第87話 Rー14 防衛⑤
とある陸上自衛隊施設内のロビーで、新山は爆発音で目を覚ました。ロビーは戦闘のせいか窓やソファー、壁などに銃弾の跡が。新山の近くに仲間の自衛隊が倒れている。さらにプリテンドも三人倒れていた。
新山は重い頭を押え、意識が消える前のことを思い出そうとする。
思い出すのはフルフェイスのプリテンドたちに襲撃をされたこと。彼らは他のプリテンドと違い、別行動を取っていた。そして銃 を所持していて、フルフェイスでプロテクターまでも身に付けていたのだ。新山たちは彼らに襲撃を受け負傷した。
こちらも通信兵といえど訓練を受けた自衛隊。AIに乗っ取られた一般人に遅れをとることはないと考えていた。しかし、実力は相手の方にあった。
新山はプリテンドたちに組伏せられ意識が落ちる前に何者かにより助けられた。それらはプリテンドたちと同じ様に全身黒スーツであった。
――仲間割れか?
意識が落ちる寸前、新山はそう感じた。
そして今、意識が落ちてどれくらい経ったのか不明だが新山は起き上がり、倒れている仲間の様子を確かめた。
息はある。
頬を叩いてみると呻き声が。まだ生存していて安心した。対してプリテンドを確かめると息はなかった。その後、新山は司令部に連絡を取ろうした。
だが、その前に先程の爆発音について確認をしておこうと外を窺った。
先程の爆発音はクモの砲撃なのか。しかし、ここ付近にはバリケードはない。では、何らかの破壊工作だろうか。
新山はおそるおそる外に目を向けた。顔からの汗が流れ落ち、汗は首から胸元へと伝う。汗に触発されたのかそれとも緊張か新山は喉仏を動かした。
そして外の様子に目にして新山は驚愕した。
仲間が破壊したのだろうか?
しかし、クモの頭部には操縦席がありプリテンドが乗ってるはず。ゴースト型かファントム型か判明できないので攻撃ができないはず。なら一体?
クモから男が出てきた。
男は負傷しているのか足元がおぼつかない。
そこに一発の銃声が響き渡った。
新山は反射的に身を屈めた。
クモから出てきた男がヘッドショットを受け、倒れた。
銃声の方を向くと二人組の全身黒スーツの人間がいた。二人組は新山たちを助けた者たちだ。その一人が拳銃を倒れた男へと向けていた。
二人組は倒した男を確認せず、その場から足早に立ち去った。
追うべきかと逡巡した時、司令部からの通信が訪れた。
○ ○ ○
新山からの応答でクモが大破していると知り、カメラで確認をとった司令部の人間は皆、驚いた。嘘でもなくクモは確かに破壊されていた。
最初に口を開いたのは陸将の敷山であった。
「新山、誰が大破させた?」
『わかりません。自分達も襲われていたので。……ただ二人組の黒のスーツが自分達を助け、プリテンドたちを襲ったのはこの目ではっきりと見ました』
「怪我人はいるのか?」
『はい。軽傷者5名、重傷者3名』
「至急、衛生兵を向かわせる」
『了解』
敷山は司令部隊員に、
「カメラから誰がクモを退治したか調べろ」
と、命じた。
「敷山陸将!」
名前を呼ばれ振り返った。
呼び主は守矢だった。
「なんだ?」
「シンギュラリティ・ワンから顔認証の照合が終了したと」
「上手くいったのか。で、どうだった?」
第2防衛ライン前に顔認証は無理と感じていた。さらに頭の中にZ.I.Tが浮かんでいた。なので顔には出さなかったが敷山は内心驚いていた。
「結果、ゴースト型は17名、ファントム型は5名」
守矢が内線から送られた内容をそのまま敷山に語る。
そして敷山は隊員に、
「狙撃部隊に今からゴースト型の顔写真を送るからそいつらを狙うように指示しろ」
「了解」
○ ○ ○
プリテンドは全員が銃を持っているわけではなかった。持っていたのは8割ほどであった。彼らは銃撃のためではなく自身の頭に銃口を突き付けるためであった。それは自殺をするためではなく人質としてであった。
ファントム型は人質も同然。そしてファントム型と判別できないならプリテンド全員が人質ということでもあった。
それゆえ自衛隊はどうすることもでかなかった。しかし、ゴースト型とファントム型が判明した今となっては自衛隊側は制圧の行動が取れた。
スナイパーによりゴースト型を次々と仕留める。後はファイヤービーだけだ。
これにはスナイパーの攻撃は難しく、現場の防衛部隊は催涙弾、ゴム弾、放水で対応するしかなかった。
しばらくして妨害電波が発せられファイヤービーを無力化に成功。残ったファントム型のプリテンドは麻酔銃で対応。
○ ○ ○
「……これにて防衛を終了とする」
敷山がマイクに向け、そう告げた。
その言葉に司令部の緊張が途切れた。守矢も深い息を吐き、肩の力を抜いた。
だが、防衛は終わったがまだ残されていることがある。
「村田班は破壊されたクモの調査及び破壊者の正体を。松崎班は倒れているフルフェイスのプリテンドの身元を調べろ。本田少佐は使える奴を集めて現場バリケードの撤収を。それと公安の深山は警察庁に連絡しろ」
○ ○ ○
ゴースト型の判明から一時間程でプリテンドたちを無力化に成功。
自衛隊側で死者は出なかったが重体8名、重傷者13名、軽傷者37名を出した。重体、重傷者はすぐにドクターヘリで病院へと搬送された。
プリテンド側はというとファントム型は拘束され部屋に閉じこれられた。
ゴースト型は全員頭を撃ち抜かれ不能状態。死体袋にいれられ、霊安室に保管された。
フルフェイスたちの身元は不明。遺体は司法解剖にまわされることになった。
○ ○ ○
施設内の一室で姫月は警察庁公安局長に防衛戦終了の旨を報告した。
『大変だったな』
「いえ、私は何もしていません」
『そう言うな。居合わせただけで大変だったろう』
確かに大変ではあった。それでも姫月は動いたわけではなかった。司令部にいて状況を見守っていただけに過ぎない。だから労いの言葉を掛けられても戸惑うしかなかった。姫月はそれを隠すように、
「ファントム型5名を拘束しました。至急護送車を」
『わかった。にしても計22名で、いやフルフェイスも合わせると計32名か。これだけの被害になるとは。いやはやと言ったものだ』
通話の向こうで公安局長が椅子の背もたれに上半身を預ける音がした。それを聞いて姫月はその姿をありありと想像できた。
「それは改造グモとファイヤービーが原因でしょう」
『
それは自身の意見かそれとも疑問なのか。
『しかし、クモとフルフェイスの奴等を仕留めた謎の集団は一体なんだ?』
「それは……分かりません」
以前から謎の第三勢力が関わっていたが、正体は不明。プリテンドたちが襲ってくることも知っていたことから情報能力は高いと思われる。さらに制圧、強襲能力も高い。
「それでこの件につきまして内閣は発表するのですか?」
『目黒のデモにJ・シェヘラザート社の件もあるし、これはもう発表せざるを得ないだろうな』
「そうですか」
国民はどう受け止めるのだろうか。AIに体が奪われるなんて都市伝説のような与太話だ。
しかし、姫月にとって最も気になるのは、
「中国はどう対応するでしょうか? すでに向こうも外交ルートからすでにアクションを起こしているのでは?」
『まあな』
と言うだけで公安局長は詳しく説明しない。
『これから大変なことになるぞ。お前も護送車と共にすぐに戻れ』
「すみません。戻るのは後になっても宜しいてじょうか?」
『なんだ? 何かやり残したことでもあるのか? 陸自の奴等にはこれ以上付き合う必要はないぞ』
「いえ、そうではなく。シンギュラリティ・ワンと少し話がありまして」
『話?』
「はい。気になることがありまして」
少し間を置き、
『いいだろう。明日の昼には帰ってくるように』
「わかりました」
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