第150話 Mー1 イベント終了
イベント終了後、プレイヤー達は各々のホーム、もしくは宿に帰還された。
そしてここホワイトローズが買い取った屋敷でもまたホワイトローズの面々が帰還され会議室に集まっていた。
「関ヶ原に間に合わなかった徳川秀忠の気持ちです」
スピカが申し訳なくパーティーメンバーに頭を下げる。
「秀忠は真田と戦ってたからであって、……スピカはハイランカーと戦ってたのかな?」
「うぐっ!」
リルの問いにスピカは詰まる。
「ラスボスの時もだよね〜」
「しかし、あの時は裏ボスを!」
「2回も遅れたとなるとね〜」
「ううっ!」
「リル、もういいじゃないですか。話によるとかなり北の方に飛ばされていたらしいとか」
スゥイーリアがここで間に割って入る。
「それに戦闘履歴を見ると一度も負けることなくタイタンプレイヤーを屠っているではないですか」
今、スゥイーリアはスピカの端末から戦闘履歴を確認していた。
端末操作は一般的には他人に操作は無理だが、戦闘履歴や掲示板などの一部操作は可能となっている。
「かなりの数のプレイヤーを屠りました」
スピカは強く頷いた。
「三日目とかも……おや?」
戦闘履歴を見ていたスゥイーリアは指を止め、ぽつりと声を漏らした。
「何か?」
不審な点があっただろうかとスピカは少し不安になる。
「このユウというプレイヤーは?」
「ああ、彼ですか。この前の裏ボスの時の子ですよ。三日目で遭遇しましてね。それで一緒に行動をしたのです」
「へえー」
セラがどこか含むような声を出した。
「何ですか?」
「いやね、東の山でそのパーティーメンバーのアルクっていうプレイヤーと遭遇したのよ」
「アルク……カブキオオトカゲの?」
「ええ」
スゥイーリアが首を縦に振る。
一緒にカブキオオトカゲを倒した。というかお互いほぼ単独撃破で挑んだが。その時のプレイヤー。そしてスゥイーリアが唾を付けたプレイヤーでもある。
「ああ! そういえばアルクのパーティーメンバーでしたね」
「さらに西の山でも活躍したミリィさんも今はアルクさんのパーティーに入っているのですよ。ね、セラ?」
「そうそう。クリスタル城の時に見たよ。あのミリィがパーティーを組むなんて意外よね。他にアムネシアのメンバーはいなかったのかな。で、そのミリィが西の山で活躍したんだよね? ヴァイス?」
「ええ。大変活躍されていましたよ。特に相手の特性を利用して包囲して攻めるのは見事なものでした」
「でも、相手が通信出来ていたら意味なかったけどな」
とアルトが口を挟む。
「それに真っ先に気付いたのがミリィさんですよ」
「やっぱアムネシアにいただけあって、見ることは得意なのかな?」
アムネシア。アヴァロン黎明期から存在したという古参のギルド。主に規律と不正行為の摘発を目的としていて、一部プレイヤーからは忌み嫌われていた。
そのリーダーのミリィがアルク達と共にいるとは。
「すごいパーティーですね。ギルドではないんですか?」
「少人数ですから。あとはセシリアさんというプレイヤーがいるとか」
「……セシリア」
名前を反芻するもスピカには身に覚えのないプレイヤーだった。
「何か運命を感じますね」
「運命……ですか?」
「ええ」
スゥイーリアは微笑んで言った。
◯ ◯ ◯
「たっだいまー」
セシリアが元気よくリビングドアを開けると、
「おかえり」
とユウが返事をした。
「あら? 私が最後?」
「ああ、セシが最後だ」とアルクが答え、「私は2番目です」とミリィがキッチンからカップを乗せたお盆を持ってダイニングに。
「じゃあ、ユウが3番目ね」
「でもミリィのすぐ後だったし、セシはその十分後くらいだったな」
ミリィからコーヒーのはいったカップを受け取り、アルクは言う。
「戻る時も同じにして欲しかったわね」
「そう言えば制圧戦の時は同じだったはず」
「そうです。同じでしたね。あっ、セシもコーヒー飲みます?」
「うん。お願い」
と言い椅子に座るセシリア。
「ポイントはどう?」
「私はそこそこ」
アルクが端末を出し操作する。そしてイベントのポイント表記された画面をセシリアに見せる。
「お! 高いね。ユウは?」
「こんな感じ」
「! 高! 何で?」
「あっ! 本当だ!」
アルクも画面を見て驚く。
「あら? 本当ですね。一体どうしたんですか?」
ミリィがセシリアの分のコーヒーカップを持ってテーブルに来た。
「実はエイラというハイランカーを倒してね」
「エイラって、あの!?」
「知ってるの?」
「うん。私も東の山で倒したから」
「ええ! アルクも!?」
「でもポイントがおかしくない?」
「確かランク50以下のローランカーがハイランカーを倒した場合はポイントが100倍になるのでしたよね」
「そっか。それで高いんだ!」
「だとしたらそのエイラってプレイヤー大変なんじゃない? 2回もやられたんだし」
◯ ◯ ◯
「ねえ、エイラは?」
「あん?」
てっきりリーダー専用の部屋にエイラがいるとアリスは考えていたが、そこにエイラの姿はなかった。
居たのは机に肩肘をついている兄のレオだけだった。疲れているのか、肩肘をついたままアリスを一瞥して、視線を机の上に戻し、溜息を吐く。
「エイラよ。どこにいなくてさ」
自室、浴場を当たってみたが、どこにもエイラはいなかった。
「さあ? 少し遠いとこに戻されたんじゃないのか?」
「そうなのかな?」
「エイラに何か用か?」
「えっ!? ああ、うん。少しね」
ユウに倒されたので様子を見に来たとは言えなかった。それを告げるとユウとの関係がバレるかもしれない。勿論、アヴァロンプレイヤーと戦ってたのを見てねと言えば問題はないだろうが、家族という長い付き合いでもある。下手な嘘はバレる可能性が高い。
アリスは端末を使い、通話による連絡を取ろうとした。
しかし、発信音のみが続く。
「あら、出ないわ。遠いとこに戻されたのかな?」
次にメッセージを送ってみる。
これなら距離や場所に関係なく連絡が可能。
だが──。
「……え!? 嘘!? 送れない!?」
メッセージを送ろうとするとメッセージ送信不可となる。
アリスは兄を伺う。兄も異常を感じて端末を取り出し、アリスのようにエイラに連絡を取ろうとする。
「……どういうことだ?」
やはりレオもアリスと同じ様に連絡が取れなかったらしい。
レオとアリスの顔が険しくなる。
一体エイラの身に何が?
いや、大体の予想はつく。しかし、それは考えてはいけないこと。
そんなことはありえない。
あってはならない。
でも、今、考えられることはそれしかない。
もう一度、アリスは連絡を取ろうと端末を操作する。
レオはというと、仲間にエイラを見かけなかったかと連絡を取り始める。だが、良い返答はなかった。それで異常を知った仲間達がリーダー室に集まってきた。
「エイラがいないってマジか?」
大男が驚愕の顔をして聞く。
「おいおい、冗談……だよな?」
普段は飄々とした男も今は真剣な顔をしている。
「嘘でしょ? ねえ? ……嘘、だよ、ね?」
怯えと不安が混じった声でレオに確認する女性プレイヤー。
その声に他のプレイヤーに不安が伝播される。
そして攻略班の臨時代表のサラと幾人かの攻略班のプレイヤー達が部屋を訪れてきた。
「あっ、あの、エイラさんがいないという話を……聞いたの……ですが?」
嘘ですよねという言葉は周りの空気で喉から出なかった。
そんな重苦しい空気の中、軽快な音が鳴る。
それはエイラからのメッセージではなく、ロザリーからのメッセージ音だった。
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