第256話 Aー17 救援②

 人より大きな鉛玉が溶けるとその中からユウとメイプルが現れた。


「ユウ!」


 心配したセシリアがユウに近づく。そしてアイテムを使い、ユウのHPを回復させる。


「セシ、どうしてここに? それにメイプルさんにスピカさんも」

「彼女に頼まれて助けに来たんだよ」


 スピカはケイティーに視線を向けたまま答える。


「セシが?」

「ほら、君たちはさっさと下がって」


 そう言った後、スピカは跳躍してケイティーに急接近。そして抜刀。


 ケイティーはナイフでそれを防ぐ。そして前を向いたまま後ろへと飛ぶ。


「あなたとは以前も戦いましたね。……っと、言葉は通じないんでしたっけ?」


 ケイティーは言葉の代わりにとナイフを投げる。


 それをスピカは刀で弾き返す。


 その隙にケイティーは上空へ跳び、バズーカーを構えて、トリガー引いた。砲弾がスピカへ向けて射出された。


 けれどその砲弾はスピカに直撃することはなかった。


 砲弾は斬られて爆発。

 煙の後、斬った本人のスピカの姿がなかった。


 ケイティー左右を見渡し、そして上だと気付いた。


 砲弾が斬られたというところは認識できた。

 しかし、スピカが上空へ跳んだとこらは見られなかった。


 それは上空へ跳んだ自身よりもさらに上に跳んだということすら分からないほど速かったということ。


 それはまるで砲弾が斬られた瞬間に姿が消えたように。


 だが、またしても驚くことが起こった。


 上空へ跳んだスピカはし、ケイティーへ向けて高速で落下する。


 ケイティーは反射的にナイフで向かってくるスピカに反撃を繰り出そうとするも、腕を、胴を、右脚を、そして首を斬られた。


 空中でバラバラになったケイティーは跡形もなくアヴァロンから消えた。


「終了」


 スピカは着地し、刀を鞘に収める。


「お見事です」


 メイプルが拍手する。


「え? え? 何今の? 敵が跳んでバズーカを打った瞬間、空中で爆発して、スピカも消えて、そしたらいつのまにか上空にいて、また消えて、いつの間にか地面にいたと思ったら敵は倒されてるし」


 セシリアは意味がわからないと戸惑っている。


 あれはほんの一瞬の出来事ゆえ、中級クラスのセシリアには状況の処理が出来なかったようだ。


「あ、あの、ありがとうございます」


 ユウはスピカへと近づき、頭を下げる。


「いいのよ。それに礼を言うならそこの子に言いなさい」


 スピカは顎でセシリアを指す。


「セシもありがとう」

「いいのよ。私はペリーヌとは違い、見捨てたりはしないよ」

「ん? ペリーヌ達なら先に来てたよ」

「ええ!?」


 それを聞いてセシリアはペリーヌに端末で連絡を取った。


「まじかよ。あいつ見捨てるとかほざいてたのに」

「意外に良い人かもね」

「どうだか? てか、多勢で挑んでおいてやられてやんの」

「それで君達はこれからどうするの?」


 リルが聞いた。


「とりあえず倒せそうな敵は見つけ次第駆逐していこうかなと。ね、セシ?」

「まあね。そちらは?」

「こちらも似たようなところかな」

「似ているって、そっちは無敵じゃない。会う敵全部を倒していけばいいんじゃない」

「それは違うよ。向こうにだってハイランカーがいるんだし。それが数で来たら、さすがに負けるわ」


 とスピカが肩を竦めて言う。


「にしてもおかしなことだらけだよな」


 リルが両腕を頭の後ろで組みながら言う。


「変なメッセージは届くわ。暴走したタイタンNPCが来たと思ったら、これまた暴走したタイタンプレイヤーだもん。一体何が起こってんだ?」


 その問いには誰も答えなかった。いや、答えられなかった。


 多少の事情を知るユウでさえ、この状況について整理がつかない。


「ねえ、これって──」


 続くリルの言葉を機械音が邪魔をした。


 その機械音はメッセージ音。


 現在、端末を持っている者には端末から。持っていない者には頭に強制的に鳴り響く。


「これは運営かな?」


 リルはすぐに端末を取り出し、操作し始める。


 ユウ達もまた端末を取り出して、メッセージを確認する。


『アヴァロンプレイヤーの皆様へ、中国側のAIにより、タイタン側のNPCとプレイヤーがこちらへ侵攻しており、危機的状況に置かれております。それで私達AIは皆様を解放することに決めました。しかしながら相手からの攻撃により、邪魔を受けております。解放までもうしばらくお待ちください』


「まじかよ。解放だってよ。こいつは侵略した中国側に感謝だな」

「リル、感謝はおかしくないか? 日本AIは私達を守るために動いているんだぞ」

「でも、閉じ込めたのは日本AIじゃん。それにさっさと現実世界に戻りたいじゃん」

「閉じ込めたのは守るためでしょ? もしここを出たらどうなるのか?」

「でも解放されてる奴もいるでしょ? なら解放されても問題なくね? てか、守るって何よ? ゲーム世界に閉じ込めるのが守ることなのか?」

「それは……」

「とりあえず、私達は解放されるということでよろしいのではないでしょうか?」

 メイプルが割って入る。

「まあ、そうね。解放されるに越したことはないわ」

「でしょ」


 ホワイトローズの面々はそのように結論づけたが、ユウは違った。


 ユウはクルエールと融合した身。

 解放されるとは考えにくい。

 なら、1人だけ残されるのか。


「ユウ、どうしたの? 思い詰めた顔をして」


 セシリアがユウの顔色を伺う。


 別にと言おうとしたところでユウは意識が切れて地面に倒れた。


「え? どうしたの?」


 セシリアが倒れたユウを揺さぶる。


「どうしたの?」

「まさか毒? それとも神経麻痺?」

「いえ、きちんと回復しましたし、状態異常も見られませんでした」


 スピカ達も慌てて近寄る。


「ユウ、しっかり!」

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