第201話 Mー8 スピカVSケイティー

 ハイランカーの中にもランクがある。スゥイーリアを筆頭とした神クラスと呼ばれるものや、レオやエイラのような上位ハイランカー、風変わりな能力を持つ変則ハイランカー、そしてただのハイランカーと。


 ケイティーは性格的な面から変則ハイランカーと見られるが、実際はただのハイランカーに位置する。


 対してスピカは上位か、もしかは神クラスに足を踏み入れた存在。


 ケイティーは内心でこれは時間稼ぎくらいが限界かなと悟っていた。それでもアリス──いや、彼がユウを倒すまで引き留めておかなくてはと決意していた。


 その彼とはレオのことだ。谷を抜ける前にレオから連絡があり、こちらに全速力で向かっていると伝えられた。


 あの時はレオが来る前に自分がユウを倒すと考えていたが、まさかスピカがユウと共にいるとは予想外だった。


 そのスピカが目の前にいて、冷たく触れただけで体が縮こまるような鋭い闘気を放っている。そして一気に間合いを詰め、右袈裟懸けの斬撃を繰り出してくる。


 ──くっ! 速い!


 ケイティーはなんとかナイフ2本で斬撃を防ぐ。腕に衝撃が伝わり、ぶるぶると震える。


 ──重い!


 後方に退くと背中に大木が当たる。


 ケイティーは一呼吸した後に垂直に飛び、そして高い位置から幹を蹴り高速で移動。

 そしてスピカの上空に来るや。


「くらえ!」


 どこから取り出したのかというくらい、無数のメスをスピカへと投げつけた。その後、周囲の木々を蹴ってジクザクに下へと落ちる。


 スピカは風魔法でメスの雨を薙ぎ払い、変則的に落下してくるケイティーに向けて跳び、刀を振るう。


 対するケイティーは幹を強く蹴り、落下速度を上げ、腕を回してナイフを強く振る。

 力かはたまた技術の差か、落下していたケイティーは上空へと吹き飛ばされた。


「ガッ!」


 ケイティーはくるりと上空で回転し、幹を蹴り、ジクザクに木々の間を抜けて地面に足の裏を着ける。


「そのナイフはヒヒイロカネで出来ているんですか?」


 続いて地面に着地したスピカが問う。刀は鞘に収められている。


「何ですか? そのヒヒイロカネとは?」


 勿論、意味は知っていた。だけど、時間稼ぎとして知らぬふりをして相手から言葉を引き出させる。


「最上級の金属です。その金属で出来た武器や防具は破壊がされない代物になるのです」

「こちらではオリハルコンという名前ですけどね」

「オリハルコン。ファンタジーで出てくる金属ですね」


 それにはケイティーもふと笑った。


「そうですね。SF要素の強いタイタンには不向きな名前ですよね」


 そのオリハルコンもまたスピカの言うヒヒイロカネと同じく破壊不可である。

 たぶんそれはスピカにも筒抜けであろう。だからこその武具破壊に関する会話。


「武具破壊不可。厄介ですね」


 スピカは鞘から刀を抜く。


 ──浅い! 間合いから離れすぎている!


 刀の軌跡の外にいたが、ケイティーは咄嗟にナイフ2本を盾にする。


 一見意味のない行動だろう。


 しかし、ケイティーの判断は間違ってはいなかった。


 真空の刃がケイティーを襲ったのだ。


「かまいたちですか? 本当に厄介な技をお待ちで」

 ケイティーは大木の後ろに隠れて言う。


「そちらもアーツという技があるでしょ?」


 スピカはもう一度かまいたちを放ち、周囲の木々を斬り倒す。


「周囲の木々丸ごとですか」


 ──仕方ない。


 ケイティーは姿勢を低くし、そして力強く地を蹴った。


 ──アーツ『ゴルンノヴァ』


 ケイティーが持つ2本のナイフが強く光り輝く。そしてケイティーは間合いの前で大きくナイフを連続で振るう。

 するとナイフから光の刃が飛び出し、スピカへと襲いかかる。


「光るかまいたちってところですかね」


 スピカは光の刃を避けたり、刀で弾いたりして防御をする。

 光の刃は弾けて粒子となる。


「まだまだいきますよ!」


 ケイティーは何度もナイフを振り、光の刃をスピカへと放つ。

 無数の光の刃は弾けて、粒子となり視界を埋める。


 やがて攻撃が止み、スピカはかまいたちを前方に放ち、そして粒子の霧を抜けるが、そこにはケイティーの姿はなかった。


「いない?」


 いや、いる。しかし、気配が曖昧。近くにいるということだけが分かる。

 気配遮断系のアビリティ、もしくはスキルを使っているのだろう。


 スピカは目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませる。


 風が当たって葉が揺らぎ、枝が軋む。

 光の粒子はたゆたい。粒子の濃いところは風によって伸ばされ、薄くなる。


「! そこ!」


 スピカは後ろ振り返りつつ抜刀。

 ケイティーは黒く輝く2本のナイフを振っていた。


 刀と黒いナイフ2本がぶつかる。

 大砲を放つような轟音が鳴り響く。


「重い!」


 その言葉を吐いたのスピカだった。


 先程までぶつかれば力負けして飛ばされていたのはケイティーだった。それが今はスピカだった。

 その原因はアーツであった。


 アーツ名『ブラッドエクリプス』。


 HPと防御力を犠牲にして攻撃力を大幅に上げる技。

 デメリットが大きいため、めったでは使用されないアーツ。


 しかし、今回は相手をといけないために使用。


「次、アーツ『トルネアス』」


 ケイティーが叫んだ。するとナイフの刃から横向きの竜巻がスピカを襲う。

 スピカは体を大きく押されて後方へと吹き飛ばされる。


「これで終わりです」


 ケイティーは起爆スイッチを押した。


 するとスピカが飛ばされた方角から大爆発が発生。

 爆風と爆炎が森の木々を吹き飛ばす。


「やりま……」


 ケイティーの周囲が同じように爆発した。


  ◯ ◯ ◯


「ふう。疲れました。にしても考えることは……同じですか」


 スピカはケイティーの消滅を確認して呟いた。


 実はスピカもまた魔法札を周囲の木々に貼っていたのだった。


 そしてケイティーにより吹き飛ばされ、爆弾による攻撃を受けたとき、スピカも爆裂魔法を同時に発動させていたのだ。


「しかし、HPだいぶ削られましたね」


 約7割近くのHPが削られていた。

 スキルに自動回復があるが、安心できるHPまで回復するのに少し時間がかかりそうだ。

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