第226話 Tー4 キョウカ
レオはチェンに頼まれた通り、キョウカとの顔合わせのセッティングを作るためにまずキョウカ本人に直接会いにきていた。
場所はキョウカが拠点としている施設のラウンジ。
レオは極秘の件ゆえに個室を希望したが、
「今日は私以外誰もいないよ」とキョウカに言われ、レオはしぶしぶラウンジで話をすることになった。
「ん? 先日、掲示板のアレについては何も知らないって言ってたのでは?」
「ロザリーにバレる可能性があったのでね」
「で、向こうはどうして私に?」
「分かってるでしょ。貴女は深山家の令嬢。それに子供のカナタもいるんですよ。最優先保護対象でしょうに」
「ふうん」
どこか探るような目をするキョウカ。
「何か不都合でも?」
「いいや」
まあ、それもそうだろう。ここから出られるというなら、それにこしたことはないはず。これは全プレイヤーが望んでいること。わざわざ残りたいという物好きはいないだろう。
「カナタは?」
今ここにはキョウカとレオしかいない。
「あの子は少し狩りに出かけているよ」
「……そうですか」
「どうかしたかい?」
「いえ、ただ気になったもので」
「まあ、このゲームに子供が一人だけというのもおかしいよね。何か裏がありそうな感じだね」
そう。フルダイブ型VRMMORPGは推奨年齢がある。さらにソフトのタイタンもまたR15指定。子供がプレイすることはできない。
ゆえに最初はカナタが子供姿のアバターを利用していると考えているプレイヤーも数多くいた。
「どんな裏があるのかは知りませんが、彼女から接触の連絡があり次第、そちらに報告します」
「頼むよ」
「あと、このことは他のプレイヤーには秘密で」
「うむ」
◯ ◯ ◯
レオが帰った後、キョウカはリーダー室に戻った。部屋には一人の女性がソファに座り、頬杖をついていた。
その女性は自我を持ったAIでタイタン側を管理しているセブルスであった。
キョウカはセブルスの対面に座り、「意外にもすぐ会えるかもね」と言う。
「どうだかな。あいつらだってウチらがカナタを見張っているってのは知ってるだろ」
「では何らかのトラップがあるだろうね」
「ああ。これはでかい戦いになるな」
セブルスは緊張した顔つきで言う。
「レオや彼のパーティーについて調べないのかい?」
「あん? んなもんとっくにログやら何やら調べてるよ。あいつがいつどこで奴らと接触したかもな」
「なら相手の素性についても把握済みなのかな?」
「4体だ。その内の1体はチェンという名だと判明。正式名称かどうかは不明だが、名前なんてどうでもいい。ようはそれだと判ればいいんだよ」
セブルス達にとって敵は敵なのだ。どのような名前、姿をしていようが敵個体と判明すればいいだけのこと。
あとは見つけて潰すだけ。それだけのこと。
「レオを仲間に入れては?」
「駄目だ」
セブルスは即答した。そこには少しだけ強い拒否が含まれていた。
「どうして? その方が楽だろ?」
レオは敵に接触している。なら、事情を話してこちら側に取り込めば色々と楽になる。レオはタイタンでも最強格のプレイヤーで発言力もある。この前の大規模パーティー計画はおじゃんとなったが、それでもタイタン内では有力株だ。
「あいつは駄目だ」
なぜかセブルスは頑なに拒否する。
「……そう。で、イベントはどうするんだい?」
どうして強く拒否するのかは不明だが、これ以上は追求しない方が良いと考え、キョウカはイベントの件について話を振る。
イベントはプレイヤーに目的を与えるためロザリー達が定期的に催している行事。
「続行だ」
「危険じゃないかい?」
イベントを実行すれば相手に隙を与えてしまうかもしれない。すでにこちらは後手に回っている。
「問題ない。奴らはタイタンにしか潜入していない。それなら炙り出すだけさ」
「具体的には?」
「いくつか案はあるが……まずはお前がカナタ抜きで奴らと接触しろ。いいか、カナタは絶対に接触させるな」
「分かってるとも。カナタと奴らが接触してしまえば負けなのだろ? いっそのことクルエールみたいにプレイヤーの中に入れるというのはどうだい?」
クルエール。中国側の自我を持った量子コンピュータ。葵達が捕らえて、今はユウというプレイヤーの中にいる。
「駄目だ。クルエールは色々な権能を剥奪された上でプレイヤーの中に閉じ込められている。けど麒麟児……カナタは違う」
「違うとは?」
「お前が知る必要はない」
そう言ってセブルスは立ち上がった。すると一瞬で姿が消えた。
しばらくして一人残されたキョウカは一息ついた。
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