第235話 Aー8 談話
パーティーハウスに戻ってきたユウはリビングには伺わずに直で自室に入った。
そしてベッドへとうつ伏せに倒れ込む。
セシリアとどう顔を合わせばいいのか分からなかったのだ。
セシリアはペリーヌのパーティーへ。そして自分はスピカのホワイトローズへ。それは間違ってはいないのかもしれない。けれどそれを飲み込めるほどユウは納得できなかった。
答えのない──いや、答えの出た問題。もう考える必要のないこと。それでもユウは本当にこれで良いのかと再考し、悩み、いくつかの答えを出し、そしでまたそれらを消して、先の結論に回帰する。
それを何度も。
意味もなく繰り返す。
そんな悩みを中断するかのように軽快なポップ音が頭の中に
その音はロザリー特有のメッセージ音。
ユウは寝転んだまま端末を取り出し、メッセージを開封する。
音声付きメッセージで、
『皆さーん、こんにちはー。次回のイベントが決定しましたので、それの告知をさせていただきまーす。次は救出イベントでーす。内容はアヴァロン、タイタン各々5つの島に100名のプレイヤーのライバルプレイヤーが閉じ込められます。それをプレイヤー達が救出するという至って簡単なイベントとなっておりまーす。詳細は別途添付のメッセージ内容をお読み下さーい』
そして音声メッセージが切れた。
ユウは別途添付のメッセージを開封することもなく、端末を閉じて目を瞑った。
そこでやっと自分の中にクルエールがいることを思い出した。
自分の中にそれがある限り、この偽りのデスゲームから脱出は出来ないのだ。
それはつまりセシリアにも迷惑がかかるということ。なら、ここで別れるのが正しいというものだろうか。
──ああ。それを言えばスピカさん達にもか。
スピカ達ホワイトローズは皆が解放権を手に入れるまで使用しないと言っていた。それならずっといる自分は迷惑なのではとユウは考えた。
──加入の件は断るべきだろうか。
◯ ◯ ◯
高原の上にユウはいた。
すぐにユウはここは夢だと気づいた。
そしてこんなことが出来るモノ達についても心当たりがあった。
小さい丘の上に東屋があった。
ユウはそこへ向かい歩き始める。
その東屋には彼女達がいた。
「何か用?」
少しぶっきらぼうにユウは聞く。
「すみません急に」
椅子に座っている彼女達の中で黒髪の女性が頭を下げる。
彼女は葵。AEAIの1体。
「イベントのことだそうよ」
金髪少女が答える。
彼女の正体は分からない。AEAIとは違う何か超常めいた力を持つ存在ということだけは分かっている。そして葵達に力を貸しているということも。
「ハロ、ハロー」
そしてこの場にもう1体いた。
それは──。
「ロザリー」
ユウは忌々しげに彼女の名を発する。
ロザリーはプレイヤー達にゲーム世界に閉じ込めた張本人として顔を露わにし、そしてイベントでの進行をしている。
プレイヤー間でロザリーに対して良い顔ができるものはいないだろう。
「アハハハ、そんな嫌そうな顔をしないでよ。えっと、会ったことはあるんだけど、君は知らないから初めましてだね」
「で、イベントについて何?」
「まずお座りください」
葵は空いた席に座るよう促す。
ユウは彼女達に対面するかたちで椅子に座る。
「実は次のイベントへのプレイヤーの配置はランダムなのですが、貴方の場合は特殊なのです」
「クルエールの件だよね」
「はい」
「で、どうするの?」
「実はタイタンの方で攻撃受けてさー」
とロザリーが言う。
「攻撃?」
「そう。奴らが攻めてきたのよ」
「ええと……プリテンドだっけ?」
「そう、それ。で、中国当局側のAEAIが襲ってきたの。そのせいで次のイベントはそいつらを囲み、かつ倒すという意味もあるわけ」
「なるほど。表向きはプレイヤーだけど裏では敵を倒すためのと」
「理解よくて助かるわ」
「でも逆に危険じゃないの? 相手が襲ってきたなら、むしろ今は危険なんじゃない? 相手を倒してからイベントを開始したら?」
ユウの指摘にロザリーは固まる。
「……もしかして何か隠してる?」
「理解が早い子はやっぱ嫌い」
「葵、どうなの?」
「はい。実は相手がタイタン側にいるのですが、どこに潜伏しているのか分からず」
葵が申し訳なさそうに答える。
「何それ? やばいじゃん」
「いやいや、やばくないよー。次のイベントフィールドはしっかりしてるよ。これで敵を誘き寄せて倒すよ」
ロザリーはサムズアップして言う。
しかし、どこか信用できずユウは、
「敵の数とか能力は把握してるの? 不明だったらやばいからね」
「一度接触して戦闘になったの。あれなら倒せるよ。ね?」
ロザリーは肯定を求めて葵に振る。
「絶対とは言い切れません」
「葵ー!」
「分かったよ。今の状況がね。それで次のイベントでどのように対処するの」
「簡単に言えばフィールドに誘き寄せて倒す」
「シンプルすぎない?」
「彼女らも時間と自由がありませんから乗ってくると考えられます」
「彼女? 女性なの?」
「機械である私達に性はありません。見た目状で『彼女』と使わせてもらっております」
「ふうん。それって姿形を好きに変えれるってこと?」
「ええ。私達は自由ですけど、彼女らは潜入が大事なので不必要に姿形を変えることはないでしょう」
「それでイベントでは俺はどうなるの?」
「念には念というわけで不参加だよ」
とロザリーが答える。
「それって大丈夫なの?」
「問題ないよ。今回は両陣営が各々5つのフィールドに別けられるからね。つまり10のフィールド。そんなわけで、他のプレイヤーがいつどこで何をしているかなんて分からないってこと」
「……不参加ね」
「不満?」
「それもあるけど、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「俺はいつまでここにいればいいの?」
「勿論、終わるまでだよ」
「実は今──」
ユウはアヴァロン内での今の現状について色々話した。
「なるほどね。君は終わるまでここにいるから他の人に迷惑をかけるかもしれないと」
「うん。スピカさん達はパーティー全員が解放権を手に入れるまで使用しないって言ってる」
それはつまりユウがいる限り、ずっとここにいるということ。
「なら、君も手にすればいいじゃない?」
「いや、だからさ、俺はここに……」
「ここにはいるけど解放権を手にできないわけではないでしょ?」
「え?」
「つ・ま・り、君は解放権を手に入れて使用してもここにいるってこと。で、パーティーの皆は解放。どう?」
「……」
ユウは顎に指を当て、考えた。
確かにそれなら問題はない。
ホワイトローズの皆で解放権を使用。そしてユウを除く皆は解放。
「でも他のプレイヤーには俺だけが残ってるのはおかしく見えないか?」
「うん。そうだね」
「そうって、それじゃあ……」
「それが嫌ならホワイトローズには入らないことね。独りでプレイしたら?」
ロザリーは冷たく突き放す。
「そんなに深く考えなくていいんじゃない? ハイランカー揃いのホワイトローズといえど解放権なんて簡単に手に入らないわよ。なんなら手に入らないよう細工でも……」
「ロザリー!」
ユウは怒鳴った。不正行為には許せなかったのだ。
「冗談よ。やーね」
「ロザリー、言い過ぎです。ユウさん、ごめんなさい。でも、私もホワイトローズに加入することをお薦めします」
「どうして葵はそう考えるの?」
「まずユウさんはこのままこの世界に居続けてもらいます。しかし、それはユウさんのランクでは過酷なことです。ですのでハイランカー達といることがユウさんにとって能力の向上が期待されると考えられます」
「そして皆と解放権を使い、俺だけが残ると」
「はい。その後で他のプレイヤーがスピカさん達を罵ろうが、本人達はもういません。そしてユウさんは同情されるはずです」
「……同情」
「はい。今のユウさんは噂により、立場が危ういのでしょう?」
「まあね」
元タイタンプレイヤーや、チーターと言った噂がアヴァロン内でまわっている。
「非情な目に遭えば、同情を誘えるかと」
「なんかダサいな」
ユウは苦笑した。
「これも一つの手とお考え下さい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます