第200話 Mー7 スキル

 ジョブクラス3の魔法剣士のプレイヤーは多い。


 魔法と剣のファンタジーのいえば、やはり誰もが想像するのが勇者ブレイブなのだろう。そしてその勇者に最も近いジョブが魔法剣士。


 その他にも魔法は攻撃だけでなく、回復や補助魔法があるためソロプレイヤーに重宝されるのもまた理由の一つだろう。


 魔法というものは使、購入すれば使用可能となる。


 使用可能になれば、いつでも使えるというわけではない。そこでもまたが必要とされる。


 この2つの熟練度のため習得とした魔法を自由に使えるには時間がかかる。


 だが、アルクがジョブクラス3の魔法剣士であるのは、別の理由があった。


 それはジョブ専用スキル。


 ジョブ専用スキルは対象となるジョブでプレイすると手にすることができるスキルのこと。そしてこのジョブ専用スキルは類似ジョブ以外では使用が不可である。


 そして魔法剣士には「魔法剣」というジョブ専用スキルがある。文字通り、剣に魔法をエンチャントする技である。


 それがアルクが魔法剣士であり続ける理由である。

 スキルにもレベルがあり、現在アルクの魔法剣のレベルは最大レベルの5である。


 アルクは大剣に火魔法をエンチャントさせた。蛇のように炎が剣に巻きつき、そして膨らんだ。炎はぐるりぐるりと走り回る。それはまるで炎の竜巻のようだった。


 魔法剣のスキルレベルが5ゆえに炎の竜巻が生まれるまでほんの一瞬の出来事だった。


「くらえ!」


 アルクが剣もとい炎の竜巻を敵へと叩きつけた。

「ぬうわぁぁぁ!」

 敵はライフルを盾にして防ごうとするが、炎が敵を飲み込む。


 炎の竜巻は溶けて、周囲の地面や木々を赤色に染める。


 敵の焼失を確認してアルクは一息ついた。


 ──これで終わった。……いや、まだだ。


 あの少女とアリスというプレイヤーが動いている。

 アルクは端末を取り出してユウに連絡を取ろうとする。しかし、発信音鳴るのみで一向に繋がらない。


 ──もしかして!?


 早く行かなくてはと南へ足を向けた時。

 1人の青年が突如として現れた。


 ──タイタンプレイヤー!? また!?


「えらい炎の竜巻だからハイランカーのスピカと考えたんだが、これは違ったようだな」

「残念だったね」


 アルクは剣を構える。


「お前は確か……アルクだったかな?」

「あら? タイタンプレイヤーに名前を覚えられるなんて驚きね」

「ユウのパーティーメンバーだよな」


 ユウの名を聞いて、アルクの眉がぴくりと動く。


「なんでユウを?」

「俺の恋人が世話になってね」

 敵は暗い感情が篭った言葉を吐く。


「? リアルでの知り合い?」

「いいや。リアルでもゲームでも会ったことはないな?」

「意味分かんない。恋人を寝取られた?」


 といってもユウは肉体的性別は女性だ。


 ──いや、女同士でも……そういうのはあるな。待て、実はこいつがそっち系で恋人が肉体的性別は男性とかで……。


「殺されたんだ。この前のイベントでな」


 その言葉で導かれるのは──。


「エイラの彼氏さん?」


 ユウは前のイベントでハイランカーのエイラを倒した。そしてそれが直接的な原因かは知らないがエイラはポイント不足で消滅させられた。この世界からの消滅は死を意味する。


 だから、この男は殺されたと言ったのだろう。


「ああ」


 男は拳を握り、苛立ちを抑える。


「お前には恨みはないが、ここで死んでもらう」

「やなこった」


 アルクは一気に駆け込み剣を振るう。

 それを男は軽々とダガーで防ぐ。


 ──こいつもハイランカーかよ!?


「俺の名はレオ」

「こっちは名乗らなくていいよね」

「ああ」


 そもそも律儀に名乗る必要はないはず。アルクは少しおかしく感じた。


  ◯ ◯ ◯


 アルクが戦闘を始める少し前に時は戻る。


 ユウとスピカは谷から南の方角にある森の手前に辿り着き、アルクを待っていた。

 スピカが何者かの視線を感じ取り、ユウにこっそりと話す。


「誰かに見られている」

「アルクの言っていた?」

「いや違うだろう。そいつらはアルクの後ろをけているのだから、別のやつだ」

「どうします?」

「まず森の中に少し入ろう。ここだと遮蔽物がなく狙われる」


 2人は森へと少し足を踏み入れた。そして木を背にする。


「襲ってきたら私が倒す」

「俺は?」

「君は何もしなくていいから」

「で、でも……」


 ユウがしょんぼりするので、


「なら、囮になって」

「それなら」


  ◯ ◯ ◯


 囮作戦は成功した。


「やりましたね」

「ええ」


 しかし、スピカは少し違和感を感じた。

 なぜこうも

 まるで初めからユウを狙っていたような。


「それより戻りましょうか。ここだとアルクとすれ違ってしまいますし」


 今、2人がいるのは合流ポイントから森に入って少し西のエリアだった。


「そうね。あと、連絡しておきなさい」

「はい」


 ユウは端末を取り出し、アルクと連絡を取ろうとする。


「あれ? 繋がらない」

「もしかして戦闘中?」


 アルクは2人に尾けられていると言っていた。


「どうしましょう?」

「まずは合流ポイントに戻りましょう」

「はい」


  ◯ ◯ ◯


 アリスは決意を決めていた。ここで自分がユウを倒せばクルエールとの約束でユウは死なずにすむ。

 だが、倒すということに戸惑いがあった。


 ──守るために倒す。矛盾ね。


「アリスさーん」

「ケイティー! え? もう終わったの?」


 味方がアルクを見失ったとかで、そちらの方に向かったはず。


「ええ。アルクはお二方に任せました」

「大丈夫なの?」

「まあ、彼らも中堅クラスですが問題ないでしょう」


 アリスとケイティーは南へと走る。

 そして──。


「見つけました!」


 ケイティーは止まり、左腕を横に伸ばし、アリスを静止させる。


「どこ?」

「向こうです。2人いますね」


 とケイティーは言うもののアリスにはユウの姿が見えない。


「どこ?」

「100メートルほど先です。あ、これはスコープ目視と死角オフというスキルで確認取れたものです」

「へえ」

「ちょっとやばいですね」

「やばい?」

「ユウと一緒にいるプレイヤーがあのスピカですよ」


 ──誰?


 でもケイティーが神妙な顔をしているので相当な手練れなんだろうとアリスは察した。


「私がスピカを。アリスさんはユウ」


 それは思ってもないチャンスだった。


「オッケー」

「では行きましょう!」


  ◯ ◯ ◯


「来るよ!」


 急にスピカが抜刀の構えを取る。


「えっ? え?」


 ユウは驚き、慌ててダガー・ウィンジコルを手にする。


「敵は2人。1人が先行してこっちに向かってる」


 スピカは気配感知というスキルで相手がこちらに向かっていることを知った。そしてその内の1人がスピードがあると分かり、ハイランカーだと感じ取った。


「さっきと同じで囮作戦でいきます?」

「いや。君は下がって」


 そう言ってスピカは前方へと一気に駆けた。

 そしてスピカは向かってくる敵と相対する。相手は少女だった。


 例え相手が少女であってもスピカは容赦はしなかった。脚に力を入れて、一気に跳ぶ。そして抜刀。鋭い一閃が少女を狙う。


 だが、相手の少女もまた両手のナイフを振るう。


 スピカの刀と少女のナイフがぶつかり、雷が落ちたような音が森に鳴り響く。

 2人は共に後退し、そしてもう一度跳ぶ。


  ◯ ◯ ◯


 アリスは前方で戦闘が開始されたとしり、少し迂回してさらに奥へと向かった。


 そしてユウを見つけ、アリスは発砲する。


 ユウは敵の正体がアリスと知って驚いた。そのせいか2発をもらった。そして急いでその場を離れる。


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