第204話 Mー11 レオ

 青年に追われてユウはどうして撃ってこないのかと考えた。


 確かに周囲は木々が邪魔をして撃ちづらいとはいえ、弾倉は無限で、強力な武器なら木々ごと撃ち抜いたり、吹き飛ばしたりもできる。


 だが、相手は追ってくるだけで後ろから攻撃をしてこない。


 ──弱そうには……見えないけど。何かデバフでも掛かっているのかな?


 ユウはちらりと後ろを振り向いた。

 するとそこにはいるはずの青年の姿はなかった。


 ──あれ? 諦めた?


 しかし、パキリと枝が折れる音を聞いて振り返るとそこには青年が銃口を向けて立っていた。

 ユウは振り返ると同時に眉間に銃弾を受けていた。

 ダメージを受けたと知り、ユウはすぐに大木の後ろに隠れる。が、それも相手にはお見通しで何発もの銃弾を身に受ける。


 ──ダメージは……低い。やはりデバフだ。


 ここは戦うべきだとユウは青年へ向け、突っ込んだ。

 ダガー・ウィンジコルを振り、青年を切りつけるが、それら全てがナイフで弾かれ、カウンターを受ける。


「何だよ。お前。強いのか弱いのかはっきりしろよ!」

 ユウは攻撃をしつつ吠えた。


「俺はレオだ。お前が倒したエイラの彼氏だ」

「え!?」


 その言葉でユウの動きが一瞬止まってしまった。本人も体を止めてしまったことに気づいた。それはまごうことなき隙だった。


 ──しまっ!


 しかし、レオは攻撃をしなかった。

 ユウは急いで後方へ跳び、木々の後ろに隠れた。


「どうして攻撃しない?」

「したくても今は制限付きで出来ないんだよ。しかもそこへアルクって奴のデバフも上乗せでな」

「アルク!? お前、アルクと戦ったのか?」


 そこでレオはニヤリと口端を歪め、

「ああ。ぶち殺してやったぜ」

「お、お前!」


 ユウの頭が怒りで湧き上がる。


「どうする? 来るか? 来るならこいよ。ほら、俺は逃げないぞ」


 レオはかかってこいよと手を広げてユウを挑発する。


 ──こいつ!


 ユウはジグザグに木々の間を抜けて、レオに近づく。

 その動きにレオは感嘆した。ローランカーだが、センスはハイランカークラス。これならエイラが疲労中に破れてもおかしくないのかもしれない。


「やあ!」


 ユウはレオに石を投げると同時に跳び、木々を蹴って、上へと移動する。


 レオは石を避け、銃口を上へと向けようとするが、それをすぐにやめて大きく右へと移動する。その移動した時、背後から現れたユウがレオの首筋へとダガーの刃を振るう。


 けれどその攻撃をレオはしゃがんで躱し、さらにすぐ起き上がり、ユウの顎へと頭突きを食らわす。

 タタラを踏んだところでレオから後ろ蹴り腹に、地面に倒れたところを銃弾3発を食らった。

 ユウはすぐに立ち上がって、レオへと攻撃する。


「あああー!」


 だが、それら全ては受けられたり、避けられ、そしてカウンターがユウを襲う。


「クソ、クソ、クソ!」


 もうHPがどれだけ減ったかなんて気にしない。

 無我夢中で斬撃を繰り出すのみ。

 第三者が見るとこれは子供が大人にくってかかっているように見えるだろう。


 しばらくして変化が訪れた。


 レオのカウンターでボディブローを受けたユウが大きく吹き飛び、大木に背中を大きくぶつけた。さらに今までカウンターだけだったレオが攻撃を始め、レオの回し蹴りが、ユウの右側頭部に当たった。


 今までとは違う反応速度と受けた際の衝撃が強く、ユウはHPを確認した。

 今まで軽微だったものが今ではHPが半分以下になっていた。


「ふむ。一部デバフが消えたようだな」

 レオが己の拳を開けたり閉めたりしつつ答える。


 ──まじかよ。一部でこれかよ。


「さようならだ」


 レオが銃口をユウに向け、発砲を──。


「!?」


 大きな影が急接近し、レオはサイドへと避けた。


 風を切る音、弧を描いた光の軌跡が残る。

 影はすぐに避けたレオへと襲いかかり、目にも止まらぬ横一閃の斬撃を放つ。


 レオはそれをギリで避けるも、追撃の無数の突きが襲いかかる。腕をクロスしてなんとか致命傷は逃れるが、全てを腕で防ぎ切ることが出来ず、受けたダメージは軽くはなかった。


「スピカか!」

 忌々しげにレオはその名を吐く。


「タイタン最強格のプレイヤーに名前を覚えられるとは嬉しいね」


 ユウのピンチに現れたのスピカだった。

 青を基調としたドレスを翻しながら現れたその姿は凛として美しかった。


「漢の決闘に女が邪魔するなよ」

「何が決闘だ。ただの弱いものいじめだろ。ハイランカーが情けないね」

「こっちはデバフを受けてるんだぞ」

「自己責任でしょ」

 スピカは鼻で笑う。


「この野郎!」


 レオがトリガー引き、スピカに怒りの銃弾を放つ。

「女だっつーの!」


 スピカは刀で銃弾を切り、一気に間合いに入り、左袈裟懸けの一閃を与えようとする。

「チッ!」


 レオは何とかビームソードで受け止める。今まで近接戦はナイフがメインだったが、スピカの一撃はナイフで受け止めきれないと判断してビームソードに変えた。


 物理系近接武器とビーム等を含む特殊系近接武器の違いは切れ味と破損率の違いである。


 物理系は切れ味があり、クリティカル率が高い。そして破損率が高く、壊れやすいということ。


 特殊系は切れ味がなく、クリティカル率が低い。そして破損率が弱く、壊れにくいものとなっている。


 だからレオは壊れ難いビームソードを選択した。

 しかし、まだデバフがかかった状態のため、スピカの追撃には対応できず、抜き胴を食らってしまい、HPが0になって消滅した。


「君、大丈夫?」

 スピカは後ろに振り返り、ユウに尋ねる。


「はい。助けくれてありがとうございます」

「いいってことよ。さ、アルクの所へ」


 それにユウは首を振る。


「ん?」

「……アルクはやられました」

 ユウは項垂れる。


「え? それって?」

「さっきの奴がアルクを倒したって」

「そう……」


 スピカはユウの背中をバンと叩く。


「な、何ですか?」

「くよくよするのは後にしなさい。まだイベントは終わってないんだよ」

「はい」

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