第113話 Rー3 9人の老若男女
早坂明人は目が覚めると知らない部屋にいた。そこには見知らぬ老若男女が寝転がっている。
これは夢だと思って早川は目を瞑り、もう一度、意識を落とそうとした。
しかし、唐突に頭の中で火花が散った。
「いっつう!」
それによってか、これが夢でなく現実だと理解した。
ずきずきと痛む頭を押さえつつ、ゆっくりと上半身を起き上がらせる。そして足を組んで周囲を見回す。
コンクリートの部屋。広さは学校の教室くらいだろうか。電球が一つで今は灯っていない。灯りは開け放たれたドアの向こうからの光のみ。部屋の中は老若男女複数名が倒れている。暗いこととテーブルが邪魔をしていて正確な人数は分からない。部屋には中央にテーブル、椅子が五脚、ソファーが一つ、入って右側の壁にケース棚、左側の壁には本棚が。
早坂の記憶には当て嵌まらない部屋。一体ここはどこなのか。
前の記憶を手繰ると就寝だった。
仕事が終わって、深夜まで営業しているスーパーで買った半額の弁当とビールを晩食にして、その後はシャワーを浴びて寝た。
それがどうしてこのようなところに?
ポケットをまさぐるもスマホは所持していなかった。
そこで早坂は四つん這いで近くにいる医者が着るような白衣を着た若い女性を揺する。
「おい、生きてるか?」
「ん、んん」
女性は呻き声を出す。
どうやら生きているらしい。
今度は強く揺すってみる。
「おい!」
「あっ! もう……うるさいわね。何よ。……って、きゃああ!」
女は早坂を見て悲鳴を上げた。
そしてその悲鳴で他の倒れていた者たちも目覚める。
「いった!」
悲鳴を上げた女は頭を押さえた。
「誰よ、あなた。それに、いっつう。……何、この痛み。……え? ここ、どこ?」
「さあ? 俺も今、目が覚めて」
「ううぅ」、「つう」、「んだよ」と呻き声を上げて他の者も起き、そして周囲を見るとざわつき始める。
「おい! ここはどこだ!」
茶髪の男が誰ともなしに聞いた。
だが、誰も答えらなかった。逆に疑問が飛び交う。
「家にいたはずだが?」
「どこ?」
「え? 誰?」
慌てたり、怖がったりと様々な反応をする。
「あん!? スマホがねえ。おい、誰かスマホ持ってねえか?」
茶髪の男は部屋にいる皆に聞く。
それぞれポケットをまさぐるも、
「ない」、「私も」、「俺もないや」
結局、誰一人スマホを持っていなかった。
茶髪の男はふらふらと立ち上がり、部屋を出ようとする。
「君、どこへ?」
まだ痛むのか、額を押さえた白髪の老人が尋ねる。
「外に出るんだよ」
茶髪の男は苛立ちながら部屋を出て行った。
しばらくして白衣の女性と老人が部屋を物色。
しかし、得るものは何もなかった。
そして白衣の女性が部屋を出て行くと、ぽつりぽつりと残り者もまた続いて部屋を出て行く。
早坂はふと人数を数えてみると計8人。茶髪の男を含めると9人いることが分かった。
部屋を出ると廊下があり、白衣の女性は茶髪の男と同じく左に進んだ。
そして突き当たって右に階段があり、皆は
「ここどこなんでしょうか?」
二十前後の黒髪ストレートヘアーの女性が弱々しく誰ともなしに尋ねる。
「私にもさっぱり」
老人が首を振って答える。
「俺ら事件に巻き込まれた系?」
若い男性が引き攣った笑みで聞く。
「少なくとも事件だろうな」
もう一人白衣を着た背の低い女性が答える。
先頭を歩く白衣の女性は一階に着いて階段口から廊下へと出る。
早坂は階段口側の壁を見ると一階と明記されている。それで先程いた階は地下と理解した。
廊下は左右に伸びていて、白衣の女性は右側を選ぶ。
そして白衣の女性は廊下を少し進んでいたが、くるりと立ち止まり、早坂達に振り向いた。
それに後ろにいた早坂達は驚き、立ち止まる。
「どうして皆、同じ方向に進むの? 反対側にも道が続いているでしょ」
女性は眉を吊り上げて言った。
「え? てっきり道を知ってるのかと?」
「んなわけないでしょ」
早坂の問いに女性はさらに眉を吊り上げる。
蛇に睨まれたカエルのように早坂は固まる。
「では
と老人が言う。すると早坂より年上らしき男性が、
「私も付き合いましょう」
「あ、わ、私も」、「俺も」と続いて二十代の女性と若い男性も老人たちと一緒に反対側を回ることになった。
丁度半分に別れて、早坂達は右側を突き進む。
「君って医者なの?」
早坂は前を歩く白衣の女性に尋ねた。
「いいえ。院生よ」
「へえ、それじゃあ君も?」
早坂はもう一人の背の低い白衣の女性に尋ねる。
「ん? 私は職員だ」
「職員? 研究とかの?」
「科警研だ」
「科警研って、警察の?」
早坂の声が一段階上がった。
「ああ」
「良かった〜」
早坂は安堵の声を出す。
「ん? 何がだ?」
「だって警察関係者がいるってだけで安心するじゃないですか?」
「言っておくが私には犯人やテロリストを抑え込むようなスキルはないぞ。ただの研究職員と思い給え」
「それでもないよりましですよ。ねえ?」
と周りに尋ねるが、
「さあ?」、「分かんない」と返された。
◯ ◯ ◯
「行き止まりね」
「出入り口は反対側か」
早坂達は来た道を戻ることにした。
「にしても緑が多いね」
科警研の女性が呟いた。
「緑?」
「ほれ」
と窓を指すので早坂は窓の向こうを見る。
そこには林があった。
「ホントだ」
「どうでもいいわ」
院生の女性はそう言ってすたすたと歩き進める。
そして階段で先程別れた二十代の女性と男性がいた。
「どうしてここに? 残りの二人は?」
院生の女性が聞いた。
「出入り口が見つかったので先に外を調べておくそうです。私はそれを伝えに」
「それはどうも。それでは行きましょう」
と、そこで階段から茶髪の男が下りてきた。
「ん? 君、先に部屋を出て行ったはずでは?」
科警研の女性が聞く。
「出口を探してんだよ」
「2階に?」
「2階って分かんなかったんだよ」
「しかし、窓を見たら分かるだろう」
「うっせえな。テメエらこそ、ここで何してんだよ?」
「同じく出入り口を探してだよ。で、彼らが出入り口を見つけたらしいんだ」
「ジジイは?」
「一足先にだよ」
「そうか」
そして茶髪の男かを含めて計7人で出入り口へと向かう。
「2階には何かあったの?」
院生の女性が茶髪の男に尋ねる。
「特に何もねえよ。電話も無理だった」
「ふむ。電気は生きているが、線は切られているのかね。君はこの施設が何なのか分かったのかね?」
「さっぱり分かんねえ。なんか本やレポートも中国語ばっかっでさ」
「中国語?」
「ああ」
◯ ◯ ◯
外に出ると老人の男と四十代の男がいた。
「何か見つかりましたか?」
院生の女性が尋ねた。
「……見てみるといいよ」
四十代の男は親指で前を指す。
皆は男の指す方を見る。
そこはまっすぐの
問題はその下り道が森を突っ切るように走っていること。そして眼下の景色が森であることだった。その森は地平線まで続いている。
「ここはどこの田舎だよ?」
茶髪の男が文句を言う。
「さあね。どこかの谷間だろう」
男は告げる。
「谷間? どう見ても高いんだし、山だろ?」
「左右に目を向けてみても、そう言えますか?」
それに茶髪の男だけでなく早坂達も左右に目を向ける。
左右には山が二つあり、山頂は高い。なら男が言う通り、ここは谷間なのだろう。
「まあ、地平線まで距離が短いし、盆地の可能性も高いだろうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます