第202話 Mー9 アルクVSレオ

「あのさ、こっちはやられると死ぬんだよ。人殺しになるよ? いいの?」

 アルクは剣を振りつつ相手に問う。


「こっちも人が亡くなっているんだ」


 レオは振りかぶられた剣を防ぎつつ、カウンターとして拳銃で応戦する。


「自己責任でしょ?」


 アルクは魔法で火炎球を飛ばす。


「ならこれも自己責任だ」


 レオはナイフで火炎球をぶった斬る。そして前へ一気に飛び跳ね、回し蹴りでアルクの腹を蹴り飛ばす。


「くっ!」


  ◯ ◯ ◯


 ──強い。強すぎる。勝てる気がしない。


 アルクの攻撃はどれも受け流され、レオにカウンターで重い一撃を食らう。


 しかし、おかしい。


 なぜか向こうからの直接的な攻撃が少なすぎる。


 試しにアルクは動きを止める。すると半拍ほど遅れてから向こうから攻撃らしきものを受ける。それはまるで形だけのもの。


 アルクは森の木々を盾にして隠れる。


 ──やる気がない。それとも何か制約でもあるとか?


 それは正解だった。


 レオはイベント開始時、西の山近くいた。それからユウの居場所を知り、通常なら一日はかかる距離をアビリティ、スキル、アーツ等を駆使して現ポイントまで走ってきた。


 そのため今のレオには様々な制約デバフがかかっていた。


 ──どうする?


 少しの間、アルクは逡巡し、そして答えを出す。


 ──よし! 逃げるのみ!


 アルクはレオに背を向けて逃げる。


 しかし、すぐレオに追い抜かれ前に立ち塞がれる。そして銃口をアルクに向ける。


 発砲音が鳴る前にアルクは木陰に隠れる。


 もしこれがきちんとした攻撃だったら防ぐことも出来ず、ダメージ貰っていただろう。


 アルクは溜め息を吐いた。


 攻撃したらカウンターを、しなければ攻撃を、そして逃げることが出来ない。


 ──ううん、まじでどうしよう? このままじっとしていると、たぶん向こうのデバフが解消されるかもしれない。そうなったら、こっちは負けるし。


「ねえ? やる気がないなら下がって欲しいのだけど?」

「やる気はあるさ。ただ……ちょっとな」

「何? デバフ? なら下がったら。私、強いよ。本気になったらやっちゃうよ」

「なら、やれよ」

「……」


 やれるものならやれという態度にアルクはイラッとした。

 アルクは息を大きく吸い込み、そして息を吐いた。


 ──そこまで言うなら、いったらー!


  ◯ ◯ ◯


「なんだ? もう終わりか?」

 どこか冷めた目でレオはアルクに問う。


「クッ!」


 駄目だった。


 どんなにアルクが魔法と剣撃を上手く合わせて攻撃すれど、そのどれもが通じなかった。


「まだだ!」


 今回は先のイベントとは違い、イベント中にジョブチェンジが可能となっていた。


 ──これは使いたくなかったんだけど。仕方ないか。


 アルクは魔法剣士からEXジョブ天涯てんがいの女王に変身した。


 赤を基調とした剣士衣装から白を基調としたドレスフォームに。眩い光がアルクを覆っていた。


 変身中に銃撃でもされるかと考えたが、何もなかった。どうやらまだデバフがかかっているのだろう。


 ──まあ、いい。これはチャンスだ。


 アルクは光の帯を生み出し、レオへと伸ばす。

 光はくねくねと木々の間をすばやく抜け、レオへと襲いかかる。

 それをレオはビームソードで断ち切る。


「こんなものか?」

 と言い、レオは拳銃で反撃。


 しかし、その銃弾はアルクに当たる前で光によって消失。


「!?」


 次にレオはビームライフルで攻撃。


 黄色いビームとアルクを覆う光は相殺され、双方が消える。


 が、アルクを覆う光は水のように無くなった部分へと流れ、すぐに光のヴェールを補う。


「光にはビームか」


 レオは苦笑気味に呟く。そしてトリガーを引き、ビームを放ちつつアルクへと駆け始める。


 それに対してアルクは大量の光の帯を放ち攻撃する。


 前、左右、上からと光の奔流がレオを襲う。


 それをレオはビームソードとビームライフルで防ぎつつ、アルクへと近づいた。


「オラァ!」


 レオは大きく飛び、アルクへと上から下へのビームソードの斬撃を繰りだす。


 アルクは右手を挙げて纏う光を強めて攻撃を防ごうとする。


「グッ!」


 力はレオの方が上で、アルクは後ろへとタタラを踏む。


 ビームソードの攻撃の後、レオはすぐにビームライフルの銃口をアルクへと当てる。そしてゼロ距離での攻撃。


 アルクは衝撃で吹き飛び、地面に転がる。

 だが、レオはデバフの影響で追撃をしてくることはなかった。


 それもアルクは折り込み済みで、実はまだ攻撃は


 ジョブが変わると武器も変わる。けれど今回の天涯の女王は魔法剣士との使用が可能であった。


 では剣は何処に。


 そう、それは──。


 空からレオの頭めがけて剣が高速で落下してきた。


 レオは咄嗟にビームソードで防ぐ。剣は弾かれ地面に突き刺さる。


 その瞬間を見逃さず、アルクは高速でレオに駆け寄り、光を大きく纏った拳でボディを殴りつける。


「くらえぇぇぇーーー!」


  ◯ ◯ ◯


 白い世界にアルクはいた。どっちが上で、どっちが下かわからない。


 ──ああ、やられたんだ。私。あれ? 私、死ぬの? いや、死んだ? てか、ここは? 天国? あっ、体はアバターのままだ。


 体はゲーム世界のアルクのまま。しかもられる前の天涯の女王ではなく魔法剣士の姿。


 ──このまま消えるのかな。ごめんね。ユウ、ミリィ、あとセシ。負けちゃった。こんなことなら天涯の女王を使いこなせとけば良かった。ごめん。ごめんね。


 アルクの体が泡のように消えていく。足から上へと少しずつ泡となり消えていく。


 ──私が死んだら、どうなるんだろう。嫌だな。死にたくないな。


 足が全部泡となり消え、腰へ侵蝕が始まる。


 ──天国ってあるのかな?


 胸がまで消え始めた時、指先も同時に消え始める。


「なんで死なないといけないのよ!」


 口から愚痴が溢れる。でも涙は出なかった。

 腕が、肩が消えて、あとは頭だけとなった。


「クソ! クソ! 勝手に殺すな!」


 喉もないのに言葉が口から吐き出る。


 勿論、本物の体でないから喉がなくても口があれば問題はないのだろう。


 そこでふと浮遊感があった。何者かに頭が持ち上げられたようだ。


 アルクの目が自身の頭を持ち上げた人物と目が合う。持ち上げた相手は白い肌に青い瞳の金髪の美少女だった。


「大丈夫。死なないよ。あなたはこれから現実に戻るだけだから」

「嘘?」

「ほんと。それで現実戻ったら記憶は消えるけど、すぐ思い出すから」

「あんたは誰?」

「もし思い出したら彼女達の手助けをしてあげてね」


 少女はアルクの問いには答えず、頼み事をする。

「人類のために」


 どういう意味だと聞きたかったが、もう口は泡となり消えていた。


「あなたの意志を見せて」


 そしてとうとう全てが泡となって消えた。


 しばらくの間、少女は泡が消えた先をまっすぐな目で見つめていた。

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