第205話 Mー12 ミリィ

 ユウからの連絡でアルクがやられたのを知り、最初はそんなにショックはなかった。


 けど時間が経つにつれ、じわりじわりと心が掻き乱される。


 アルクは腫れ物扱いであるアムネシアのリーダーであった自分をパーティーに誘ってくれた恩人。


 なぜ誘ってくれたのかは分からない。


 ユウが関係しているとも思われるがそうではないのかもしれない。


 ミリィはアルクの名を実はだいぶ前から知っていた。

 アムネシアでもアルクについてチート行為の有無があるかを調べたことがあったのだ。

 チート行為者は一人捕まると芋蔓式で新たなチート容疑者が発覚する。


 そこで名前がよく出てきたのがアルクであった。


 勿論、例に違わず調べた。


 けれど彼女にはどこも不審な点はなかった。


 アムネシアでは妬みによる虚偽報告と結論を出した。


 だが、本当にチート行為はなかったのか。


 それでもかすかに、どこか後頭部あたりがひりひりする。


 何か見落としてはいないか?

 何か隠しているのではないか?


 だが、何もなかった。

 なかったゆえに調査は終了。次に。そう次に。


 そもそも自分達は非公式の調査ギルドだ。

 公式だって調査部門の一つや二つはあるはず。そこが無言ならこれ以上の詮索は不必要。


 アムネシアは調査をやめた。

 けど、ミリィの頭の中にはアルクの名はどのハイランカーより強く刻みつけられた。


 そのアルクがやられた。

 やはり違法行為はなかったか。


 やられてすっきりする自分に反吐を吐き、ミリィは近づく気配に警戒を取る。


 すぐにられるんだろうなとミリィは考えていた。


 しかし、実際はどうだろうか。


 自分に恨みのある輩は現れるが、考えていた以上に少なかった。


 広大なイベントフィールドが原因か、それとも自分以外にもターゲットにされているプレイヤーがいるのか。


 ──まあ、いいか。


 ミリィは双剣を構える。


 ──先手で行きますか。


  ◯ ◯ ◯


 見晴らしの良い山頂へミリィは登っていた。


 なぜ敵から狙われるような場所へ移動するのか。


 それはもうHPが10%未満のレッドゾーンに入ったから。


 自暴自棄と言えば、そうなるだろう。


 でも、ミリィは最後に月が見たかった。


 森から見た月がまん丸でもっと近くで見てみたいと。


 想定より少なかったとはいえ、ここに来るまで数の多くの敵と戦った。


 乾いた音が静寂を割る。


 ミリィの体は自動で回避行動を取る。


 スナイプ越しで男は驚いた。相手はこちらに気づいていなかった。


 なのにどうして?


 それはスキル「初手回避」、「危機管理」、そしてアビリティ「矢避け」の二つが関係している。


 一つはミリィが長年僧侶ジョブで活動していて攻撃を極力食らわないよう習得した回避スキル。


「初手回避」は相手からの初撃による命中率を下げるもの。


 回避スキル「危機管理」は自身のスピードから相手の命中率を引いた数字が自動回避発動率となるもの。


 双剣士はスピードが高いが、アサシンやシーフ系に比べると低い。


 それでもミリィが双剣士を選んだのは……それがもう一つ理由であるスキル「矢避け」が関係している。


 アビリティ「矢避け」は言葉通り、矢を避けるもの。けど対象は矢だけでなく投擲類にも相当され、それはアヴァロンの内では存在しない銃弾も当てはまる。



「矢避け」は相手からの遠距離攻撃による命中率を最大30%下げ、現在のミリィは「矢避け」のレベルが3で命中率を16%下げている。


 この「初手回避」と「危機管理」のスキル、そして「矢避け」のアビリティによりミリィは自動回避効果が発動され、初手もしくは死角外からの攻撃を本人の意思とは関係なく防いでいる。


 ミリィは体が勝手に動いたこと、そして発砲音から狙われたと知った。そして狙撃手の位置を確認し、赤い剣を投げる。


 投げた赤い剣は追尾の能力がある剣で弧を描きながら相手へと襲いかかる。


 遠くで悲鳴を聞いてミリィは駆ける。


 相手は一人だった。

 ミリィは残り一本で男を襲う。

 相手もナイフで反撃に転じるが命を賭した者の勢いには勝てず、相手は敗れる。


「ふー……ふー……」


 ミリィは最初に投げた赤い剣を拾──えなかった。発砲音と同時にミリィの体が自動で動いたのだ。


 ──敵?


 そしてその発砲音は続けて鳴り響く。


 ミリィは拾うのをやめて、岩陰に隠れる。

 発砲音が鳴り止み、ミリィは駆けて赤い剣を拾い、そして戦闘が始まる。


 次は一人ではない。複数いる。HPが10%未満のミリィでは勝つのは難しいだろう。でも、それは本人にも分かっていること。それでもミリィは駆けるのだ。背後に天高く、夜闇を穿つ白月を背に。

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