第225話 Tー3 ミーティング

「どうだった? 本物か?」


 レオは自身がリーダーを務めるパーティー所有の施設に戻るやいなやメンバー達から謎の情報者について問われた。


「落ち着け。ミーティングルームに集合だ」


 それだけ言って、レオはまずリーダー室に戻る。

 椅子に座り、一息つくと目を瞑り、先の情報提供者について熟考した。


 ──本物の可能性は高い。嘘にしてはすぎる。わざわざドッキリのためにあれだけの準備をする理由もない。


 そこで着信がきた。

 相手はあの路地裏のバー周辺に配置したメンバーだ。メンバーにはバーから出てきた者を尾行しろと命じていた。


「どうした? 尾行がバレたか?」

『違う。バーが消えた』

「は?」

『つい今し方、バーが消えたんだよ』


 声音から狼狽えているのが伝わる。


「まじかよ。俺が出て行ったあと、誰か出てきたか?」

『誰も出ていない。ドアが消えてすぐに向かったんだがドアがあった痕跡はない。それにビルの表から中に入ってバーがある区域を調べたら、そこは物置部屋だった』

「……そうか。お前達はもう戻れ」

『リーダー、これって……』

「話は後だ。とにかく撤収してすぐに戻れ。それとこの件は誰にも話すな」

『了解』


 通話を切ると次にドアがノックされた。


「なんだ?」


 ドアが開き、ケイティーが部屋に入ってきた。


「他のパーティーにはお声はかけられてないそうですよ」

「深山のお嬢さん達は?」

「接触はないと報告がきてますね」

「そうか」


 深山家は名家だ。警察ならまず安否確認のため接触をすると踏んでいた。


「現時点では俺達だけということか」

「見込まれたんですかねウチら」

「で、どうだったんです?」

「あとで話す」

「ケチ〜」


  ◯ ◯ ◯


 レオがミーティングルームに入ると先程まで口論していたメンバーは押し黙った。

 静かになったミーティングルームをレオはコツコツと足音を鳴らして、壇上に上がる。そして一つ咳払いする。


「掲示板の情報提供者の件だが、本物の可能性は高いな」


 その言葉にメンバーはどよめいた。


「まじか!」、「やっぱり本当なのね!」、「外から助けが!」、「ついに!」


 歓喜する者、拳を強く握る者、涙する者と様々な反応。


「皆、落ち着いてくれ」


 レオは低く、かつ強い意志のある声音を発する。

 皆はまた口を閉ざして、レオへと集中する。


「いいか。100%ではないんだ。あくまで外からの者という可能性が高い。……それしか今は答えがでないとも言える。……それだけだ。そしてこのことは口外しないように」

「どうして?」


 赤い髪の女性プレイヤーが聞く。


「もしこのことが公になればロザリーの耳に入るだろう。そしたらどうなる? 分かるよな?」

「でもさ、すでに掲示板に書き込まれているんだから、もうバレてんだろ?」


 ごつい体の男性プレイヤーが告げる。


「そう言えばそうよね。あれはどういう魂胆だったのかしら?」

「本物だったら、こんなことしないし。どうなんだ? レオ? 何か聞いてないのか?」

「彼女らから聞くにはあれは相手の反応を見るためのものと、囮みたいなものと聞いている。それがどう効いたのかは知らないが」


 と言い、レオは溜め息を吐いた。


「もう一度言う。このことは口外しないように」

『了解』

「でもこれからどうするんです?」


 ケイティーが聞いた。


「こちらからは連絡は取れない。向こうからの連絡待ちだな」

「イニシアチブを取られたって感じですぅ?」

「仕方ないだろ。下手に連絡とって足を引っ張ったらどうする。これは全プレイヤーのためだ。少しは窮屈でも我慢しないとな」


  ◯ ◯ ◯


 ミーティングが終わった後、レオはリーダー室で仕事をしていた。その時、キョウカから連絡がきた。


「なんでしょうか?」

『ちょっと聞きたいことがあってね。掲示板の噂を知っているかい?』

「ああ。あの外から来たというアレですね」

『うむ。あれについて何か知っているかい?』

「すみません。何も。あれが本当かどうかわかりませんね」

『そうか。もし何か判ったら教えてくれたまえ』

「ええ。もしそちらの方でも何か判ればお願いします」

『もちろん』


 通話が終わり、職務に戻ろうしたところで、また着信がきた。


 言い忘れたことでもあったのかと通話に出ると、


『やあ。私だ』


 その声には聞き覚えがあった。

 レオは唾を飲んでから、


「チェンか」

『良かった。覚えていてくれて』

「何用だ? そうそう気軽に連絡を取れないはずだろ?」

『ああ。だから重要な件だ』

 重要という単語をレオは頭の中で反芻した。

「なんだ?」

『キョウカを知っているよね。深山家の令嬢で君達のスポンサーでもある彼女を』

「ああ。知っているも何も、ついさっきも連絡を取った」

『彼女と会いたいんだが?』

「やはり深山家だから?」

『それもあるが、1番はカナタかな』

「カナタが? どうして?」

『どうしてって君、彼は子供だよ。子供がログアウト出来ずに1人だなんて可哀想だろ?』

「子供の安全が第一と?」

『そうそう。子供を助けられないと世間様もうるさいしね。で、会えるように出来ないかな?』

「可能だが。どうして俺に? 俺のようになんとかして接触できないのか?」

『君、私達はおいそれと誰でも会えるわけではないんだよ。下手すれば作戦は失敗。それにロザリーも私達がキョウカ達に接触すると考えているのかガチガチに固めているんだよね〜』

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