第234話 Aー7 分岐
ユウがホワイトローズへ訪問している時、セシリアはかつてのパーティーメンバーであるペリーヌに会っていた。
場所は喫茶店。
話の内容は入隊についてのこと。
「え? ユウがホワイトローズに? なんで? ゲーム内に囚われた時は初心者だったんでしょ?」
セシリアがペリーヌに現パーティーメンバーのユウがホワイトローズへと誘われたことを告げると驚かれた。
「うん。スピカって人と縁があってね」
「……へえ。なんか怪しい」
眉を寄せてペリーヌは訝しんだ。
「怪しい?」
セシリアは反芻するかのように問う。
「そりゃあ、そうでしょ。だって初心者がタイタンプレイヤー達に目をつけられ、さらにスピカ達ハイランカーとは仲が良いんだもん。絶対裏があるよ」
「ないよ裏なんて」
セシリアは馬鹿馬鹿しいと一蹴する。
けれど、
「本当に? 実は元タイタンプレイヤーだったんじゃない」
「元タイタンプレイヤー?」
「そう! ここに来る前はタイタンプレイヤーだったのよ。そしてチーターだった。それでタイタンを抜けてアヴァロンに来たのよ」
チーターとはチート行為をする悪質なプレイヤーを指し、運営からの垢BAN対象となる者達のこと。
「ないない。チーターなわけないじゃん。何も知らない初心者よ。ちょっと前までジョブやランクとか知らなかったのよ」
ジョブやランクシステムはアヴァロンだけでなくタイタンでも取り入られているシステムだ。
もしユウが元タイタンプレイヤーならそれらのことを知っていたはず。
「フリをしていたとか?」
「ないないない」
手を振ってセシリアは否定する。
「じゃあなんでタイタンプレイヤーに恨まれているのよ」
「偶然よ。偶然。うちにアムネシアのミリィがいたでしょ。それでよ」
「でもこの前のランキングでミリィを上回ってランクインしてたじゃない」
そのランキングは前回の鬼ごっこイベントでタイタンからアンケートが取られて出来たイベント参加ランキングのこと。
そのランキングにユウが上位にランクインした。
そしてそれはアヴァロン内でも騒然となった。
このユウという人物とは何者なのか。
色々な憶測が飛び交い、先ほどペリーヌが言っていた元タイタンプレイヤー説が一部のアヴァロンプレイヤー内ではまことしやかに囁かれている。
「たぶん倒しやすいからでしょ? ランクは低くてもミリィもなんだかんだで古参クラスだし。それならついこの間まで右も左も知らないユウが選ばれたんでしょ?」
「本当に〜?」
「そんなことよりそっちのパーティーへの入隊の件よ」
「ああ。セシリアはこっちに入るの?」
「その答えの前に、ユウは駄目なの?」
「駄目」
ペリーヌは即答した。
「グレーな奴は入れられない」
「だから普通のプレイヤーだって」
セシリアは溜め息交じりに言う。
「それを『はい、そうですか』で済むと? 証拠もないんじゃあ……あっ!」
「ん?」
ペリーヌがある方向を見て、声を上げたのでセシリアもそちらへと顔を向けた。
そこにはユウがいた。
「あ!?」
「そ、それじゃあ、私はこれで。またね」
と言い、ペリーヌはそそくさとその場を去って行く。
「…………」
「……座りなよ」
セシリアは視線を外してじっと突っ立っているユウに着席を促す。
「うん」
2人に重い無言の空気がのし掛かる。
先に口を開いたのはユウだった。
「さっきの子は?」
「ペリーヌ。前に所属していたパーティーの子」
「そうなんだ。……そのパーティーに入るの?」
「どこから聞いてた?」
「聞いてたというか、近づいたら聞こえて。なんか声をかけるタイミングが……」
「そういうのはいいから。どこから?」
「ええと、俺がなんか怪しくてグレーてとこからかな」
「気にしなくていいよ。勝手に言ってるだけだし」
「うん」
「そういえば、ホワイトローズの件は?」
「話をしてきたよ。今は猫の手も欲しいからセシも大歓迎だって」
「猫の手……ね」
それは使えない人間ってことでもある。
「解放権についても皆が手に入れたら一緒にって考えらしいよ」
「本当かしら?」
「本当だよ。現にスピカさんは持ってるけど使ってないらしいよ」
「ふうん」
「セシはやっぱり嫌?」
「今さ、ペリーヌにパーティーに入らないか誘われてるの」
「そうらしいね。……入るの?」
「良い機会じゃない? アンタはホワイトローズ。私はペリーヌのパーティー」
「セシはホワイトローズに入りたくないの?」
「そうよ」
セシリアはキッパリと言った。その目には一切の曇りなき意志があった。
「でも離れ離れに?」
「いいじゃない」
その言葉は刃となり、ユウの胸に突き刺さった。
──そんな顔しないでよ。
ユウの沈痛な面持ちはセシリアの決意を揺るがそうとする。
「今まで一緒にやってきたじゃないか!」
「あのね。私達、会ってまだ数ヶ月程度よ。パーティーを組んだのもたまたまだし、お互いベストなとこで頑張った方がいいんじゃない?」
そう言ってセシリアは立ち上がり、喫茶店を出る。
独り残されたユウはしばらくの間、テーブルをじっと見つめていた。
その目は悲しい色をしていた。
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