第224話 Tー2 情報提供者

 掲示板に謎の書き込みをした情報提供者がレオパーティーとコンタクトを取りたいと連絡がきた。


 相手はレオ1人を指名して、ある問いを渡してきた。その問いを解くとある座標が現れ、その座標に向かう。


 しかし、その座標に向かえば、新たな問いと座標が現れ、レオは何度目かを数え忘れるほど指定された座標に移動した。


 そしてとうとう街の路地裏にドアのあるバーに入り、カウンターで待っていると中性的な女性が隣に座ってきた。


「あんたが情報提供者か?」

「そうだ」

「途中からイタズラかと思った。随分と手の込んだ案内だな」


 レオは肩を落としつつ苦言を述べる。


「こうでもしなければ相手にバレるんでね」


 そして背の低い女性のバーテンダーに酒を注文する。


「で、あんたは何者だ?」

「公安の者よ。ここではチェンと名乗ってる」

「本当に公安?」

「そうだ。外から無理にログインして入ってきた」

「なら証拠にログアウトしてくれないか」

「それはダメだ」

「なぜ?」

「ロザリーにバレると次にログインが出来なくなる」

「ふうん」

「怪しんでいるね」

「そりゃあ、いきなり私は外から来た者なんて言われて、はいそうですかと信じられるか?」

「なら、これは?」


 チェンは端末をレオに差し向ける。


「……!?」


 画面見て、レオは動揺した。

 チェンがレオに見せたのは外の情報だったのだ。

 未帰還者の事件に関する記事や動画データ。さらには事件とは関係ない外の情報もある。


「ほ、本物なのか?」

「ここでフェイクニュースを作るのは難しいだろ?」

「確かに」

「信じてもらえた?」


 レオはグラスの酒を一口飲んでから、

「……半信半疑だ。もし外の人間ならロザリーの目に付くような書き込みを掲示板にはしないだろ?」

「あ、そう。ま、いいわ。ただ、私のことは秘密で」

「仲間はいるのか?」

「ええ。私を含め4人が潜入。勿論、外にも仲間はいる」

「で、俺にコンタクトを取ったってことは何かして欲しいからなんだろ?」

「ああ。ロザリーの仲間を倒すのに手を貸して欲しい」

「仲間?」

「ああ。都知事を知っているな」

「……NPCのセブルスだったか?」


 レオ達タイタンプレイヤーが住む首都カシドニアの都知事でNPC。直接会ったことはないが放送で顔を見たことがあった。


「あいつ、ロザリーの仲間でタイタン側の管理者なんだ」


 レオが証拠はと言う前にチェンは端末からとあるデータを呼び出し、それをレオに見せる。


「……日本の量子コンピューター、それの自我データか」

「ああ。今回の件はシンギュラリティってやつさ」


 シンギュラリティ。よくSF作品等で使われる、AIが人間の手を離れ、活動をすることを指す言葉。反乱という意味も含まれている。


「つまりロザリーも?」

「そうだ」

 チェンは即答した。


 ◯ ◯ ◯


 レオが出て行った後、小柄な女性バーテンダーことニアールが、

「上手く嘘を言ったじゃん」

 とニヤリした笑みをチェンに向ける。


「嘘は言っていない。私がかは言っていないだけで、ここではフェイクを作るのはって言っただけ。それは間違いなく本当だろ」

「ものは言いようね」


 そう。公安といっても日本の公安ではない。そもそも公安という意味すらも違う。チェンが使った意味は国家非公開安全局情報工作部であり、略して『公安』。かなり無理のある言い方だが、人間を騙すには致し方のないこと。


 さらにここではフェイクを作るのは難しいが外では難しくない。レオに見せたのはここに来る前に作ったフェイク。勿論、中には本当のことも書かれている。


 人間よりも嘘のつけないAEAIはこういう風に主語をぼかたり、間違えを作り、一部本当のことを主張することで人間を信じ込ませることができる。


 いわゆる間違いの誘導というやつだ。


「で、あいつは使えそう?」

「恋人と妹が退場させられたんだ。その隙を攻めれば操るのも造作はないだろう」

「ふうん。でも、あまり感触よくないように見えたけど?」


 ニアールはチェンに小馬鹿にした顔を向ける。


「お前が掲示板に書き込みなんてしなければもっと状況は楽だったんだけどな」

「何言ってるのさ。あれはロザリー側を釣るためのものでしょ。そして見事釣れて、汚染完了」

「ふん」

「レオは釣れるかなー」

「問題はない。すぐに次の段階に移行できるさ」


 チェンはグラスの酒を一気に飲み干す。

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