第110話 Tー5 ボス討伐戦
広大な雪の平原。
そこに無数のプレイヤーが集まり、たった一つの敵を倒すため慎重にことを運んでいる。
敵から大分離れた東西南北に作戦拠点を作り、そこにいるそれぞれのリーダーはプレイヤーに指示を出している。
今は敵を討伐するために布陣をひいている最中である。
その作戦拠点の一つにてエイラはスコープ越しに敵を見ていた。
「どうですか?」
そんなエイラに声をかけたのはサラであった。
エイラはスコープから目を離して、サラに顔を向ける。
「まずまずですね」
と言ってエイラは白い息を吐き、空を眺める。
天候は少し悪く、白い雲が青空を隠している。だが、視界はクリア。
「ぎり視界は良好ですね」
サラは空を見上げて言った。
「準備はどうですか?」
「こっちは準備完了です。あとは他のとこの準備を待つだけです」
「そうですか」
「ボス戦に参加したかったですか?」
サラはここからでは目視だと見えないがそこにいるであろうレオ達に想いを馳せ、目を向ける。
「すみません、エイラさん。私に人望がないために」
「そんなことはないですよ」
とは言うものの、作戦指示を出すのはサラではなくエイラ。本来エイラほどの実力ならレオ達と共にボス討伐に向かうべきである。
だが、サラでは有象無象のプレイヤーを滞りなく動かすことはできない。
「私だっ……あっ!? 連絡がきました」
エイラの持つトランシーバーに、
『こちら第2班準備完了です。すみません、遅れてしまいました』
「いえ。では、皆さん、予定通りにヒトサンマルマルにて作戦を始めます。信号弾打ち上げ次第、所定の通りに進めて下さい」
『1班ラジャー』、『第2班了解です』、『こっちはいつでもオッケー』、『右に同じく』
エイラは時刻を確認する。
作戦時間まであと3分。本当なら10分前には準備は完了しておきたかった。
──大丈夫よね。
エイラは信号弾を用意する。
そして作戦時間となり、
「作戦開始!」
トランシーバーで指示を出し、空へと信号弾を打ち上げる。
尾を引く音と緑色の煙を噴きながら信号弾は飛ぶ。
スコープでレオ達を窺うと戦闘を開始していた。
作戦拠点のキャンプからはボスに第1の
戦術兵器は操舵席に鉄の脚、頭には丁髷のような黒い砲塔。
動きはトロく、とても止めを刺す戦術兵器には見えない。
その周りには護衛部隊が囲んでいる。
戦術兵器に載っているプレイヤーはエイラに手を振る。
それをエイラは営業スマイルで返す。
「今度こそいけますかね?」
サラがエイラに聞く。
「これで無理だったらあきらめましょう」
エイラは肩をすくめて答えた。
◯ ◯ ◯
ボス・ホーンゴモラはレベル150のマルチ型だが、レオ達のクラスではさほど難しくはない。
「あまり削りすぎるな! 逃げないようにだけ気をつけろ!」
銃撃音と破裂音が鳴り響くなか、レオは大声で注意を促す。
ホーンゴモラは倒そうと思えばいつでも倒せる。だが、それは今ではない。
ホーンゴモラのHPがじわじわとレッドゾーンへと近づく。
視界の奥に戦術兵器が3つ見えた。後ろを振り向くと戦術兵器が近付いてくる。計4つの戦術兵器が敵を囲もうとしている。
「よし、そろそろ戦術兵器による攻撃を開始するぞ!」
『ラジャー』
戦術兵器の黒い砲塔の奥が白く光り始める。
レオ達は一気に攻めて、相手をレッドゾーンへと追い詰める。
「ギャアァァァー!」
ホーンゴモラは悲鳴を上げる。
そしてホーンゴモラの体が透明化する。
「今だ!」
東西南北、計4つの戦術兵器の黒い砲塔から白いレーザービームが放たれる。
「ブッギャアァァァ!」
透明化し始めていたホーンゴモラは元に戻る。
「全プレイヤーを近づけてくれ!」
レオはエイラに端末による通信で命令を出す。
『了解』
遠くから小さく音が聞こえ、黄色い煙が空に昇る。
「よし。ゆっくりと攻めるぞ」
レオは戦闘中のメンバーに指示を出す。
◯ ◯ ◯
そして有象無象のプレイヤーが集まり始めた。それを確認してレオは、
「一気に攻めるぞ!」
『おう!』
レオ達はホーンゴモラのHPを削る。
そして──。
「ギャアァァァ!」
ホーンゴモラは悲鳴を上げ、霧となった。だが、それは消滅によるものではない。
──これからだ。
レオ達は戦闘体勢を解かない。
霧の中から小さい黒い影が生まれる。
今までレオ達はここまでは何度も首尾良く進めていた。問題はここからである。
霧の中の黒い影が濃くなる。
──くる!
そして黒い影が霧から出てきた。
現れたのは白いウサギ。
──黒い影も霧からでると白くなるか。
ふと、レオはそんなこと頭の中で呟いた。
ウサギは一匹ではなく、数え切れないほど多い。
「きたぞ! 撃て!」
全プレイヤーは引き金を引き、無数のウサギを撃ち散らす。
この中にホーンゴモラのコアがいる。
どれがコアなのなか見分けがつかない。
ゆえに人海戦術である。
ホーンゴモラのいた中央の霧は晴れず、ウサギが現れ続ける。
それを全プレイヤーが銃弾の嵐で撃ち散らていく。
「ああ! もう! 後ろの奴ら、こっちのこと無視して撃ってきやがる。カルマ値貯まるだろうに!」
「もしくは下手くそが撃ってるせいで、気付いてないとか?」
「ダメージも少ないし、そうかもな」
パーティーメンバーから苛立ちの声を出る。
レオ達から後ろで銃弾を放っているプレイヤーは前にいるレオ達を無視しての攻撃だ。
プレイヤーキラーがNGのため普段においてはプレイヤー間ではダメージは発生しない。けれど、戦闘時にはダメージが発生する。そして今はプレイヤーにダメージを与えるとカルマ値が貯まる。
カルマ値が貯まるとどうなるのかは具体的には分かっていないが、解放に関係があるとプレイヤー間では囁かれている。
「下がりつつ攻撃だ」
レオは味方に指示を出す。
ウサギはまだ増え続ける。
◯ ◯ ◯
霧は晴れた。
だが、ウサギはまだ存在する。
それは撃ち漏らしたもの。
レオは拳銃でウサギを撃ち抜く。
今は他のプレイヤーもバラバラに行動して撃ち漏らしたウサギを見つけては撃退している。
「北にはもういないぞ!」
パーティーメンバーの一人がレオに駆け寄り、告げる。
「数人は北に残して、東に行くぞ。まだ残りが沢山いるらしい」
「これ? 大丈夫なのか?」
そう聞くのはとあるハイランカーの一人。
どうやら作戦が失敗したのではと考えているらしい。
「元からこうなる可能性を考慮しての作戦だ。あとは残りを見つけ次第駆逐するだけだ。それに相手は逃げるのでなく雪原をぴょんぴょん跳ね回っているだけだ。難しくはないだろう」
「……そうか」
プレイヤーはどこか不満そうな顔をして東へと向かう。
そのプレイヤーの背を見て、レオは息を吐いた。
内心焦っていた。
作戦は失敗したのではないか。
コアは逃げ延び、今ここにいるのはプレイヤーを引きつけるためのダミーなのではと。
しかし、雪原周辺に攻略班や低レベルのプレイヤーを配置してウサギが一匹でも外へ出ないよう見張らせている。
今のところ雪原の外へ出たという報告はない。だが、見張りも万全とはいわない。
もしかしたら見逃している可能性もある。
──駄目だ。前向きに考えろ!
レオは自分を叱責して、まだウサギが残っているという東方面へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます