第109話 Tー4 参加人数
管理人の仕事もストーリーイベント終了までの数日ものと聞いていた。
しかし、アリスはまだ管理人の仕事をさせられている。
──おかしい。
管理人着任時、兄であるレオ達がもうすぐ終わらせるだろうという話が出ていた。
けれどストーリーイベントはまだ終わっていない。
どういうことだろうか?
設営キャンプでもプレイヤー達の不満の声も漏れ聞こえる。
アリスがレオの妹ということもあってか直接耳に聞こえることはないが、ふとテントや炊飯場、テーブルに戻るとプレイヤー達の陰口や不満が耳に入る。
そこでアリスは2日前にレオへメッセージを送っていた。
『どうなっているの? いつになったら終わる?』
けれど返信はまだ来ない。
端末画面を見てアリスは溜息を吐いた。
「何やってんだか」
アリスは端末をしまおうとしたその時、着信がきた。
兄かと思ったが相手は兄の恋人エイラだった。
「もしもし?」
『アリス、どうそっちは?』
「まあ普通だけど。そっちはどうなのさ? ストーリーイベント、いつ終わるのさ?」
『それが思ったより難航しててさ。いつ終わるか分からないの』
声からも困っていることがアリスにも伝わる。
「まだまだかかりそうなの?」
『詳しくは分からないけど。しばらく管理人の仕事よろしくね』
「うん。兄貴はど……」
どうしてる? と聞こうとした時、軽快なメッセージ音が端末からでなく頭の中で鳴った。
この音はアリス達をゲーム世界に閉じ込めた張本人であるロザリーからのものだ。
通話はすでに切れていた。さらにメッセージは自動開封され音声データが強制自動再生される。
『タイタンプレイヤーの皆さーん、お久しぶりでーす。ロザリーでーす! ストーリーイベントはどうですかー? 楽しんでますぅ? でも、中々クリアできていませんね。参加者も少ないようですし。どうしちゃったんですか? モチベーションですか? 困りましたね?』
──ん? 参加者が少ない?
設営キャンプでは毎日数多くのプレイヤーが訪れる。
しかし、囚われたプレイヤーは正確な数こそは統計してなく不明だが何千はいると考えられる。
アリスはここで管理人を務めているが何千というプレイヤーには会っていない。せいぜい三百そこらである。
ならロザリーの言う通り、参加者が少ないということなのだろうか。
『そんな皆様のためにこちらとして報酬をご用意致しました』
──報酬!
『攻略に貢献したプレイヤー3名と参加者の中で抽選にてプレイヤー10名を解放。解放は強制ではありません。自主辞退可です。そして譲渡はできませんので。ではでは皆様、ご活躍を期待しておりまーす』
そこで自動開封メッセージは終了した。
『アリス!』
「ロザリー?」
『……私よ。エイラよ』
メッセージが終了したことにより通話が再開されたようだ。
「ごめん。メッセージの後に急にくるんだもん。で、何?」
『あ、いや、今からレオ達と先程のラザリーのメッセージの件で話し合うから』
「うん」
でもアリスは通話を切る前に、
「そういえば、ロザリーが言っていた参加者が少ないってのは本当?」
『……ええ。前回の制圧イベントのせいかしら。やる気が減っているのよね』
エイラは苦虫を潰すように言った。
「頑張ってね」
『そっちもね』
通話が切られアリスは大きく溜め息を吐いた。肩が落ち、腹に倦怠感が。
「でもさ、どう頑張ればいいのよ」
と独りごちた。
◯ ◯ ◯
ロザリーのメッセージの件もあってか設営キャンプには連日多くのプレイヤーが訪れた。
アリスだけでは
そしてその補充要員の中にはクルミがいた。
今はアリスと共に夕食の準備をしている。
「あのう、クルミさんはキョウカさんのボディーガードでしょ? ここにいて平気なんですか?」
「はい、大丈夫です。お嬢もカナタもそう難しい役割を
クルミは特に心配する様子もなく、小刻みに包丁で人参を切る。
「それにしてもストーリーイベントってどこまで進んでるんでしょうね?」
アリスはおたまで鍋の中の具材をかき混ぜながら聞く。
「参加人数も増えているらしいのでもうそろそろかと」
「参加人数ってそんなに必要なんですか? 兄貴達だけでさくさく進められないんですか?」
「なんでも多方面からの戦術兵器による同時攻撃。そしてその後に最終アタッカーによる止めが必要とか」
「それって大変なの?」
「問題は戦術兵器がでかくてノロマなのさ」
と教えてくれるのはミッシェル。
攻略班の一人で今日は現地調査兼設営キャンプの手伝いで今ここにいる。
けどミッシェル曰く、「攻略班も他のプレイヤーと接触したり、頑張ってますアピールのため」だそうだ。
「つまり……」
ミッシェルはまな板の上に人参のへたを置き、その周りにじゃがいもを四つ置く。
「人参がボスな。で、このじゃがいもが戦術兵器だ」
「戦術兵器ってロボ?」
「ん、まあな」
「へえ、見てみたーい」
アリスは目を輝かせて言う。
しかし──、
「いやいや、戦術兵器って言っても無骨な車が脚を生やして歩くみたいなものだ」
と言ってミッシェルは肩を竦める。
「で、この戦術兵器でボスを弱らせ、そしてこの最終アタッカーで、ぶすっとな」
ミッシェルは包丁で人参のへたを刺す。その包丁が最終アタッカーなのだろう。
「ところがどっこい、この戦術兵器がでかくてノロマでボスに近付けないのさ」
「なるほど。つまり、プレイヤーはその戦術兵器を守りつつ、攻撃する必要があると」
ミッシェルはうんうんと頷く。
「しかもこのボス、食い止めておかないと逃げやがるんだよ」
「逃げる」
アリスは空港でスコープ越しで見たボスらしきモンスターを思い出す。
「あれだけバカでかかったら、食い止めるのって難しいの?」
「それがさ──」
「そこの班! おしゃべりしない! 手を動かす!」
二人は他の班のプレイヤーから注意をされた。
「あ、ごめんよ」
「すみません」
ミッシェルとアリスは会話を止めて料理に戻る。
◯ ◯ ◯
そしてとうとうボス討伐戦が開始されることになった。
アリスも参加したかったのだが、役に立たないとレオから一蹴され、かつ設営キャンプの管理人という立場上、離れてはいけないと忠告された。
「別にもういいんじゃないのかな?」
アリスは客のいないテーブルに片膝をつけて独りごちた。
今、設営キャンプにはアリスしかいない。
ボス討伐戦の前線に仮設本部やキャンプを建てていてプレイヤーのほとんどはそちらの方に足を向けているので、ここにはアリス以外誰もいない。
「もしモンスターが現れたらどうするのよ」
レベル30以下なら今のアリスでも倒せるが、ここにいるモンスターはどれもレベルが50前後であり、さらに多人数で倒すマルチ型が多い。
「最悪潰れても知らないからね」
だが、もしかしたらレオはここを閉ざしても構わないと考えているのかもしれない。
アリスは時間を確かめるとボス討伐戦はあともう少しで始まる。
エイラ曰く、討伐には最低でも二時間はかかるとか。
「その間、モンスターが現れませんように」
アリスは手を合わせて祈った。
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