第218話 Aー4 互いの利益

 湖畔に面したホワイトローズの屋敷、その一室で、

「どぅわぁーーー!」

 リルは頭を掻きむしる。そして何度もテーブルを叩く。


「どうした? 敵襲?」


 スピカが部屋に飛び込んでくる。


「違うわよ!」

「じゃあ何? 今の叫びは? 音は?」

「これよ、これ!」


 リルが端末を向けて画面を指差す。リルが作成したホワイトローズメンバー募集ページで、応募されてきたギルドやパーティー名が連なっている。だが今そこには『加入辞退』の表示が出ていた。


「辞退?」

「そう! こいつら応募してきたと思ったら辞退しやがってよ」

「間違えたんじゃない?」

「違う!」


 リルは強く言い切った。


「どうして?」

「これが初めてではないからよ!」

「え?」

「色んな奴が応募してきては辞退してくるんだよ」

「なんで?」

「んなもん冷やかしだよ! ウザ過ぎだよ!」

「……そうなんだ」


 スピカは溜め息を吐く。


 アヴァロンで長くプレイしていた身。すべてが上手くいっていたわけではない。中には衝突や亀裂が幾多もあった。


 だからといって、それに慣れているかといえばそれはまた別問題。


「難しい?」

「バチクソムズイ」


 リルは端末画面を睨みながら言う。


「ハーブティーです。気持ちを落ち着かせてください」


 メイプルがハーブティーを淹れたカップをテーブルに置く。


「味はするけど精神作用はないでしょ? 酒が飲みたいわ」

「酒を飲んでも酔わないよ」

「酔わないけど、飲まなきゃあやってらんないの!」


 リルは立ち上がり、部屋を出ようとする。


「どこ行くの?」

「ちょっと飲みに行く!」


 そして苛立った足取りで部屋を出て行った。


「荒れてますね」

 メイプルが心配そうに言う。


「そうね」


  ◯ ◯ ◯


 スピカもまた気分転換に町の外に出て、モンスター狩りを行った。


 ここは町からさほど離れていない草原エリア。それゆえモンスターもレベルが60ほどの雑魚ばかりであまり面白くなかった。


 本当はもっと強い敵を求めたいが、スピカは方向音痴ゆえ、遠出をすると仲間に心配をかけてしまう。


 今までは帰りが遅くても方向音痴だから遅くなったで済むが、今は勝手な行動と思われてしまうかもしれない。それに大事な時期だ。ゆえにスピカはなるべく遠出を避けていた。


「あれ? スピカさん?」


 後ろから声をかけられた。


 振り向くとそこにはユウがいた。


「君か。こんにちは」

「こんにちは。こんなところで何をしているんですか?」

「狩り以外何かある?」


 少し棘のある言い方だなとスピカは反省した。


「まあ、そうですけど。ここってレベル50程度ですよ?」

「私、方向音痴なの。君こそ一人では危ないよ」

「もうランクは60ですよ」

「そうか。ついこの前まで50超えたばかりなのにすごいね」

「今は頑張らないといけませんから」


 その顔に少し影が生じてるのをスピカは見た。


「大変なのかい? ……って、そうだった。君のとこはミリィもアルクもいなくなったんだね」

「ええ。今はセシリアと2人だけなんです」

「ギルドでパーティー募集やら合併募集の掲示板があるよ」

「知ってます。でも、なかなか承認されなくて」

「そう。そっちも大変だね」

「そっち? スピカさんも?」

「ええ。うちもメンバーが減って今は3人だけ。それでメンバーを募集しているのだけど、集まらなくてね」


 スピカは肩を落とす。


「お互い大変ですね」

「そうだ。なら君達、ホワイトローズに入らない?」

「いやいや、ホワイトローズはハイランカーのギルドじゃないですか。自分達なんかとっても無理ですよ」


 ユウは手を振って、拒否する。


「そんなことないよ。今はギルドというよりパーティーみたいなものだし。ランクなんて気にしないから」

「でも役には立てませんよ」

「いや役に立つよ」

「例えば?」

「さっき言ってたでしょ? 私は方向音痴だって」

「道案内」


 スピカは大きく頷いた。


「よし! ちょっと遠出しよう」

「遠出?」

「遠出といっても日帰りだけどね」


  ◯ ◯ ◯


「ほらそっち!」


 T-レックス型モンスター・メグザウルスを惹きつけつつ、スピカはユウに指示を出す。


「はい!」

「私が惹きつけているから後ろからどんどん切るんだよ」

「はい!」


 ユウは後ろに回り込み、ダガー・ウィンジコルで何度もメグザウルスを切り付ける。


 メグザウルスはレベル100。ユウでは到底太刀打ちできないレベル。


 しかし、スピカがタンク代わりに敵を惹きつけてくれているおかげでユウは倒されずに済んでいる。


「やあ!」

 

 ユウはメグザウルスの横腹を切り付け、とうとうメグザウルスは倒れた。


「うん。やっぱセンスあるよ。上級ランカーもそう遠くないじゃない?」


 スピカが刀を鞘に戻して言う。


「いえいえ、自分なんかがとても。やっぱキツイですよ」

「でも、ついてきてるってことはすごいよ」

「それは敵の攻撃をスピカさんが惹きつけてくれているからで」

「全てではないよ。それに敵の死角から巧みに攻撃が出来るってのはすごいことだよ」

「で、どう? うちに入る気ない? 私達は君達を育てる。で、君達は道案内役や事務の手伝いをする。Win-Winでしょ」

「でも、その前にスピカさんは他のメンバーに自分のことを聞いてみてください」

「どうして?」


 確かに勝手に承認しては怒るかもしれないが、ユウはスピカが見る限り、他のプレイヤーよりか伸び代がある。


「自分はタイタンプレイヤーに狙われている身です」

「ああ。そう言えば君、この前のイベントでアンケート上位にいたね」

「はい。だから」

「あのね。それを言ったら私達ホワイトローズもアンケート上位組だよ」

「え? あっ!? そうですね」

「だからさ、気にはしないよ」


 そう言われると少し楽になった気分になるユウであった。


「それでも確認をお願いします。それに自分もセシに聞かないと」

「うん。分かった。互いにメンバーに聞いてみよう」

「はい」

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