第233話 Aー6 面接
「……遠い」
ユウはホワイトローズの屋敷の前で足を止めてぽつりと呟いた。
ホワイトローズの拠点が郊外にあるとは以前アルクから聞いていたがまさか丘と林を越えた先とは思ってもいなかったようだ。
深呼吸すると今更だが緊張が訪れる。
しばらく自身の中で今日の目的、そして彼女達への挨拶と質問を心の内で反芻する。
一通り落ち着いた後でユウはドアをノックし、名前を告げた。
しばらくしてドアが開き、黒を基調としたシックなメイド服の女性が現れた。
「初めまして。私はメイプルと言います」
「自分はユウと言います。今日はスピカさんとの約束で訪れた次第です」
「はい。伺っております。どうぞ」
メイプルは微笑み、ユウを中へと案内する。
「遠かったのでは?」
「え、いえ、そんな」
「ゲーム内では疲労がないとはいえ、面倒くさいでしょう?」
アヴァロンやタイタン。ゲーム内では肉体的疲労存在しない。ただ精神的疲労はあり、遠距離移動やアイテムドロップのため何度も同じモンスターを狩るのはつらい。
「いずれここも引き払う予定なのです」
「そうですか」
「三人だけではここは広くて」
とメイプルはどこか悲しそうに言う。
きっとここには仲間との思い出が残っているからなのだろうとユウは考えた。
「こちらです」
そしてあるドアの前に止まり、メイプルはノックする。
中から知らぬ女性が返事をする。
メイプルはドアを開き、中へと入る。
ユウも続いて、お辞儀して中へ入る。
応接室にはスピカともう1人ユウの知らぬ女性がいた。
少し背の低い女性で活発な雰囲気を持っている。
「そこへ座って」
と見知らぬ女性が対面の席をユウへと促す。
「どうも初めましてユウです」
ユウは席に座り、挨拶をする。
「うん。初めまして。私はリル。一応ホワイトローズの現リーダーよ。で、こっちはスピカ。もちろん知ってるよね」
「はい」
スピカとは付き合いがある。それに今回の入隊の件もスピカによって話が持ち込まれたのだ。
「あとはメイプル。そっちのメイドの子ね」
紹介されたメイプルは紅茶の入ったカップをテーブルに置く。
「これが全部。今は三人だけなのよ。本当はスピカがリーダーを務めるべきと思うのだけど、本人が嫌がってね」
「私には向かない」
とスピカは言う。
それに対してリルは肩を竦める。そして、「で、君は入隊したいの?」と聞く。
「その前に質問いいでしょうか」
「そう言えば、そうだったわね。何?」
なんでも聞いてちょうだいとリルは言う。
「今のパーティーに1人仲間がいまして。その子も……いいですか?」
「本当はランクとかそういうの気にしたいんだけど、今はそんなこと言ってられないからね。ただ、めんどくさい子や変な子はNGよ」
「普通です。魔法が得意な女の子です」
「そう。で、なんでその子は来てないの?」
「他にも聞きたいことがあって」
「何々? どんどん聞いてちょうだい」
「解放権を手に入れたらどうするんですか?」
「? そんなの使うわよ。ちなみに実際はチケットみたいなもので解放券が正しいわね。それが何?」
なんでそんな馬鹿な質問をとリルは言う。
「いつ使うんですか? 手に入れたらすぐですか?」
「なるほどね。自分達が残されてしまうと危惧しているのね」
「はい」
「私達は原則としてチーム……いえ、パーティー全員が手に入れてから解放券を使用すると決めているわ」
「でも原則ですよね」
「ええ。使うか使わないかは結局はその人自身が決めるからね」
解放券は他人への譲渡や別の場所へ保管することが出来ない。
「信じられない?」
スピカが聞く。
「えっ、えっと」
そう聞かれた際の受け答えは前もって考えていたが、いざ直接言われると言葉が喉から出てこなかった。
「私は解放券を持っている」
「え!?」
「本当よ。こいつ解放券を持ってるの。でも私とメイプルが解放券を手に入れるまで使わない気なのよ」
リルが呆れたように言う。
「そうなんですか?」
ユウはスピカに問う。
「本当よ。ほら」
問われたスピカは端末を操作して貴重アイテムメニューから解放券を見せる。
「本当だ。……持ってるんですね。でも、どうして使わないんですか?」
「この2人だと心配だから」
「じゃあ、あんたがリーダーを務めなさいよ」
とリルが横から文句を言う。
「私は人を纏めるには向かない」
「だ、そうよ。で、どうなの? 入隊する?」
「あの、返事は今日のことを仲間に伝えてからでいいでしょうか?」
「いいわよ」
とリルは即答した。
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