「痛いですわね」
メイドはまだ生きていた。ただ服がボロボロだった。
ゲームではどんなに火炎や電撃、物理的な攻撃を受けても衣服は破けたり燃えたりはしないはず。
「その服も錬金術か」
「ええ。色を付けてたので分からなかったでしょ?」
上半身は首と肩を露出。下半身はロングスカートが破けミニになり健康的な太股が露出。
「さて、どうしましょうか?」
「馬乗りなってタコ殴りでもするのか?」
「いえいえ、そんな野蛮なことはしません」
「でも、もう鉛は少ないだろ」
「……なら」
メイドは右手をレオに向ける。
レオに巻き付いている鉛が蠢き、
「な! っが!?」
鉛がレオをきつく絞め始める。
「あああああぁ!」
レオは悶絶して地面をのたうち回る。
「ごめんなさいね」
メイドはそう言ってレオに背を向け歩き始める。
数歩、歩いたところで悲鳴が止んだ。おかしいと思い振り向く。なんと、レオは鉛から抜け出していた。周囲には鉛の破片が。そしてレオは拳銃をメイドに向けていた。
メイドはすぐ回避行動をとろうとするも先に銃声が鳴った。
銃弾はメイドに体に大きな穴を開けてその体を後ろへと吹き飛ばす。
レオは肩を下ろし一息つく。これで終わった。後はフラッグを自軍マークにかえるだけ変えるだけ。拳銃をホルスターにしまう。
「痛っ!」
体の節々から痛みが走る。体にとぐろを巻いていた鉛を力業で引き裂いたのだ。その負担が襲う。メイドに撃ち抜かれた腹部の傷は治っていた。傷や痛みは次第に消え行くが疲労は残る。ゲーム内において肉体的疲労はないが精神的疲労は蓄積されてる。レオは一息つき、こりをほぐすかのように右肩を回す。
ふとレオは倒れたメイドを見る。そこには大の字に倒れたメイドが横たわっている。
――おかしい。HPがゼロになったら消失するはず。それがどうして?
レオはライフルを構え、メイドに放つ。
1発、2発、3発。
そしてとうとうメイドは鉛色になって溶けた。
「え!?」
溶けきった後で部屋中から拍手が鳴った。
壁が溶け、壁の中から倒したメイドと同じ姿のメイドが現れた。
レオは躊躇なく発砲する。頭が弾け飛ぶ。
だが拍手は鳴り止まない。
壁という壁が溶け、同一個体のメイドが現れる。そしてそれは壁だけでなく柱からも。
計30。
メイドたちはニッコリと頬笑む。
「さあ、始めましょうか」
○ ○ ○
「……はあ。……あれを全部やっつけたのですか」
メイドは呆れたのか感嘆したのか判別しにくい声を出した。
地面には足の踏み場もないような鉛の残骸が散らばっている。
30体の、いや最初の個体と頭を撃ち抜かれたのを合わすと計32体の錬金術で作ったリード・メイドを彼一人でやっつけたのだ。装備していたプロテクターは全て破壊されタイツスーツ以外は何も身に付けていない。
「……生憎、タダで殺られない性分でね」
レオは膝に手を当て、息を整える。
「では最後に私が引導を渡しましょう」
レオはもう所有する武器を残していない。ライフル、拳銃、警棒、手榴弾、ビームナイフの全てがリード・メイドとの戦闘中に壊された。20体目あたりは格闘技で破壊。高ランカーゆえ、ステータスは高く生身でもそれなりに戦えるのだ。
だが一番高いのはHP。レオが30体に対して戦えたわけはそこにある。しかし、今はHPがレッドゾーンに突入。本体がどのように攻撃を繰り出すかは分からないがリード・メイド以上なら確実に殺られる。
メイドがインカムで誰かに連絡したのち素手で向かってきた。
レオは相手の右ストレートをかわし、ボディにアッパーを。その一撃でメイドは倒れ、消滅。
最後の戦いはあっけなく終わった。
その意外な幕引きにレオは驚いた。今までのホムンクルスの方が圧倒的に強かったからだ。
だが、それもそのはず。なぜなら錬金術士は自ら戦闘をしない。基本は味方のため武器、防具、アイテム精製を役割りとしているのだから。
それでもアヴァロンが重要フィールドに彼女を配置させたのは罠やリード・メイドが強いからであった。
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