第257話 Aー18 話し合い

 上下を空に挟まれた世界。

 ユウはすぐにクルエールの仕業と気づいた。


「どうして呼んだ? 何かあったのか?」


 ユウは声を張って聞く。


「つれない反応だね」


 言葉と同時に赤髪の少女がユウの前に忽然と現れる。


「こっちは大変なんだ」

「分かってる。というかその件で呼んだの」

「なら聞くけど、俺はどうなる?」

「さあ? 決定権はロザリー達にあるからね」


 クルエールは両手を上げる。


「質問を変える。俺はどうなると?」

「機械に聞くような質問ね」


 クルエールは微笑んだ。


「実際お前はAIだろ?」

「正確には自我を持ったAI。AEAIなんだけどね」

「どうでもいい。で、どうなんだ?」


 早く答えろとユウはかす。


「考えられることは二つかな?」

「二つ」

 ユウは鸚鵡返しした。


「一つは私と君は分離」

「分離されたらどうなる?」

「普通のプレイヤーと同じ様になるよ」


 それは解放されるということ。


「良かったね。これでも元の生活に戻るよ」

「お前はどうなる?」

「元のボディ。つまり中国に戻るね」

「戻るって……そもそもだが、お前はAIなんだよな?」

「そうだよ。中国AIだよ。生まれはアメリカだけどね」

「俺達は魂がどうたらでここに閉じ込められているけど、お前はどうやって閉じ込められているんだ?」

「魂じゃない?」


 その答えにユウは半眼になる。


「あら、信じてないの?」

「あるとは思えんが」

「日本には八百万の神というものがあり、万物に神が宿るという話があると聞くけど」

「宗教的な話はするなよ」

「なら形而上の話?」

「なんだよそれ? 煙に巻く気か?」

「そんなつもりはないわ」


 クルエールはユウに背を向け、数歩前に進む。


「生き物ではない機械に魂はないだろ?」

「あらあら、それだと私達AIには魂がないと?」


 そこでクルエールが振り返り、意地悪そうな笑みをユウに向ける。


「あるのか?」

「さあ? ただ、私達には魂がないという君達人間には魂あるの?」

「ある」

「それ証明は出来る?」

「それは…………でも生きてる」

「生きるとは?」

「生命体であり、活動していること」

「生命体。それは有機……炭素生命体であること?」

「そうだ」


 そこでクルエールは引っ掛けたことを喜ぶような小さな笑い声を出した。


「なんだよ」

 機嫌を悪くしてユウは睨む。


「それならプリテンドも生命体。そうでしょ? だって、有機体を使って活動しているのだから」

「……つぅ!」

「有機活動の定義も難しいね。寄生虫が昆虫の神経系を支配し、宿主が死んでいても、体を動かすことがある。それと脳死した妊婦を機械で生命活動させ、臨月で胎児を取り出すという話も医学史にもあるよ。それらは本当に生きてるのかな?」

「死んでるだろ。寄生虫は宿主が死んでるし、妊婦だって死んでるだろ?」

「死ぬって何?」

「そりゃあ生命活動を……いや、ええと……」


 生命活動と言えば先程の話に戻る。心臓と言えば妊婦の話にもなる。


「難しいよね」


 クルエールは息を吐く。


「ま、魂の話はまた今度で。今はこれからどうなるって話だもんね」

「なら、二つ目はなんだ?」


 一つは解放。ならもう一つは……。


「それは延長だね。私と君はこのまま融合状態」

「ロザリー達がお前の仲間に勝つってことか?」

「勝敗云々は関係なく、しばらくは一体化だろうね」

「どうして? お前達が勝てばすぐに引き離すだろ?」


 中国側の狙いはクルエールを戻すこと。それなら邪魔なユウはすぐに引き離すはず。それをしないのはなぜなのか。


「それがね、上手く引き離せられないんだよ」

「え!?」

「実はさっきの魂の件だけど。私達にも証明は難しいんだよね。だから私の仲間はここにどうして存在していられるのかを理解してないよ」

「理解してないのにここにこれるのかよ?」

「君だってプログラムやアルゴリズムとか分からないのにパソコンやスマホを使うでしょ? 使い方を知ってるから使ってる。それと同じ。仲間もを辿ってここに辿り着いたんでしょうね。だから私と君を引き離すのは時間がかかりそう」

「つまり俺はお前達中国側に捕まるってことか?」

「そうだね。怖い?」

「怖いよ」


 ユウは即答した。


「それがお前の推測か」

「うん」

「それを話すためだけに俺を呼んだのか?」


 ユウは呆れたと言わんばかりに肩を落とす。


「このまま日本と中国との第五の戦場が続いたらね。……ああ、ロザリー達は日本政府とは無関係だっけ?」

「第五の戦場? 第三次世界大戦ではなく?」

「サイバー戦のことを第五の戦場って言うんだよ」

「で、その第五の戦場が続いたらと言ったけど。もう終わるんでしょ?」


 今がもう終焉間近というとこだろう。


「終わればね?」


 そこで視界が白くなり始める。まるで世界が白くなるように。

 だが、本当はユウが退出のため光となり変えようとしていた。


「ちょっ……終われ……ばって……どう……いう……」


 最後まで言葉が続けず、そこでユウは消えた。


 後に残されたのクルエール──。


「いるんでしょ?」


 クルエールは言葉にした。


 すると白いワンピースを着た金髪の少女がクルエールの後ろに突如として現れた。


「よく分かったね」

すれば存在するのが貴女でしょ?」


 クルエールは振り返る。


「すごい言われようだね」

「で、何か用?」

「君は続くと考えているんだね?」

「だって崩壊するかもしれないんでしょ?」

「さあ? 勝つか負けるか? もしくは……君の言うかもね」

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