第35話 Tー11 制圧戦3 クルミ

「あれ? キョウカさん? それにカナタも」


 アリスのいるフィールドにキョウカとカナタがやって来た。


「あれ? クルミさんは?」


 いつも一緒にいるクルミの姿が足りない。


「彼女は遊撃隊として今頃、攻めこんでいるんじゃないかな?」

「はあ、それでどうしてキョウカさんがこちらに?」

「君のお兄さんに頼まれたのさ」

「それはすみません。うちの兄が」

「なに、恩を売っただけだよ」

「それで今はどうなっています?」

「痛覚の件もあり、今は制圧部隊を二つ、遊撃隊を三つ編成して攻めているらしいよ」

「どうして痛覚の件で?」


 キョウカは眉を伏せ、


「痛覚の件で皆、動きが鈍いんだ。それでそういう人は防衛に専念させ攻撃部隊を制圧と遊撃に分けて向かわせることにしたんだよ。最北端の第1フィールドから二段目のフィールドにはそれぞれ高ランカーの三人だけで、三段目と四段目をカチカチに固めているのさ。主にマシンガンや大砲、ボムでね」

「ここ五段目は?」

「もちろん防衛部隊を派遣してるだろ」


 キョウカはそう言って親指で自身を指差してその部隊が自分達と言っているようだ。

 大丈夫かなと心配になるがキョウカはこう見えて中級者ランカーでランクが78であった。


「カナタはここに居て平気なの?」

「大丈夫」


 カナタは平気そうに言った。


「逆にカナタがいると相手も躊躇するだろう?」


 そのキョウカの発言にアリスは怒った。


「キョウカさん! こんな小さい子を盾にしようだなんておかしいですよ!」

「おお、それはごめんよ。ちょっとした冗談のつもりだったんだが」

「カナタも私の後ろに下がってていいからね」

「大丈夫。戦うよ」


 相変わらず感情の読めない声音。痛覚があることを知っているのだろうか。無表情だがそこに愛おしさを感じアリスはカナタをぎゅっと抱き締めた。


  ○ ○ ○


 霧が上空を覆っているのでまるで木々が雪に覆われているようだ。さらに寒さも相まってか雪山の中にいるような錯覚を与えてくる。


 クルミはアヴァロン側の五段目フィールドを越え四段目フィールド付近に来ていた。フィールドに向かうには別に一段前のフィールドを抜けなければいけないというルールはないようでフィールドの間を抜ければ奥へと進める。もちろん安全というわけではない。相手もそのフィールドの隙間に人員を置いているらしく度々遭遇する。そして今も二人の敵と戦闘をしている。


 火炎魔法がクルミのいる場所に向かって飛んでくる。

 クルミはそれを右に避けつつ銃撃でカウンター。

 ヒットしたのか火炎魔法を繰り出す魔女っ子は地面に倒れる。もう一人の女剣士は仲間を振り返らずにクルミに向け跳躍する。


 クルミはキョウカよりも上のハイランカーでランクは90。敵に向け銃弾を放つ。だが、それを女剣士は盾で防ぐ。クルミは盾で防ぎきれない足を狙う。だがそれすらも女剣士は剣ではじく。さらに女剣士は剣を上から下へと大きく振りクルミに斬撃を放つ。


 クルミはそれを後ろに大きく跳び、うまくかわす。かわした際に銃弾を女剣士に放つ。これはかわせないだろうと思ったが女剣士は高速ステップでかわす。どうやら女剣士もハイランカーらしい。


 女剣士は横殴りの一閃を放つ。通常、木々が邪魔で森での戦闘は剣に不向きである。しかし、女剣士にとって木々はさしたる障害ではない。

 なぜなら、大木すら豆腐のように斬るからだ。斬られた大木は音を立て倒れる。


「ゴリラですか?」


 周りの木々を剣撃で凪ぎ払った技を見せつけられクルミはつい口にした。


「誰がゴリラだ!」


 そう言われて眉間に皺を寄せた女剣士の剣撃がクルミに向かう。

 クルミは素早く避け、距離を取っては銃撃を繰り出す。女剣士もクルミの攻撃を防ぎつつ、跳躍で距離を詰め剣撃を繰り出す。


 どちらも決め手がないまま時間が経つ。

 クルミは正直諦めて帰ってくれないかなと思いつつ、すぐにそう言えば後戻りができないのだと気づく。

 女剣士は剣を振り続けて木々を斬り倒す。


「脳筋ですか? 森林破壊ですよ」

「いいえ、これでいいのよ」


 木々を斬り倒すので辺りは見渡しが良くなった。見渡しが良くなってもどうせゲーム内ではすぐにフィールドは再生するはず。


「もしかして私が盾にしている木々を斬り倒しているのですか? 言っておきますが別に木々を盾にしてるわけではありませんよ」


 女剣士は木々ごと斬り倒すのだ。盾にはならないし、木々が倒れてきて危ない。それに剣撃を避けようとすると邪魔でもある。


「違うわ」


 そう言って女剣士は剣を振り、木々を斬り倒していく。

 クルミはため息を吐き、周りを見渡す。もうほとんどの木々がない。


「やー!」


 女剣士は声を上げ、剣を振るう。それを悠々とクルミは避ける。


「今よ! セシ!」

「オッケー! 準備万端よ!」


 別方角から声が。そしてクルミの周囲が紅くなる。

 声の方を振り向くと先程撃ち倒したはず魔女っ子が杖を掲げる姿が。完全に倒しきっていなかったのか。


「フレイムストーーーム!」


 炎の嵐がクルミと女剣士を焼く。炎の嵐は轟音を出しながら、霧を掻き消し天高く燃える。さしずめ炎の竜巻のようでもあった。

 炎が消え、魔女っ子は女剣士の元へ近づき、


「アルク! どう? 殺った?」

「わからない」


 女剣士は周りを慎重に窺うがクルミの姿を発見することはなかった。


「消失したのかな?」


 女剣士が自信なく言う。


「焼失だけに?」

「つまんないことは言わないで」

「いないならもう行こうよ」

「そうだね。それよりさっきの魔法、以外と細いんだね。もっとこう、周囲をドーム型に炎が膨らむみたいな」

「それ霧のせいだよ。あのフレイムストームは天候や地形に左右されるんだから」

「それならたくさん斬り倒す必要なかったわ」

「そんなことないわ。あれくらいしないと」


 二人はその後、五段目のフィールドに向かった。方角から察するに第29フィールドだろう。

 それを大木に隠れて窺う人物が――。


 そうクルミだった。

 彼女は殺られていなかったのだ。しかし、フレイムストームの攻撃を完全に回避はできなかったのか体左側は大火傷。


 クルミは大木の後ろで二人が去るのを確かめて攻略班のブラームスにメスゴリラ剣士と、女放火魔がアヴァロン五段目フィールドの29に向かったと連絡した。


 連絡後、体の火傷が消えるのを痛みに耐えながら待つ。火傷は麻痺や毒と同じ状態異常系でなかなか消えなかった。

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