第219話 Aー5 それぞれの岐路

 ユウは夜遅くにパーティーハウスへと帰ってきた。


「セシ、良い話があるよ」


 リビングに入るやユウはセシリアに告げる。


「え? 何?」


 リビングで2人掛けソファの上に寝転がりつつセシリアは適当に聞く。


「ホワイトローズに入れるかも」

「へえ〜。…………はあぁー!」


 驚きでセシリアは体を起こした。


  ◯ ◯ ◯


「……ということがあったんだよ」


 ユウは今日一日であったことをセシリアに語った。

 ホワイトローズは人手不足で人材募集しても集まらなく困っていること。そしてハイランカーでなくてもこの際、構わないということを。


「何よそれ。で、加入する気なの? あそこはハイランカーの集まりよ。私達のランク知ってる?」


 ユウとセシリアはまだ中級クラスに足を踏み入れた程度。

 対してホワイトローズは上級のさらに上の集まり。


「何が出来るって言うのよ? 足手纏いなだけよ」

「別に戦うことが全てではないし。雑用とかが出来れば……」

「何よ雑用って?」

「えっと、スピカさんは方向音痴だから道案内とか? ……あとはギルドの事務的なこととか」

「自分達が一撃で死ぬようなとこに道案内ですか?」

「モンスターはスピカさん達が倒してくれるから」

「で、自分達は何もせずにレベルアップ。でもランクはそのまんまと」


 パーティーを組めれば経験値も分配される。しかし、戦ってないためランクはそのまんま。このゲームではランクが真のレベルといわれ、ランクが低いとこのゲームではやっていけない。


「少しずつ強くなっていこうよ」

「少しずつね」

「ホワイトローズならコツとか教えてくれるよ」


 セシリアは頬杖をつき、クッキーを食べる。


「嫌?」

「どちらかっていうと嫌。合わない。もっと自分達の力量に見合うパーティーを探すべきよ」

「ホワイトローズも今は3人しかいないんだって」


 その言葉にセシリアはやれやれと首を振る。


「それってさ、私達が加入してホワイトローズの残り3人が解放権手に入れて逃げたらどうするの? また2人なの? そしたら他のプレイヤーに腫れ物扱いよ」

「スピカさん達は……」

「そんなことはないと?」

「ッ……」

「ホワイトローズが3人にまで減ったのは解放権を使ったメンバーがいたからでしょ? 今の3人も解放権を手にしたら使うんじゃない?」

「スピカさんはそんな人には思えない」

「それじゃあ、アンタはホワイトローズに入りなさいよ」


 その突き放す言葉にユウは胸が切り裂かれた気持ちになった。


「セシは?」

「私は他のとこに入るわ」

「でも、加入は難しいし」

「別にたいして難しくないわよ」


 セシリアは立ち上がって、リビングを出ようとする。


「セシ!」

「……いいんじゃない? これで?」


 と冷たく言い放ってセシリアはドアを開けて、廊下に出る。


  ◯ ◯ ◯


 セシリアは自室に戻り、ベッドにダイブした。

 そしてユウに少し冷たくしたかなと反省した。


 でも、あの選択には間違いはないだろう。


 ユウは他のプレイヤーから警戒されている。ならやっと見つけたギルドに入るのは良いことだろう。


 そして自分は弱い。でもユウはホワイトローズで活躍できる可能性がある。

 戦闘のセンスも高いし、この短期間でランクも60になっている。


「私はペリーヌのところにでも入ろうかしら……」


 ──でも……ユウと一緒にプレイした日はとても楽しかった。


 だが、これはデスゲーム。

 生きるためにはそれぞれが最善の道を選ばなくてはならない。


「私と一緒にいたらユウの足手纏いになる」


 セシリアは何度も自分に言い聞かせるように心の中で呟く。


  ◯ ◯ ◯


 リビングで椅子に座りつつユウはテーブルに視線を下ろしていた。


 ──いくらなんでもひどい。


 スピカ達が解放権を手に入れたら、さっさと使って逃げるようなと言われて腹が立っていた。

 だが実際にホワイトローズのメンバー何人かは解放権を使ったのも事実。そしてもしも時を考えておくのも重要。


「はあ〜」


 ユウは盛大に溜め息を吐いた。


  ◯ ◯ ◯


 一方、その頃ホワイトローズの屋敷では。


「はあ!? ユウを誘った!?」


 夕食の席でスピカにユウを誘ったことを伝えられリルは否定的な声を出した。


「リル、お行儀が悪いですよ。口の中のものが飛びますよ」


 とメイプルに注意をされる。


「飛ばないわよ。ここはゲームなんだから」

「マナーやエチケットをお忘れで?」

「あーもう。はいはい。分かりました」

「それで駄目なの?」


 スピカはリルに聞く。


「あのね。今は人が必要なの分かる? そんな中に腫れ物を仲間にしてどうするのよ。余計に入ってこないわよ」

「腫れ物?」

「アンタ知らないの? ユウってなぜかタイタンプレイヤーに狙われているのよ。アンケートでも上位だったでしょ?」

「ああ。そういえば」

「そういえばではないの。ユウは駄目!」


 リルは胸の前で腕をクロスさせバツを作る。


「でも彼はセンスあるよ。それにアンケート上位だったのは私達もだし」

「うっ」


 それを言われると言い返せない。


「で、でも、もっとさ、強い子を加入させたいわけじゃん。ね、メイプル?」


 話を振られてメイプルは、


「私は問題ないかと」

「ええ!?」

「直接会ったことはありませんがアルクさんやミリィさんともご一緒に活動されてたということはそれなりに実力はあるかと思いますし」

「実力は言えないけどセンスはある。これは私は保証するよ」

 とスピカは頷く。


「まあ、考えておくか」

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