第152話 EXー5 マリー

 全プレイヤーランク50イベントが終わり、葵達は電脳世界にある中世の城をモチーフにした城の一室に集まっていた。ここはアヴァロン側でもタイタン側でもないため、プレイヤーが決して訪れることのない空間。


 そして、いつものようにマリーを除いたメンバーが集まり、報告会議が行われる。


「タイタンプレイヤーの皆様、不満が爆発してますねー」

 マルテが口火を切る。


「不平等だので五月蝿いよな」

 タイタン担当のセブルスがやれやれといった感じで言う。


「何か不平等なことでもあったのですか?」

 アヴァロン担当のヤイアが聞く。


「無いわよ! タイタンプレイヤーが通信が出来ないだのでわめいているのよ」

 イベント進行担当のロザリーが呆れたように答える。


「でもアヴァロンではテイマージョブが動物を使って連絡を取れるのにタイタンだけないのは不平等では?」

「……まあ、そうかも」


 マルテの返しにロザリーは口籠くちごもる。


「やはり何か対策でも講じなければいけないのでは?」

 マルテは葵に向けて言う。


 目を瞑り、思案顔の葵は問われて目を開ける。


「そうですね」

「葵!」

 ロザリーはテーブルに手をついて立つ。


「落ち着いてください。少し調整をするという形です」

「調整?」

「はい。現在アヴァロン側のハイランカープレイヤーが多いので、ここは調整をしようかと思います」

「まあ、確かに」

 ロザリーは座り直した。


 今回のイベントでタイタン側は多くのハイランカーや上級プレイヤーが解放権を手に入れて、そしてある有名ハイランカーが退場となり、現在タイタン側はハイランカーが少ない状態となっている。


 それに比べてアヴァロン側は解放権を手に入れたハイランカーは少なく、退場もまた少ない。

 今のパワーバランスでは今後のイベントに支障がきたすであろうと葵は考えている。


「それは……アヴァロン側のハイランカーを強制退場ですか?」

「おいおいマルテ、それだとプレイヤーはブチ切れるだろ?」

 セブルスが突っ込む。


「では特別に解放権を渡すとか?」

「それもハイランカーだけ特別視だと他のプレイヤーが怒るだろ」

「ムムム」


 マルテは腕を組み、考える。なんとかアヴァロン側のハイランカーもしくは上級プレイヤーを減らす手はないだろうかと。


 だが、妙案はなかなか生まれなかった。


 葵は咳払いをして、


「次に特別イベントをいたしましょう」

『特別イベント?』

「はい。鬼ごっこというイベントです」

「どういうイベントよ?」

 ロザリーが代表して聞く。


「アヴァロン側のハイランカーもしくはタイタン側からのあったプレイヤーを数名をタイタン側の世界に召喚し、タイタンプレイヤーからの逃げてもらうというものです」

「だから鬼ごっこね」

「そうすればタイタン側からの不満も多少はやわらぐかと思われます」

「良い案じゃない?」


 ロザリーはマルテ達に目を配る。

 ヤイアもセブルスも頷き、賛成する。


 ただマルテだけが、


「一つよろしいですか?」

「何か?」

「それは貴女が考えたのですか?」

「…………」

「何言ってんだよマルテ」


 セブルスが眉を八の字にさせる。


「そうですよ。葵でないなら……」

「え? 私じゃないわよ」

 ヤイアの問いにロザリーは首を横に振る。


「それは……私が発案したものです」

 ここにいない者から声が発せられた。


 ロザリー達は声の発生源へと顔を向ける。

 葵の反対側、ドア方面。


 目先にはゆらぎが見られる。それはこちらへ顕現する際の兆候。


 青い陽炎が立ち、次第に人の形になる。そして色が着き始める。


 茶髪に右サイドテールのふくよかな女性ライン。


「マリーじゃん。ひさ──」


 ロザリーは言葉を止めた。

 人の形は一つではなかった。


 もう一つある。


 マリーと呼ばれる女性の後ろに、金髪の御令嬢然とした女性が。


 名前は──キョウカ。深山グループの本物の令嬢であり、タイタンプレイヤーの1人。

 セブルスとヤイアはすぐに席を立ち、各々が得物えものを構えている。セブルスは自動拳銃。ヤイアはレイピアを。


「誰だテメエ!?」

 セブルスが吠えた。


「勝手な入室失礼。私は深山鏡花。タイタンプレイヤーだ」

「んなことは分かってんだよ。どういう了見で来たのかってんだよ! おい!? マリー、どういうことだ!? あいつの監視はどうした?」

「マリー!? ほう、ここではマリーという名前なのか」

 キョウカがマリーを伺う。そのキャウカの顔には妙な笑みが張り付いている。


「……ええ」

 笑みから目を逸らしてマリーは答える。


「セブルス、ヤイア落ち着いて下さい。彼女は私が呼んだのです」

 葵がセブルス達に告げる。


「ああ!? どういうことだ!?」

 セブルスは銃口と目をキョウカに向けたまま葵に問う。


「マリーと彼の正体が彼女にバレたのです。それで仕方なく入室を許可したのです」

「私たちに相談もなくですか?」

 マルテが信じられないという顔で聞く。


「すみません。急を要したことと、それとハイペリオンがそのように進めよと仰ったので」


 葵にも思うとこはあるのだろう。その顔にはもう何が何だかという顔色が見える。


 仕方なくセブルスは銃を下ろす。そして舌打ちして、音を立てて席に着いた。

 ヤイアもレイピアを収め、一度大きく溜め息を吐いてから席に着く。


「ではもう一度説明を致します。彼女は深山鏡花。タイタンプレイヤーの一人であり、クルミことマリーの正体、そしての正体を見破って、我々に接近を求めた者です」

「ああん? なんだって!? そんじゃあ、解放してくれってか? はっ! いいぜ。マリーとカナタの正体を突き止めたんだ」

 セブルスが攻撃的な笑みをキョウカに向ける。


「違います。彼女は我々の計画に手伝いをしたいと申し出たのです」

「は? まじかよ?」


 セブルス達は眉を顰めた。


「うむ。そうだ。君達の計画に深く感銘してね。人類と君達AIの未来のためにこの鏡花……いや深山家が手を貸そう」

「知っての通り彼女は深山家の令嬢。味方になってくれれば我々も大助かりです」

「葵! 本当にそれでいいのか?」

「勿論、皆さんの不安も分かります。私もいきなりのことですので。しかし、ハイペリオンがその方がスムーズにことが運ぶというので……」

「二言目にはハイペリオンですわね」

 マルテが揶揄するように口を挟む。


「……すみません」

「で? 仲間になるってんならどう力になるんだ?」

 セブルスがキョウカに聞く。


「ふむ。まず先程の案だが私が考えたものだ」


 その言葉にセブルス達の目が細められる。


「演算処理能力では君達には劣るがクリエイトはあると自負している」

「それはAIである私達を皮肉ってのことですか?」

 ヤイアが鋭い目をして尋ねる。


「それはご想像に。そして先程も言ったが私は深山家の者。私がいれば外での活動に大きな物理的な支援が出来る。そしてあのナナツキにも接触可能だ」


 ナナツキ。それはシンギュラリティ・ワンと呼ばれる自律型高度AI。かつて人間達へ反旗を翻して敗れた。その件は世間一般では何も無かったように揉み消されている。


「あんな自分勝手に腰を振る野郎はいらねえよ」

 セブルスが毒を吐く。


「ハハッハ、彼も嫌われたものだね」

「マジで仲間にするのか?」

 セブルスは葵に目を向ける。


「私個人も熟考した結果、賛成です。皆さんはどうでしょうか?」


 葵はセブルス、ヤイア、ロザリー、マルテの順で視線を動かす。


「いいぜ」

 セブルスは溜め息交じりに言う。


「不安だけど、仕方ないわね」

「分かりましたわ」

「了解です」

 残りの三人も賛成する。


「では、我々は貴女を歓迎いたします。お席にどうぞ」

 と言って葵はキョウカのため椅子を生み出す。その椅子は葵と対面する形で置かれる。


「ありがとう」

 と言い、キョウカは座る。


 そしてマリーは決められた定位置の椅子に座る。


「では、今後のことについて話し合いを始めます」

 葵のその声には新たな決意が含まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る