第149話 Aー16 再会

 レオは内心諦めていた。


 今回のイベントはタイタン側の負けで終わると。


 だが、それは初日にやられたからでもなく、二日目にエイラとケントがやられたからという訳でもない。


 集まったプレイヤーが少なかったからだ。


 今回のイベントはタイタン、アヴァロンのどちらかの勝敗ではなく、各々の上位成績者100名が解放権を得られるというもの。それゆえ個々で活動するものが多かった。前もって山に拠点を作るという話は掲示板にて報告をしていた。だが、誰も山を踏破し、山頂に拠点を築こうと集まらなかった。それで初日はエイラに呼び掛けを頼んだ。エイラは飛行能力があるため長距離移動が得意で適任であった。


 けれど集まったのは約600名。千にも届かない。ゲーム世界に囚われたプレイヤーは約1万とか。


 それに対してアヴァロン側は見事統制をして集まり、東西2つの山を制圧して拠点を築いた。


 最終日の今となってはもう拠点なんてものはどうでもいい。アヴァロンプレイヤーが集まっているならポイントのため突入するべきだとレオは訴え。それに呼応してなんとかプレイヤーが集まった。


 ──600名。対して向こうは何千はいるとか。本当、バカバカしいな。


「ではこれより西の山侵攻作戦を開始する!」


 レオは集まったプレイヤーに言った。今、ここにいるプレイヤーは30名の小部隊。

 残りは西の山を囲むように配置している。


「いいか! やられる前に多くを狩れ。これを忘れるな! 今作戦は我々には不利だ。無理だと思うなら途中で敵前逃亡しても構わん! いや、なんなら今、去っても構わん。だが、お前達も分かっているだろ。去ったところで残り時間をどうするか。ちまちま敵を見つけて倒すのか、それとも倒されるのか。もしくは隠れるのか。それで解放権を得られると? 解放権を欲するなら戦え。敵は群れをなしてそこにいる!」

『おー!』


 タイタンプレイヤー達は雄叫びを上げる。

 集まった人数は少なかったが、それでもレオは自分に呼応して集まったことに感謝をしている。


「よし。時間だ。バズーカ部隊、放て!」


 3名のバズーカを抱えるプレイヤーが山の中腹へと砲弾を放つ。

 砲弾は中腹へと命中し、山肌を崩し、麓へと落石が落ちる。


「いくぞ!」

『おー!』


 レオ達は森を駆け、西の山へと向かう。


  ◯ ◯ ◯


 丘の上で4人のタイタンプレイヤーがそれぞれうつ伏せになりスナイパーライフルで四方を伺っている。


「なあ、レオの作戦に参加しなくて良かったのか?」


 その中でどこか頼りない黒髪のスナイパーが視線を平原に向けたまま仲間に問う。


「俺達はスナイパーだろ? スナイパーが動いて敵を撃つのか?」

 赤髪のスナイパーがバカバカしく答える。


「そりゃあそうだろうけどさ」


 どこかレオ達に申し訳ないようなところがあるのだろう。


「得手不得手があるだよ。だから俺達はこれでいいのさ」

「おっ! 敵だ」

 西の方角を張っているスキンヘッドの仲間が報告。


 残りの3人は依然と構えを崩さない。

 獲物は見つけたものが仕留める。

 他は周囲を警戒。

 一つ方角を一斉で狙うと他が疎かになる。それゆえ、基本は狙った者が責任を取ること。


 もし相手がハイランカーで倒せない場合は援護を要請することとしている。


「なあ、俺のとこだけ全然来ねえんだけど」

 北の方角担当の金髪のスナイパーが不満を言う。


「はあ? お前、そう言ってさっき配置替えしただろ?」

 赤髪のスナイパーが呆れて言う。


「本当来ねえよ」

「あっ! こっちも森から来た!」

 東を担当している黒髪のスナイパーが告げる。


「いいなー」

 金髪のスナイパーが羨ましそうに言う。


 獲物がきた2人はなかなか撃たなかった。

 それも当然。すぐに撃つと相手が森へと逃げてしまう。


 さらに仲間がいるとなると森に逃げ、その後で対応を取られる。

 だからに来るまで何もしない。


 大抵、1人のプレイヤーが真ん中まで来て、危険がないと合図を送り仲間を呼ぶ。

 それを見越してのだった。

 しばらくして、


「こっち真ん中に来た! そっちはどうだ?」

 西の方角担当のスキンヘッドのスナイパーが聞く。


 先に撃てば銃声で他のプレイヤーにバレるということ。だから2人ターゲットが現れたら同時と決めている。


「……こっちも真ん中に来た!」

「よし。撃つぞ!」


 と言い西の方角担当のスキンヘッドはトリガーを引いた。少し遅れて東の方角担当もトリガーを引いた。


 二つの乾いた銃声が周囲に鳴り響く。


「外れた!? いや、弾かれた?」

 スキンヘッドのスナイパーが慌てた声の後、驚きの声を上げる。


「ああ! 外した!」

 東担当の黒髪プレイヤーは悔しい声を出す。


 その声色から赤髪は東は多分一発目の銃声が原因と考えた。

 スキンヘッドはもう一度、狙い撃つが放たれた銃弾が弾かれる。


「また弾かれた。……接近する! ハイランカーだ! 援護を頼む」


 赤髪は武器をマシンガンに替えて、敵に銃弾をぶちかます。

 相手はもうスピードでマシンガンの銃弾を躱す。


「化け物かよ。こっちに集中だ!」


 金髪のスナイパーも武器をアサルトライフルに替え援護にまわる。連射もパワーもマシンガンより低いがリロードが短い。マシンガンは打ち終わると最低でも10分リロードが必要とする。


 三者による攻撃にも関わらず、相手は躱しつつ、少しづつこちらへとにじみ寄ってくる。


「おい! そっちはどうした?」

 赤髪が東担当の黒髪に尋ねる。


「くそっ! なかなか当たんねえ!」

「ハイかローか?」

「たぶんローだ。こちらへは近寄れないって感じだ」

「よし! お前は独りでそいつをどうにしろ」


 と言われたものの黒髪のスナイパーは苛立っていた。


 撃ち放った弾は避けられるか、弾かれるかのどちらかだった。

 避けられるのは分からなくもないが、弾くというのが不思議でならなかった。


 ゲーム世界であってもそのような芸当が出来るのかと。


 そしてとうとう弾切れになった。


 スナイパーはリロードに時間がかかる。それは性能によってまちまちだが、黒髪のプレイヤーのスナイパーライフルは15秒かかる。


 その15秒の間、黒髪は拳銃で牽制する。

 拳銃には適正な距離ではない。あくまで時間稼ぎ。


  ◯ ◯ ◯


 ユウはすぐに相手の武器が変更されたと理解して丘へと駆け上がった。その間、銃弾がユウを襲う。なるべく横には回避せずに進もうとしたため、いくつかの銃撃を受ける。


 そして相手陣地に入り、敵にダガー・ウィンジコルで切りかかる。


 相手陣地には4人のタイタンプレイヤーがいたが、3人は反対方向の敵に攻撃をしていた。

 その3人はユウに驚き、すぐに反応したがその前にユウは切りかかった。

 されど計4人。ローランカーであるユウにはいささか荷が重かった。


「この野郎!」


 スキンヘッドがスナイパーライフルの銃身でユウの頭を叩く。


 頭を叩かれ、倒れたところを金髪のプレイヤーが馬乗りになり、ライフルの銃口をユウの額に当てる。


 ──やられる。


 しかし、金髪のプレイヤーがトリガーを引く前にそのプレイヤーは首を切断されて倒された。


 残りのプレイヤーも新たな闖入者に驚くも、すぐに攻撃を始める。


 その闖入者は残りの3人も嵐のように切り刻んでいく。

 そしてユウと闖入者の2人きりとなった。


「大丈夫?」

「……スピカさん?」


 その闖入者はホワイトローズのスピカであった。


「おや!? 君は!?」

 スピカも助けた少年がユウであると知り、驚く。


「奇遇ですね」

「まったくね。このイベント始まって、最初のアヴァロンプレイヤーが君とは」

「申し訳ありません」

「あっ、ごめん。そういう意味じゃないから。で、君も中央の山を目指しに?」

「はい」

「では何かの縁だし、一緒に向かおう」


 それは願っても叶ったりだ。ユウにとってはハイランカーがいることはとても心強いこと。


 スピカは東へと歩き始める。


「待って下さいどちらへ?」

「だから中央の山だけど」

「そっちは島の東端方面ですよ」

「へ?」

「自分、そっちから来たので。敗れたタイタンプレイヤーが沢山いますよ」

「敗れた?」


 スピカは首を傾げる。


  ◯ ◯ ◯


「……ということらしいです」

「はあ、つまり敗れたタイタンプレイヤーは東の岬に飛ばされるので東に多いと」

「そうです」


 ユウのは現在の位置とプレイヤーが敗れた際にどこへ飛ばされるのかをスピカに教えた。


「で、君はどうしてそのことを?」


 その問いにユウは焦り、戸惑った。


「……ええと、森の方で相手プレイヤーの話を盗み聞きして」

「ふうん」

 半眼で頷くスピカ。


「それで中央にある二つの山はここから西にあると聞いて」

「…………分かった。西へ行きましょう」

「へ?」

「ん? もしかして嘘?」

「いえいえ、本当です。誓った嘘は言いません」

 両手をブンブン振って答えるユウ。


「うん。宜しい。ではいざ西へ行かん」

 そして2人は西へと向かいました。

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