第37話 Tー12 制圧戦5 三者三様

 ケイティーたち制圧部隊からスゥイーリアとの接触の一報を聞いた。その後、彼女たちから連絡が取れなくなった。それはスゥイーリアに殺られたということだとレオは推測。そしてすぐにブラームスに連絡しにいつでも動けるよう指示させた。スゥイーリアが現れたフィールドから察するに彼女は中央の第26フィールドに向かったと推測される。もしここで彼とスゥイーリアが行き違いになったら窮地に立たされる。それゆえにレオは第26フィールドのブラームスからの連絡を待った。


 そして数分後、連絡がきた。


『スゥイーリアを確認した』

「わかった。すぐにを向かわせてくれ。今、彼はどこに?」

『第3フィールドだ』

「遠いな。それまでなんとしてでも持ち堪えてくれ」

『任せてくれたまえ。こちらもただの情報通じゃあないんだ』


 ――さてあとは自分だな。


 レオは森の中を駆け抜ける。彼が向かう先は第51フィールド、最南端のアヴァロンフィールド。


  ○ ○ ○


 エイラは最北端の第1フィールドの堅牢な城塞内、50メートル四方の広間に一人で待機している。エイラは9時半に関ヶ島に飛ばされたときレオたちと離されて重要なこの第1フィールドに飛ばされたのだ。以降、ここで待機と命を与えられた。


 バスケットコート2つ分の広さの広間には何もない。白と黒のまばらな大理石でできた床と壁、そして高い天上のみ。天井1面がライトになっているのか天井が白く光り輝いている。あとはドアが2つ。エイラの後ろにある赤いドアと視線の先にある茶色のドア。後ろの赤いドアはフラッグのある部屋に続いていて、茶色のドアは廊下に続いている。


 昼13時に敵が第1フィールドに浸入、すぐにレオに連絡を取ろうとしたが呼び出し音のみ。次にブラームスに掛ける。だがブラームスも同じく呼び出し音のみで繋がらない。それじゃあと、エイラは誰に連絡を取ろうか逡巡してるうちに、敵が城塞内に浸入したと連絡がきた。その一報を聞いて通話を諦めた。第1フィールドは外に高ランカーを配置している。それが数分もしない内に浸入を許したのだ。ならここに辿り着くのも時間の問題だろう。


 ――私がしっかりしなくては。


 そう覚悟を決めた時に茶色のドアが開かれ、来訪者が入室する。


 ――もう来たのか。


 エイラは心の中で感嘆の息を吐いた。

 来訪者は黒いドレスの少女。幼い顔立ち。黒髪で後ろ髪を結っている。背はアリスほど。得物は日本刀。とても可愛らしい子だった。その分、日本刀とのアンバランスである種の凄みを持っている。カツカツとヒールで床を踏み、


「貴女が番人ですか?」


 と、透き通る声でエイラに聞く。


「ええ」


 エイラは短く答えた。少女が6メートル手前で止まる。

 二人は相対する。少女はフラッグのあるドアをくぐるため。エイラはそれを阻止するため。

 そしてどちらともなく動いた。


  ○ ○ ○


 防衛部隊は基本防御力ステータスが高いメンバーで構成されているが、それはたまたまである。彼らが防御力が高いのは彼らの得物が起因している。彼らの得物はバズーカ、大砲、機関銃でこれらの得物は重く、基本相手からの攻撃を回避できないのでどうしても防御力にボーナスポイントを割り振ることになる。


 ブラームスが指揮する第26フィールド防衛部隊は砦の周囲に二十の機関銃と小銃部隊。砦には8門の大砲とバズーカ部隊、そしてスナイパー部隊を配置させている。砦内には高ランカーのプレイヤーを。平均ランクは103。いくら最強と謳われていようが近づくのは難しいだろうと高を括っていた。


 しかし、スゥイーリアはフィールドに入ってきて真っ直ぐ、臆することなく向かってきた。スゥイーリアが現れた方角にはF1からF8の八つの機関銃部隊が。大砲4門。機関銃の火が吹き、大砲が轟音を発する。


 機関銃1つにつき、毎秒20発。それが計8で160発。岩も一瞬で粉々。それをスゥイーリアは地を駆けて避ける。


 ブラームスはスコープで地を駆けるスゥイーリアを窺う。銃弾の雨がスゥイーリアを追う。だがスゥイーリアのスピードが一気に上がり、スコープからスゥイーリアの姿が消えた。


 ――どこだ?


 ブラームスはスコープから目を離し、彼方の前面を窺った。

 するとF1部隊の機関銃が止んだ。彼らもどこに攻撃していいかわからないだろうか。

 ブラームスは確認のためF1部隊のプレイヤーにインカムで連絡を取ろうとするが繋がらなかった。


 ――殺られた!?


 次にF2、F3と続く。

 すぐにブラームスは残りの機関銃部隊に注意を促そうとするもスゥイーリアの早さにはかなわなかった。どれもが後手にまわる。


 そしてとうとう全ての機関銃部隊が殺られた。機関銃部隊には小銃及び近接格闘の得意なプレイヤーもいたはず。


 砦の前にスゥイーリアの姿が忽然と戻った。そしてスゥイーリアは上空へと飛躍。その高さは砦よりも高い。人としては有り得ない跳躍だ。ゲームゆえに成せる技と言えど限界を超えていないだろうか。


 しかし、これはチャンスではないだろうか。空中では高速移動はできないはず。ブラームスは塀の上にいるプレイヤーに発砲を命じた。


 だがスゥイーリアの姿が空中でまた忽然と消えた。ブラームスは目をこすり、目を細めた。そしてもう一度上空を見上げる。だが、視界には霧と銃弾の軌跡のみだけ。


 ――クソッ、どういうことだ。


 ブラームスは無性に苛立ち、額を叩いた。

 取り逃がしたのか。それとも霧の中に消えたのか。空を見れど、どこにもいない。すでに着地したのではと砦周囲に目を下げる。


 正解だった。ブラームスの思った通り、スゥイーリアはすでに着地していた。いや、それだけでなく、すでに残りの機関銃部隊、大砲部隊を駆逐し始めていた。目視する限りもう大半が殺られている。

 もう瞬間移動にしか見えなかった。


 ――どうやって止めろと?


 剣姫の名は伊達ではなかった。

 駄目だと思ったとき、スゥイーリアの顔がすぐそこにあった。


 ――ああ、終わりだ。


 しかし、スゥイーリアは塀を降り、また地へと戻った。

 どうしたと思い、スゥイーリアの視線がブラームスではなくさらに上へと向いていたことに気づく。ブラームスもつられてて視線の先を窺う。尖塔の上に一人の男が立っていた。


「ケント!」


 ブラームスが男の名を叫んだ。



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