第36話 Aー15 制圧戦4 上には上が

 ユウを助けた大槍の女騎士は高ランカーだった。この人がいれば安全だとユウは、いや周りのアヴァロンプレイヤー全員は安心していた。――だが、


「あらあら、こんなものなのですかー?」


 小柄な少女が女騎士を倒した。それも圧倒的強さで。その小柄な少女の後ろには彼女の味方であるタイタンプレイヤーが三人いる。その三人は少女に加勢せず、つまらなそうに佇んでいる。


 少女は女騎士を単身で倒した後、数多くアヴァロンプレイヤーをほふり続けた。ミリィも先程、その少女に殺られた。九十はいたアヴァロンプレイヤーも、残っているのはユウを含めてたったの四人だけとなってしまった。


「もう少しは楽しませて下さいよー」


 少女は剣をぶらぶらと振り不満そうに言う。そうこの少女はタイタンプレイヤーでありながら銃でなく剣でアヴァロンプレイヤーを無双して倒したのだ。


「ざっ、ざけんなー!」


 残ったアヴァロンプレイヤーの一人、重騎士がハンマーを振りかざしながら突進をする。


 少女はそれを軽くかわして一撃で倒す。重騎士の固い鎧をばっさりと斬る。


 別に重騎士が弱いわけではない。彼も高ランカー。重い体のはずだが、それでもユウをよりも断然に速い突進だった。


 上には上がいる。ユウはその言葉を思い出す。

 強い。本当に強すぎなのだ。この少女は。


「ぬわぁあー」

「くらえやー」


 残りのプレイヤー二人も諦めたのか策もなく無謀に叫びながら突進する。


「はいはい」


 つまんなさそうに少女はあっさりと二人を倒す。一瞬で間合いに入り、剣を振る。たったそれだけの行為。

 残ったのはユウ一人だけとなった。


「君はどうします?」


 少女は嘲るように聞く。

 ユウは悔しくて下唇を噛む。


「おい、ケイティー早くしろよ」


 後ろの三人の中、背の高い男が少女に声をかける。

 三人もいちいち戦いを観戦する必要もない。少女が戦っている間に旗を替えることはできる。だがあえてそれをしないのは、それだけ実力に自信があり、そしてユウたちを見下しているからだ。


 ユウは一呼吸した後、駆けた。

 ウィンジコルを少女に向け、横一線に振るう。

 だが少女はしゃがんで避け、すぐに膝を伸ばしてユウに頭突きを食らわせる。


 ユウはもろにその頭突きを顎に食らい尻餅をつく。

 それを少女の後ろで見てたタイタンプレイヤーたちがクスクスと笑う。


 ユウは悔しさですぐに立ち上がり、もう一度少女に切りかかる。今度は右からの袈裟懸け。

 それも後ろに跳ねてかわす。そしてカウンターとしてユウの腹に回し蹴りをいれる。

 またユウは後ろに倒される。


「おい、まじでそろそろ終わらせろよ」


 少女は後ろからのクレームを受け、


「わかりましたー」


 そして起き上がったユウに、


「ごめんなさいね」


 茶目っ気たっぷりの謝罪の言葉を投げる。

 ユウは今度は左フックで少女を殴ろうする。少女はつまらなそうに悠々とかわして、右手に持っていた剣を振る。


 これで終わりだなと少女と後ろで観戦していたタイタンプレイヤーはそう思った。

 しかし、そこで二つの出来事が起こった。


 一つは少女のインカムに連絡が着たこと。

 そしてもう一つはユウが右手の逆手で持っていたウィジンコルを両手に持ち直して、刺し違う覚悟で振るったこと。


「え!?」


 左フックはフェイントだった。どうせかわされてカウンターを食らうだろうと考えた行動だったのだ。


 予想もしてなかった突然の出来事で少女の手元が狂う。剣はユウの腹部を掠めた。そしてユウの振るったウィンジコルは相手の左目に刺さる。


「ぎぃやぁーーー! やあぁぁぁー! あぁぁーーー!」


 少女は左目を押さえて地面にのたうち回る。これはチャンスと思い少女に馬乗りになろうとする。


 だが、少女の仲間が割って入り、ユウは蹴り飛ばされる。


「ケイティー、大丈夫か?」


 助けに入った仲間が心配して尋ねる。


「き、傷は消えました。で、でも、でも」


 少女は鼻息荒く立ち上がる。


「痛いだろー!」


 少女叫び、ユウに馬乗りになり殴る。


「くそ、くそ」


 ユウのHPはみるみる減っていく。


「駄目です。駄目ですよ。楽には死なせません。貴方には私と同じ苦痛を」


 そして少女はユウの左目に手を差し込める。

 ユウの右視界が赤くなる。


「ケイティー、落ち着つけ。アヴァロンプレイヤーにそんなことしても無駄だ。痛覚があるのはこっちだけなんだ!」

「黙れ! 許さない、許さない」


 少女がもう片方の右目にも手を差し込もうとした。その時、ユウの耳に風の音が。そして右目も真っ赤に染まる。いや、違う。断面が見えたのだ。その断面は腕のもの。


 ユウは起き上がって状況を確認した。

 ユウに馬乗りになっていた少女は首と腕が切断されていた。しばらくして少女は消滅した。


 そして目の前に白いドレス姿に白い剣を持つ女性プレイヤーが立っていた。


 ――助けくれたのか?


 白いドレスの女性プレイヤーはユウに背を向け、タイタンプレイヤーと相対している。ということは仲間だろうか。


「ス、スゥイーリア!」


 タイタンプレイヤーの一人が叫んだ。


 ――スゥイーリア! その名前には覚えがある。


 そしてタイタンプレイヤーは消えた。否、彼らは跳躍したのだ。それぞれがバラバラに。そして銃を構え、トリガーを引く。無数の銃弾が四方からスゥイーリア目掛けて向かってくる。高ランカーのタイタンプレイヤーが放つ弾丸は高速であり、音速の5倍を超える。


 基本、タイタンプレイヤーのステータスが上がっても銃弾の威力やスピードは上がらない。そういったものは武器そのもののしだいである。


 だが、獲得したジョブの数、種類、レベル、ジョブクラス等で威力やスピードが大きく変わる。そして高ランカーはジョブクラス4以上かEXジョブ所用者である。それ以外は高ランカーとは認められないのだ。


 その音速5倍の弾丸をスゥイーリアは白い剣で目に止まらぬ速さで全ての銃弾を弾き返す。何か急かすような銃声と、銃弾を弾き返す打撃音と破裂音が混じった音。中心でスゥイーリアが舞う。そこにはスゥイーリアの残像が残っていた。いくつにも。それはまるで分身したかのように見えた。


 タイタンプレイヤーは高速で動きながらスゥイーリアの死角へと周り銃撃を繰り出す。一人がリロード中は二人がカバーして動く。彼らは二人以上、リロードが被ることはない。三人は見事に連携して攻撃している。


 しかし、それらも全方位に目があるかのようにそれら攻撃を全て弾く。その後、スゥイーリアは消えた。次の瞬間、タイタンプレイヤーの一人が殺られていた。縦に真っ二つ体を斬られ。


「ルコン!」


 タイタンプレイヤーが殺られた仲間の名を言った瞬間、そのプレイヤーの首と胴が離れた。もはや高速移動ではない瞬間移動だ。

 残った一人は懸命に銃撃を繰り出すがすぐにスゥイーリアに殺られる。


 圧倒的だった。

 少女に対して上には上がいると感じたがそれは少女が頂点と感じたが所以である。だが、その考えを払拭するかのようにスゥイーリアは圧倒的な力を見せる。


「大丈夫ですか?」


 全てを終えたスゥイーリアはユウに近づいて聞く。


「はい。なんとかギリギリ」


 スゥイーリアはユウに手を向け、回復魔法を詠唱する。

 ユウのHPが全快した。


「すごい。全快です。ありがとうございます」

「いいえ。貴方程度でしたらちょっとした回復でも効果は大きいのです」


 なんか地味にディスられてるのではと感じた。


「あ、すみません。変な意味はないんです。総HPが低いとちょっとした回復魔法ですぐ全快するということです」

「あ、はい。わかります。MP消費の低い魔法でも全快ということですよね」

「はい。そうです。それで生き残りは貴方だけで?」

「自分だけが生き残ってしまって」


 ユウは申し訳なく答えた。

 そこで、


「おーい! ユウ!」


 と、声が掛けられた。

 霧の向こうから人影が現れた。

 アルクとセシリアだ。


「遅れてごめん。途中強い奴と遭遇して、ってあれ? どうしてスゥイーリアが?」

「あら、ということが貴方がアルクさんのお仲間ですか」

「アルク! ピンチのところをこの人が助けてくれたんだ」

「うちのがお世話なりました」

「いえいえ、むしろ遅くなったようで」

「そう言えば、他のプレイヤーは? ミリィは?」


 セシリアに聞かれユウは残念そうな顔をして首を振った。


「全員タイタンプレイヤーに殺られた」


  ○ ○ ○


「ではここはお任せいたします。すぐに仲間が防衛部隊を派遣しますので」

「ええ、任せてください。それまでもってみせますよ」


 アルクは自信たっぷりに返した。

 スゥイーリアは頷いた後、フィールドの外に出た。



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