第217話 Aー3 申請

『ユウはタイタンプレイヤー達に目をつけられているでしょ?』


 だからユウだけはパーティーには入れられない。

 ユウは仲間だ。それを因縁があるとかで、仲間外れされるのはおかしい。

 だから、すぐに断るのが普通。


「ざけんな。ユウは私の大事な仲間だ」と啖呵を切ればよかった。


 でもセシリアは、「返事は後で」と答えてしまった。

 どうしてすぐに断らなかったのか。

 セシリアは大きく溜め息を吐き、テーブルに突っ伏した。


「なんでこうなった〜」

「何が!?」

「うおしゃあ!」


 独り言に返事が来てセシリアは驚き、跳ね上がった。


「ごめん。びっくりさせちゃった?」


 ユウがいた。いつのまにか帰ってきていたようだ。


「セシ、外に出てたの?」

「え?」

「一度戻ってきたんだけど家にいなかったからさ」

「ああ、うん。気晴らしにね」

「体調よくなったんだね。良かった」


 と言い、ユウはテーブルを挟んで対面に座る。


「……」

「……」


 会話が生まれない。

 気まずい空気が漂う。


「そ、そうだ。ケーキとジュースを買ってきたんだ」


 ユウは端末を操作してケーキが入った紙箱とジュースが入ったペットボトルをテーブルの上に出現させる。紙箱を開けて、中をセシリアに見せる。

 中にはガトーショコラに苺のショートケーキ、ミルフィーユ、モンブラン。レアチーズのケーキが。


「好きなのどうぞ。あとジュースもあるからね」


 ジュースはりんご、コーラ、ジンジャーエールの3本のペットボトル。


「かなりの数ね」

「でも、ここだといくらでも食べれるでしょ?」


 そう。ここはゲーム世界。どれだけ食っても太ることもなく、満腹感もない。

 あるのは味だけ。


「そうね」


 セシリアはモンブランとコーラを。ユウはガトーショコラを選ぶ。


「ジュースは?」

「コーヒーでいいや」


 ユウは立ち上がり、そしてキッチンに向かう。

 セシリアは棚から皿とフォーク、コップをそれぞれ二つ取り出す。


  ◯ ◯ ◯


「そうだ。俺達2人だけになったし、仲間でも増やす」


 ケーキを一口頬張ったあと、ユウは提案する。


「えっ、ええ、そうね」

「もしくはどっかのパーティーかギルドに加入申請するとか?」

「まあ、それもいいわね」

「セシは知り合いとかいる?」

「え?」

「俺はゲーム始めてこんな目にあったから知り合いはいないからさ。セシはいるんでしょ?」


 知り合い。それはペリーヌことだ。

 そのペリーヌに参加しないかと誘われた。

 でも、それはセシリアだけでユウは反対されている。


 ──話すべきかな? ううん、話したところで……。


「いないわ。加入なら、どっか探すべきね」

「それって、どうやってするの?」

「ギルドに掲示板があって……ギルドはプレイヤーのでなく、ゲーム内にあるNPCのギルドよ」

「前にジョブチェンジしたときの?」


 ユウがジョブチェンジした際に訪れた役所みたいな施設。


「そう、それ。そこに募集の貼り出しがあるの」

「へえ」


  ◯ ◯ ◯


 翌日、ユウとセシリアはギルドに足を運んだ。目的はギルド募集版。


「こっちよ」


 セシリアが前を歩き、ユウを案内させる。

 ギルド募集版はギルドに入って左奥の壁にあった。壁にはたくさんのパーティーやギルドメンバー募集のチラシが貼られていた。


「オススメとかあるの?」

 ユウはチラシを見つつ聞く。


「ないわよ。こういうのはちゃんと見て、考えて入るのよ」

「ふうん。……なら、こういうのは?」

 ユウは手前のチラシを指して聞く。


『【承認制】初心者大歓迎! 皆、きさくで仲良いギルドです。ノルマはありません。一緒にプレイしましょう。募集期間残り13日』


「ダメダメ。こんな状況で初心者大歓迎って怪しすぎ。募集条件が漠然としているのは怪しいの。それに募集期間のある承認制よ。矛盾でしょ?」

「承認制?」

「いわゆる募集終了後、向こうが採用か不採用かを決めて、プレイヤーに通知するやつよ」

「でも、それを言ったらどれも募集期間のある承認制だよ」


【自動承認制】が書かれたチラシはなく、全てが【承認制】であった。


「ま、この状況なら仕方ないよね。なるべくランク条件やジョブとか……私達の場合はパーティー合併案のあるところがいいかな」

「なるほど」


 ユウ達は条件の良い、チラシを探し始める。

 その中でペリーネのパーティーメンバー募集のチラシを見つけた。


「それ? 気になるの?」


 セシリアがじっとチラシを見ていたのでユウは聞いた。


「違う。なんでもない」

 セシリアは違うチラシを読み始める。


「あ!」

「どうしたの?」

「これホワイトローズのギルメン募集チラシだ」

「へえ」


 セシリアは横からユウの持つチラシを見る。


「ハイランカーだから無理ね」

「ハイランカー募集とは書いてないよ」

「書いてなくてもハイランカーじゃないと無理でしょ。他を探すわよ」


 それから二人は一つのパーティー合併案を謳っているチラシを見つけ、それに応募することにした。


「応募ってどうするの? チラシを持ってギルドの受付で申請?」

「その必要はないわ。そこにQRコードがあるでしょ。それを端末のQRコード読み取りアプリを使って読み取るの」


 セシリアは端末を取り出し、読み取りアプリを起動する。

 そして端末の画面は枠のあるカメラモードになり、その枠の中にQRコードを収める。


「待って! カメラ!? え!? カメラ機能なんてあったの?」

「え? あるよ。普通に」

「……知らなかった」

「まあ今はカメラ使えないからね。QRは大丈夫ってのが不思議よね」

「カメラ使えない?」

「このイベント──囚われた時からカメラが使えないのよ。さて、ここにパーティー名やメンバーの名前とかを記入するの」


 セシリアはユウに画面を見せる。

 そこにはパーティー名やメンバー名、ランク、ジョブ、個人IDなどの記入欄があった。


 セシリアは記入を始め、「ここに指を数秒触れて」と個人ID欄を指差す。


「触れるだけ?」

「そう」


 ユウは個人ID欄に人差し指を当てる。

 数秒後、ランダム配置された13文字の数字とアルファベットが現れた。


「へえ、押すだけでいいんだ」

「IDはね」

 と言い、セシリアは最後に送信ボタンを押した。


「これで完了」

「あと待つだけと?」

「そうよ」

「他にも応募しておく?」


 ユウは他のチラシを指差す。


「それはできないわ。一つ応募すると他には応募できないの。もし他の募集に応募するなら取り消し申請して2日待たないと」

「2日? どうして?」

「迷惑行為を禁止するためとかだったかな? おふざけでハイランカーのギルドに募集してキャンセルするやつとか」

「なんでそんなこと?」

「嫌がらせでしょ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る