第151話 Mー2 エイラ

『はいはーい。皆さーん、イベントお疲れ様でしたー。お約束通り両ゲームプレイヤー100名様には解放権をプレゼントさせていただきます。なお、解放権は譲渡できませんので。そして解放権の使用の有無について論争が起こる可能性を考慮いたしまして当選者の発表はなしとさせていただきます。解放権につきましても他のプレイヤーには所有者以外見えないこととなっております。

 では次に、最もポイントの低かったプレイヤー20名様は退場させていただきました。えー、ご愁傷様です。それで誰が退場されたか不安でしょうから、そちらの方は公表させていただきます』


  ◯ ◯ ◯


「嘘!?」


 アリスが退場者リストにエイラの名を見つけ、驚いた。


 部屋にいるプレイヤーもみな、驚きの声と悲鳴を発した。


 指が震え、端末が床に落ちる。端末が床に当たった音が鳴ると、まるでそれが合図のようにアリスは力なく床へと尻をつけた。


「どうしてだ!?」

 レオが怒り交じりの疑問の声を発する。


 エイラはハイランカー。例えレベルとランクが50にされようが、そんじょそこらのプレイヤーにやられることはない。


「アイツっすよ! アイツが原因でエイラが!」


 訴えるような声が発せられる。

 皆がその声に向く。

 声を発したのはケイティーだった。


「何か知っているのか?」


 ケイティーは力強く頷く。

「ユウですよ! アイツがエイラを倒したんです」


 アリスは目を見開いた。


「……ユウってお前が狙っている奴じゃ?」

 男性プレイヤーが怪訝の顔をする。


「誰?」、「アヴァロンプレイヤーだよ」、「知らない。強いの?」、「ペーペーだ」、「それがエイラを?」

 周りがあれこれと喋り、ざわつく。


「だからそのユウがエイラを倒したんです。私、見ましたから。それにアリスも」

「本当か?」


 兄に問われアリスはゆっくりと首を縦に振る。


「その後、私もエイラの仇を取ろうとしたのですが、返り討ちに遭いました」

「アリス、本当か!」

「うん」

「証拠とは言えませんが、私がソイツと戦った時の戦闘履歴です」


 ケイティーは端末をレオに渡す。

 レオは渡されたケイティーの端末を凝視する。そして見たがっている他のプレイヤーに端末を渡す。


「クソッ!」

 レオが怒声を発した。


 自分に否はないがアリスは肩をわななかせた。

 レオは机を怒りに任せて殴った。

 鈍い音が部屋に響き渡る。


「クソが!」


 自身を抱く様に二の腕を掴むもの。

 顔に手をあてるもの。

 嗚咽を漏らすもの。

 様々な反応を示す。

 そんな中、1人の女性プレイヤーがアリスに近付いた。


「ねえ、あなたはその後何したの?」

「え?」

「だからケイティーが倒された後よ」

「……えっと……そいつ逃げたの」

 アリスは目を逸らして言う。


「本当?」

「うん。確かHPが低かったから……かな?」

「追いかけて倒さなかったの?」

「エ、エイラがやられて……それで……その」

 そこで言葉が止まり、アリスは俯いた。


「まあまあ、アリスさんはローランカーですから」

 ケイティーが間に割って入る。


「……そう。ごめんね」

「いえ」


  ◯ ◯ ◯


 ユウはエイラの名を見つけ止まった。


「どうしたの?」

 セシリアが訝しんでユウに聞く。


「あっ、えっと、ここにエイラの名があって」

 と、ユウは退場者リストをセシリアに向ける。


「本当だ。でも、それ──」


 それが何とセシリアは聞こうとしたがすぐに理解した。


「別にアンタの責任じゃないって。ねえ?」

 と、セシリアはアルク達に同意を求める。


「そうだ。私だって東の山でエイラを倒したんだ」

「それに倒さなければユウが倒されてたわけですし。こういうのは自己責任ですよ」

「うん。……そうだね」


 ユウは席を立った。


「どうしたの?」

 セシリアへ心配して聞く。


「ちょっと部屋に横になってくる」

「う、うん。……そう」


 ユウがリビングを出て、階段を上がる音を聞いてアルク達は顔を合わせる。


「責任感じちゃってる?」


 セシリアが身を前にして、ユウがいないにも関わらず小声で聞く。


「かもね」

「あまり思い詰めなければいいのですけど」

 ミリィが心配そうに言う。


「良し! 私ちょっくら言ってくるよ」

 セシリアは腰を浮かす。


「いやいや今はそっとしておこう」

「そうですよ」

「……うん」


 アルク達に止められ、セシリアは浮かした腰を下ろす。


  ◯ ◯ ◯


 タイタンプレイヤー内に一つの激震が走った。


 それは攻略班の臨時代表のサラが解放権を使ったこと。


 彼女の部屋には手紙が残されていた。メッセージではなく手紙で残すということは一部の人間にしか読んでほしくないということだった。しかし、その想いは無惨にも散らされた。


 サラが残した手紙の内容は他のプレイヤー達にメッセージで流され、一部憤慨したプレイヤーがそのメッセージ内容を端末掲示板に貼ったのだ。


「ごめんなさい。耐えられません。皆様は私を許さないでしょう。それでもいいです。私は帰りたいのです。ごめんない。さようなら」


 レオ達や攻略班は解放権を得ても大勢のプレイヤーを助けるため使用は控えると公言していたのだ。それが攻略班の臨時とはいえ代表が逃げたのだ。それを皮切りに多くのハイランカー、上級プレイヤーも解放権を使い、ゲーム世界から去って行った。


 まるで堰き止められた水が一気に溢れ出るように。彼らも内心は弱小プレイヤーのためにわざわざ残るのは馬鹿らしいと感じていたのだろう。でも理性、いや後ろめたさや罪悪感が彼らを止めさせていた。


 けど、有名な攻略班のプレイヤーが逃げたことで、「なら俺もいいよな?」という感じで彼らは解放権を使うことになった。


 残されたプレイヤー達は怒った。とりわけローランカーが多かった。

 ローランカー達は掲示板にて、まだ解放権を持ち、使用していないプレイヤー達に訴えた。


「ハイランカー達がいなくなったら、この先タイタン側は不利の一方ではないか」


 それに対して解放権を持つハイランカー達は自己責任と一蹴。


「許さないぞ!」という言葉が掲示板で流れた。


 けれど、「どうせ現実に戻ったらVRMMOも引退するし、お前たちと会うこともないだろう」

 と言い続々とハイランカー達は解放権を使用した。

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