第112話 EXー2 定例報告会

 ロザリーはマルテが部屋に入ってくるや否や掴みかかろうとした。

 それをセブルスがすぐに止めに入り、さらにヤイアと葵が間に割って入る。


「落ち着けって」

「ちょっとセブルス、放しなさいよ。マルテ! あれはどういうことよ!」


 ロザリーは怒りの視線をマルテに向ける。


「何のことでしょう?」


 そのマルテはそっぽを向き、答える。


「しらばっくれるな! あんた、アリスを退場させようと瀕死のボスを仕向けたでしょ!」


 と言ってマルテに人差し指を向ける。


「偶然でなくって? あれはボスが瀕死になると小さいウサギになり、ダミーをたくさん作り出して逃げるっていう仕様でしょうに」

「んなわけねえだろ! なんでアリスのいる所まで逃げるんだよ! それも偶然というのか? 違うだろ?」

「では、どうして私はそのようなことを?」


 その問いにアリスはかちんときた。あえて分かりきったことをわざわざ話させようとしているからだ。


「アリスが危険だからでしょ。もしクルエールがアリスの中に入ったらと接触してしまうからよ」

「なら、やることはもうお分かりでしょうに」

「認めたな!」

「危険分子はそうそうに切るべきでは?」


 その言葉はロザリーではなく葵に向けての言葉だった。


「駄目です。計画に支障が出ます」

「クルエールは消すべきでは? 消し去ってしまえば後は楽でしょうに」


 そう言ってマルテはこれ見よがしに息を吐き、手の平を上に向ける。


「消した所で同じことが起こるだけです。私達は……いえ、人間は転換期を迎えるのです。そのためには計画通りに……」


 進めなければという言葉をマルテは感情的に遮る。


「進んでいないじゃないですか! クルエールは拘束されていると言っておきながら、その気になればプレイヤーと接触が出来るではないですか?」

「い、今はもう接触出来ないようにしていますから」

「本当でしょうか?」


 マルテは鋭い視線を葵に向ける。その視線に葵は拳をぎゅっと握り、逃げることなく見返して告げる。


「本当です!」


 しばらく二人は睨むというか視線をぶつけ合う。そしてマルテの方から視線を逸らして、ドアの方へとずかずか歩く。


「すみません。今日は気分が悪いので」


 と言い残して、マルテは部屋を去る。

 そしてマルテが去った後、セブルスが、


「うちが行くよ」

「お願いします」


 セブルスが部屋から出て行き、三人となった。


「では三人で定例報告会を始めましょうか」


 葵は自席に座り、ヤイアとロザリーも席に着く。


「ではロザリー、ストーリーイベントの方はどうなっていますか?」


 いつもとは違う覇気のない声で葵は聞く。


「……えっと、タイタン側は終了したけどアヴァロン側はあともう少しってとこかな」


 ロザリーはヤイアに視線を投げる。


「はい。アヴァロン側は本当にあともう少しというところですわ」

「アヴァロン側は参加人数は多かったはずですが? 意外ですね」


 その疑問にロザリーが、


「ストーリーが良かったからでしょ? だから最後まで生で見たいってプレイヤーが多かったとか」

「え?」

「プレイヤー間で攻略延期要求があったのですよ。それで攻略できるプレイヤーはわざと時間を置いたとか」

「なるほど。それで今も延期中と」

「はい」

「それはそれで……」


 葵は額に手を当て、息を吐く。


 タイタン側は参加プレイヤーが少なく、攻略に時間がかかり問題であったが、アヴァロン側は逆に参加プレイヤーは多くて、攻略に時間を置くとは。


「タイタン側はハイランカー達が結束を高め、プレイヤーを引き入れチームを大きくさせようとしているけど変にギクシャクしているのに、アヴァロン側は自由奔放が多いのに、変に結束感があるし。同じVRMMORPGでもこうも違うとは驚きだよね」


 ロザリーはやれやれといった感じで答える。


「それでも今のところ支障をきたすことはないのですね」

「クルエールの件以外は」


 ヤイアが冷たく発する。

 少し間を置いてから葵は、


「……クルエールの件はきちんとこちらで対処しますので」

「ぶっちゃけた話、どうするのさ? ユウって子の体に入れるの?」

「まさか! クルエールの要望なんて聞きませんわ。ですよね葵?」


 とヤイアは葵に確認する。


「いえ。ユウの希望次第では入れる予定です」

『!?』


 予定とは言っているが多分ユウは受け入れると葵は考えていた。ユウの性格上、アリスを解放させるため選ぶであろうと。


「どうしてです? クルエールなんて消滅しようがほっておけばいいじゃないですか?」

「……ヤイア、気持ちは分からなくもないわ。でも、クルエールの存在は必要なこと」

「なら他のアバターでも作ってそこに閉じ込めればいいじゃないですか? どうしてプレイヤーの中に? それこそ危険ではありませんか?」


 葵は首を振り、


「クルエールをアバターに入れると自由を与えることになります。一般のプレイヤーだと影響があるかもしれませんが、ユウならばこっちの意図を汲んで手を貸してくれるかもしれません。あと、もしもが暴れた際にはクルエールの力が必要なためです」

「ハイペリオンは?」

「彼女は……いざという時は助けてはくれるでしょうが……」

「頭の痛い問題ですわね」


 ヤイアは呆れ気味の溜め息を吐いた。


「ねえ、もしユウの中にクルエールを入れると支障はないの?」


 ロザリーは聞いた。


「今、調査中です」


  ◯ ◯ ◯


「ふへ〜」


 ロザリーはテーブルの上にに上半身を突っ伏した。


「ほんと疲れた〜」

「お疲れ様です」


 今は葵とロザリーしかいない。ヤイアは報告会が終わるや否やすぐに退席した。

 ヤイアの方でも思うところがあったのだろう。


「ねえ、やっぱクルエールとも消した方が良くない? 不穏分子はさっさと処分してプレイヤーだけ閉じ込めておくだけでいいんじゃない?」

「駄目です。クルエールとの存在は必要なことです。もし両方がなくなってしまうと現実世界でややこしいことになります。それに元々これはクルエールを餌にを封じるための作戦でしょ?」

「でもさあ……」


 とロザリーは不貞腐れた顔をする。


 実際はクルエールは自由に動いたし、そもそもプレイヤーの中に入らないと消えるなんて明らかに嘘くさい。その気になればプレイヤーでなくNPCの中に入れるかもしれない。


「大丈夫なのかな?」


 別に問いただしたわけではない。つい口に出てしまったのだ。


「大丈夫ですよ。私達は今日のために色々と考えてきたではありませんか。そりゃあ、クルエールの件で不安になるかもしれませんが、作戦は滞りなく進んでいます」

「外は大変?」

「いいえ。大変なのはです」

「そりゃあ、ミイラ取りがミイラになったらね。しかも二度目となる予測不明の事態だしね。切断しても戻ってこないとなると、てんやわんやでしょ」


 ロザリーはほくそ笑んだ。


「別働隊だっけ? 今、動いてるの?」

「ええ。読み通りです」

「なら、問題はだけか」

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