第198話 Mー5 罠

「あの〜」


 岩の多い草原地帯を歩いているところをスピカは後ろから声をかけられた。


 声をかけたのは格闘家スタイルの男性アヴァロンプレイヤーだった。


 スピカはそのプレイヤーの存在は感知はしていたが、タイタンプレイヤーではないゆえ、スルーしていた。


「何?」

 面倒くさそうにスピカは聞いた。


「ええと、スピカさん……ですよね。ホワイトローズの?」

「ネームを見ればわかるでしょ?」


 プレイヤーには頭上にネームが浮かんでいる。

 通常時は消えているが、ネームを意識すると現れるようになっている。


「あ、はい。あ、あの、助けて欲しいのですが?」


 妙に腰の低い男だった。


「ええ〜?」

 スピカは明らかに嫌そうな声を出した。


「お願いします。今、仲間が向こうの洞穴にいるんですが、周囲にタイタンプレイヤーがいて助けにいけないんです」


 格闘家の男は山の下を指す。その山の下には森がある。


「つまりタイタンプレイヤーに囲まれたってこと?」

「違います。連絡によると奴らは自分には気づいていないらしいんです」

「じゃあ、タイタンプレイヤーがいなくなるまでじっと待ってたら?」

「もしバレたらどうするんです。だから仲間をすぐにここから脱出させたいんです」

「頑張れば」

「お願いです。助けてください」


 格闘家の男は去ろうとするスピカの前にまわり込み、低頭で頼み込む。


  ◯


 結局スピカはこの男の仲間を助けるため一緒に洞穴へと向かうことになった。


「あ、ありがとうございます」

 森の中を進みながら男は礼を述べる。


「恩に着なさい」


 そして山の下にある洞穴へと辿り着いた。


「この中ってわけ?」

「あっ! 連絡がきました」


 格闘家の男は端末を取り出し、仲間と通話を始める。


「え!? 敵が!? ど、どうしましょう。敵が中にいるって」

「引き返しましょう」

「そんな。助けて下さい。洞穴もそんなに狭くないので動けるかと」

「嫌よ」

「ビビってるんですか?」


 その言葉にスピカはイラッときた。


「無謀なことはしないわ。私はここまで。さようなら」


 スピカは洞穴へと背を向け、去ろうとした。


 そこへ、

「おいおい、中に入れよ」

 とスピカを叱る言葉が。その言葉は森の茂みからであった。


「さっさと出てきたら?」


 スピカの言葉に森の茂みからライフルの銃口をこちらへと向けた金髪ロン毛のタイタンプレイヤーが現れた。男が合図を送ると茂みからタイタンプレイヤーがぞくぞくと現れた。


 さらに洞穴からも数名のプレイヤーが現れた。

 1人はアヴァロンプレイヤーでスキンヘッドのタイタンプレイヤーに銃口を後頭部に当てられ、両手を上げていた。


「おい! ちゃんとおびき寄せたんだ。仲間を解放しろ!」

 格闘家の男は叫んだ。


「あん?」


 乾いた音が鳴り響き、アヴァロンプレイヤーが地面に倒れ、消失する。


「ちゃんと洞穴までって約束だろ?」

「お、お前ー!」


 格闘家が怒りで動こうとするも、幾つもの銃声が鳴り響き、格闘家は蜂の巣にされ、やられる。


「まったく使えねな」


 スキンヘッドは鼻で笑う。


「さて、スピカさんや、計画とはちと違うがここでやられてもらうぜ」


 ──あっそ。


「ハッハー! ビビって声も出ねえってか?」


 タイタンプレイヤーに見られているのは森に入った時から感じていた。だから、これは裏切りと罠が入り混じったものだと気づいていた。


「撃ってーーー!」


 金髪ロン毛のタイタンプレイヤーがトリガーを引く。

 それに呼応してスピカを囲っていたタイタンプレイヤーもトリガーを引く。


 スピカは金髪ロン毛の銃弾を避け、そのあと上空──山壁へと跳躍して銃弾の嵐を避ける。

 空中で回転して頭を下にする。そして山壁を蹴り、敵が空中に銃口を向ける前に洞穴の前の敵へ強襲する。そして高速移動して次々と敵を屠り続ける。


「クソ! なんだよこれ!? ホントにランクリセットしてんのか?」

「チートかよ!」

「クソッ、クソッ、クソッが!」


 タイタンプレイヤーが銃口を向ける時、すでにそこにはスピカの姿はない。


「ソードマスターその名は伊達でない!」


 スピカは最後の1人を斬り倒した。


  ◯


 草原を歩いていると、

「あ、スピカさん」

 と、また声をかけられた。


 今度は誰だと声の方へ向くと、

「あっ、ユウ。どうしてこんな……って、君もアンケートで上位だったね。一体どんな恨みを売ったのよ」

 スピカは呆れたように言う。


「さ、さあ?」

「で、1人なの? 大丈夫?」


 本イベントは全員がランク・レベルが50にされるが、取得ジョブ数やアビリティ、スキル、武器、防具などによりステータスは変動している。


 そしてユウは中堅クラスに足を入れたレベルだ。1人でいるには危険。


「あ、今から仲間と合流しようとしているところです」

「アルク? ミリィ?」

「アルクです。ミリィは西の方にいて合流は難しいとのことで」

 ユウが少し沈んだ声で言う。


「さっさとアルクと合流して、時間があったら西へ移動してミリィを助けに行きなさい」


 スピカはユウの背を叩く。


「……はい!」


 と、そこで通話音がユウの頭の中で鳴る。端末を取り出すと端末画面には──、


「噂をすればですね」

 ユウは苦笑したのち、通話を始める。


「もしもしどうしたの?」

『ユウ、ごめん。私、けられてる』

「え? 大丈夫なの?」


 狼狽えるユウの声にスピカは眉を顰める。


『まずこいつらを撒く。でも、撒けなかったら戦闘になる。夕方までに連絡が出来なかったら私はやられたと思って』

「待って、助けに行くよ!」

『相手がハイランカーだったらどうするの? 例えランクが50でも強いんだから』

「実は今ここにスピカさんがいるんだ」


 ユウはスピカに向き、「助けてくれませんか?」とう。


「え? ああ、まあ、いいけど」

「だって。聞いたアルク?」

『それならお願いする。今、谷を進んでいるところ。敵は2人』

「こっちも谷に向かうよ」

『分かった。スピカさんにもよろしくって伝えておいて』

「うん」


 通話を切り、ユウは先程の通話内容をスピカに話す。


「2人ほどならアルク1人で倒せそうだけど」

 とスピカは答える。


「でもその2人がハイランカーなら無理ですよ」


 スゥイーリアはかつてアルクには何か秘密があり、実はランク以上の力を持っていると踏んでいた。

 そのことをスピカは告げようと考えたが、あくまで確定要素のない憶測だったので喉奥に仕舞い込んだ。


「そうね。早く合流しましょう」

「はい」

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