第199話 Mー6 アルク

 アルクはけられていると知り、撒くこと考えた。だが、今は一本道の谷を進んでいるところ。向こうに足の速いプレイヤーがいたら結局は戦闘。しかも、狭い道だ。魔法が使えるといえど、近距離戦闘タイプのアルクには不利である。


 しかし、ここで一つの疑問がある。


 ──どうして狙ってこない?


 狙うには絶好のチャンスはず。アウトレンジからの滅多撃ち。それなのに何もしてこない。

 このまま谷を抜けたら森だ。森は阻害物としての木々もあり、遠距離戦闘タイプには不利の地形。


 ──それとも出た瞬間を狙うのか? それとも向こうも近接戦闘タイプなのか?


 タイタンというゲームはアヴァロンと同じブランドの看板ソフトだ。多少の話は耳に入ってくる。


 ──近接戦闘タイプのジョブはアサシンにリッパー、あとはプレデターだったかな?


 そしてアルクはとうとう谷を抜ける手前まで来ていた。

 アルクは端末を出してユウに連絡を取る。


「今から谷を出るところ、このまま森に入ったら猛ダッシュで南へと突き抜けるから」

『南に!?』

「うん。南の方角の方がすぐに森を突き抜けそうだからね」

『俺とスピカさんはどうすればいい?』

「草原で待っていて」

『それでいいの? 助けに向かった方が……』

「すれ違ったら、どうするのさ。それに森だからさ、木を遮蔽物して進むから問題ないよ。それにより、森を出たら戦闘になるかもしれないから、戦闘準備よろしくね」

『……分かった』


 アルクは通話を切り、大きく息を吸い、そして吐いた。


 ──よし!


 アルクは地面を強く蹴り上げ、森へと飛び込む。

 枝の上に着地、そしてすぐに枝を蹴り上げ、前へと突き進む。


 枝を蹴っては次の枝へ。そうやって速い速度でアルクはび続ける。


 ──よし! このまま奴らを……。


 撒けるぞとアルクが考えた時、体が地面へと落ちた。


「え!?」


 アルクは空中で回転して地面に着地した。


 しかし、いつものようにきちんも着地出来ず、まるで穴にはまったように体が左に傾き、左膝と左手を地面に着けた。


 何がと思い、足を確認すると左脚の脛から下がなかった。

 しばらくすると脛から下が元に戻った。


 ──やられてた? いつ? 痛みがないから──。


「痛みがなかったから気づかなかったとお思いですか?」


 思考を遮る声が前方暗闇から発せられる。


「案外撃たれた瞬間なんて気づかないらしいですよ。撃たれて少ししてから熱く感じたり、力が抜けてるのを感じてから気づく人が多いとか。ま、ゲームだから痛みなんてありませんけどね」

「誰!?」


 前方の暗闇から少女が現れた。


「こんにちは」


 怖い笑みをたたえた少女が現れた。


 ──タイタンプレイヤーは基本遠距離戦闘タイプ。どうどうと姿を現すということは近接戦闘タイプか。


 アルクは魔法で少女の体を飲み込む火炎を放つ。

 その後すぐにアルクは飛び跳ねるが──。


「怖いですねぇ」


 背後に気配を感じて、反射的にアルクは空中で身を回して剣撃を繰り出す。


 鈍い音が響いた。


 少女が小さいナイフ一本で大剣の一撃を防いだのだ。


 2人は地面に着地する。


 着地時、すでに相手は間合いに入っていたので、アルクは大振りの左袈裟懸けの斬撃を少女に放つ。


 けれど今度もまた少女はナイフで防ぐ。今の一撃は先程とは違い、大きく踏み込み、かつ力の籠った一撃。


 そうそう簡単には防げない。仮に防げたとしてもパワーで押し飛ばされるはず。

 しかし、少女はバランスを崩すこともなく、飄々と受け止めた。


 アルクは一度大きく後ろへ下がり、今度は雷魔法を放ち、瞬足で相手の右へと回り込み、上から下へと剣を振り下ろす。


 視界を潰してからの一撃だ。


 けれど、それもまた防がれた。

 しかも相手はこちらを向いていない。


 前を向き、剣の軌道にナイフを差し出しているだけ。

 それだけアルクの一撃を防いだのだ。

 もはや化け物。そしてそういう奴らは。


 ──ハイランカー!


 やばいやつに出会でくわしたとアルクは焦った。


「何を見失ってるんですか?」


 少女が呆れたように言葉を吐く。それはアルクではなく前方に向けられたものだった。

 アルクも少女の視線の先に目を向けると、そこには男性のタイタンプレイヤーが2人いた。


「すみません。さすがに森はちょっと」

「で、でも、なんとか見失わずに……」

「いえ、ぎり見失ってますからね。私が駆け込まなければアウトでしたよ」


 少女が息を吐く。

 それに2人は恐縮したように肩を縮める。

 立場はこの少女が2人より上ということなのだろう。


 アルクは駆け去ろうとしたが、

「逃げたら背後からドスッですよー」

 と少女に止められた。


 しかし、このままじっとしているわけにはいかない。

 アルクは範囲系火魔法を放つ。

 そして一気に駆け──。


「お二人はこの人を。私はユウに。アリスさんは?」

「すでにユウのもとへ向かってます」


 ユウの名を聞いて、アルクは止まった。


「どうしてユウを!?」


 火の向こうにゆらめく少女の影にアルクは言葉を投げる。

 けれど返事はなく、影が火の中から飛び出た。

 影が向かう方角はユウと合流しようとしたポイント。


 ──駄目だ。スピカさんがいるとはいえ、あんな化け物をユウに会わせては。それにアリスという奴もすでに向かっているなんて!


 あの少女は実力的にハイランカーだ。たぶんスピカと同じレベルの。例え、全プレイヤーがランク50に縛られていても、ハイランカーは駄目だ。そしてアリスがどれほどの実力かは判らないが、ユウのもとは向かわせはいけない。


 アルクは影を追おうした。


 でも、

「あんたの相手は俺らだよ」

 と2人から銃撃を受ける。


 アルクは左腕の盾で防ぐ。そして2人に向け、魔法で雷撃を放つ。

 敵の2人は左右に別れた。


 ──挟撃きょうげきか!


 しかし、違った。

 1人が前衛でダガーでの攻撃を繰り出し、もう1人が後ろからライフルによる銃撃だった。


 ──これはこれで厄介だ。


 互いの斬撃がぶつかり合う。

 近接技術ではアルクが上。しかし、ここでという時に相手は距離を取り、後ろからの援護射撃の間に体制を整い、そしてアルクが銃撃を防いでいる所へ死角からの攻撃を繰り出す。


 ──ひとりひとりはさして強くはないけど連携が上手い。


 でも、連携が良すぎるということは──。


 アルクは前衛の相手が下がるタイミングを計って、後方の敵に向けて光魔法を放つ。

 それは攻撃ではなく目眩しとしての活用であった。

 ほんの少し後方の敵を封じれば良い。その隙にアルクは前衛の敵へと飛び込む。


「やあ!」


 繰り出される高速の剣撃に敵はバランスを崩す。


 そして──。


 アルクは剣で敵の体を貫いた。そして風魔法で相手を吹き飛ばす。

 敵はHPが0になり消失。


 ──まず1人!


 もう1人をとアルクは敵の姿を探すも相手の姿がなかった。


 ──逃げ……!


 そこで背後に気配を察して、アルクは反射的に前へ跳ぶ。


 先程のアルクがいた場所に光の軌跡が。


 アルクは反撃しようとすると敵は右に持つライフル銃口を向けた。


 トリガーが引かれる前にアルクは左へサイドステップし、木の後ろへ隠れる。そのまま周囲の木々を盾にしつつ、接近し反撃として火魔法を放つ。


 だが、向こうもまた木を盾にして魔法を防ぐ。そこでアルクは木々そのものを破壊する爆裂魔法を放った。

 周囲の木々が爆音と共に弾け飛んだ。


 ──やった?


 しかし、左斜め上からの銃弾の雨がアルクを襲う。敵は生きていた。上に跳び、枝の上に着地していたのだ。


 銃弾の雨をとっさに盾でガードするも、右肩と脇腹にダメージを受けた。


 さらに敵は枝から飛び降り、ビームソードでアルクを狙う。

 その斬撃をアルクは剣で弾き返す。


「くっ!」


 重い斬撃でアルクはたたらを踏む。

 そこへ追撃の光の刃が何度も襲い掛かる。

 幾度となく襲いくる光の斬撃をアルクは剣でなんとか弾き返す。


 ──こいつ、強い! なによ、連携プレイの時は弱かったくせに。


 片方にビームソード、もう片方にはライフル。

 近と遠を両方上手く使いこなしている。


 ──でも、負けるわけにいかない! こうなったら最大の一撃で!


 アルクは柄を強く握る。

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