第26話 EXー2 臨時会議

 ロザリーは今回は誰よりも早く着席していた。そのロザリーは不機嫌に口を結び半眼で腕組みしながら右足で地団太を踏みながら他のメンバーが席に着くのを待っていた。

 そしてマリーを除いた全員が揃った。


「皆さん、今日は臨時会議にお集まりありがとうございます。今回は――」

「その前にキングゼカルガって何?」


 ロザリーは怒気を含めて遮った。


「おい、葵が喋ってる最中だぞ」


 セブルスが注意をかけるが、それを葵が手で制止する。


「構いません。実は今回集まってもらったのはそのキングゼカルガの件なのです」

「ふ~ん。で、あれは一体どういうこと?」


 と、つまらなそうに言うロザリー。


「前回の会議で高ランカーように調整を考えていたのですが、ゼカルガとカブキオオトカゲの間に大きな差があることが判明して、それで間にあたるキングゼカルガを登場させました」

「聞いてないんだけど。ていうかこの前の会議からまだ3日だよ。ていうかキングゼカルガなんだけどだいぶ前からいたよね」

「ごめんね。連絡が遅れて」

「葵さんは悪くありませんわ。わたくしが勝手にやったことです」


 マルテが言う。


「じゃあなんであんたは私に断りもなく新モンスターなんて配置するの?」

「連絡はいたしましたわ。全員に。ただ、貴女だけ返信がありませんでしたけどね」

「ないなら連絡見てないってわかるでしょ」

「それはそちら側の責任でございましょう」


 マルテの鼻で笑った態度にロザリーは激怒する。テーブルを二度叩き、


「あのね。こっちは忙がしいのよ。返信が遅れてもおかしくないでしょ。私がプレイヤーに説明する立場なのよ。説明なく新モンスターが現れたらプレイヤーが困るでしょ。それに絶対連絡前に配置してたよね」

「急を要することですので」


 マルテは言葉短く返す。ロザリー再度テーブルを強く叩く。そして、二人は睨み会う。ロザリーは目を尖らせて、マルテは目を細め冷たい視線を向ける。


「ロザリー、落ち着いて」


 葵がロザリーをなだめる。


「他に変なことしてないよね?」

「カブキオオトカゲの上位種を考えております」


 その返答にロザリーは口を大きく開ける。


「はあ? なんてやつよ?」


 マルテは少し間を置いて、


「メタルカブキオオトカゲです。マルチ型でレベルは100」

「却下よ。却下。ほとんどプレイヤーが倒せないでしょ。アンタ馬鹿なの?」


 ロザリーは眉を八の字にさせ、右頬を歪める。


「でも倒せるプレイヤーがいるでしょうに」

「そりゃあ、いるけどさ。数名のために新モンスターなんて贔屓よ」

「皆さんはどう思います?」


 マルテは周りの顔を見渡す。


「うちは別にええけどな」

「わたくしも問題はありませんが」


 セブルスとヤイアも賛成する。


「葵さんはどう思いますか?」


 葵は目を瞑り熟考する。確かにソロでカブキオオトカゲを倒せる人がいる。とくにスゥイーリアクラスのプレイヤーなら瞬殺だ。しかし、そういうプレイヤーは全体の一角。半分以上のプレイヤーは倒すことすら困難だ。なら今は全体のことを考えておくべきだろう。しかし――。

 そして葵は決意をして目を開ける。


「メタルカブキオオトカゲは七日目に一体だけ登場させましょう。ロザリーは六日目の夜に発表を。マルテ、メタルカブキオオトカゲの討伐参加人数は?」

「15名と考えております」

「百名にしましょう。それとメタルカブキオオトカゲのレベルを120。いえ130に」


 セブルスが口笛を吹いた。


「そいつはすげえな」

「メタルカブキオオトカゲのモデルができたら私のもとに」


 ロザリーだけが面白くなさそうにする。


「ロザリー? 問題でも?」

「別に。ただ今後こういうのはきちんと私の返信があってからお願いするわ。プレイヤーのストレス値が跳ね上がるのよ」


 ロザリーはつまらなさそうに椅子の背もたれに身を預ける。


「ええ。返信を待ってからいたしますわ。ただ返信を早めにお願いしますわ」


 マルテの口元は上品に笑うが目は鋭い。その小馬鹿にした態度に再度ロザリーはキレた。


「あんたねえ!」


 背もたれに身を預けてたロザリーは勢いよく立ち上がった。そしてテーブルに足を乗り上げようとするが、それを隣りに座るヤイアに体を掴まれる。


「離しなさいよ」

「ロザリー、ちょっと落ち着きなさい。マルテもいい加減にしなさい」


 ヤイアはロザリーの体を抑えながらマルテを咎める。


「あら、ごめんなさい」


 と、マルテは上品にホホホと笑い謝る。

 葵は一度息を吐き、声を大きく放つ。


「二人とも喧嘩は禁止! 次、喧嘩したら権限を剥奪します」


 そう言われ二人は口を閉ざす。

 ロザリーはそっぽを向き、座り直す。


「次にアヴァロン、タイタンプレイヤーのストレス値はどうなっていますか?」

「こっちは少し上がってるけど抑えられない程ではない」


 セブルスが全く問題ないと言う。


「アヴァロン側は残念ながらストレス値が上昇しておりますわ」


 ヤイアが下を向いて答える。


「ほらキングゼカルガなんて出すからよ」

「いえ、それが原因ではありません」


 ヤイアが違うと言う。

 ぷぷっとマルテが口に手を当て笑う。

 それにロザリーが反応するが葵が目で諌める。


「原因はプレイヤーでしょう」

「プレイヤーとは?」


 葵が聞く。


「プレイヤーの中に悪質なプレイヤーがいるのです」

「ああ、そういう奴な。タイタン側にもいるぜ。本当にどうしようもねえよな」


 そう言ってセブルスは頭の後ろに手を組み、椅子の背にもたれかかり天井を見る。


「いかがいたしましょう?」


 ヤイアが葵に伺う。


「今回イベント終了までNPCの自警団で対応を。それでも悪質な場合は掲示板で注意換気を。イベントが終了すればプレイヤーも悪さを控えるでしょう」

「わかりました」


  ○ ○ ○


「それでキングゼカルガの件ですけどかなり前に配置してたのでなく、本当は《初めから》配置してたんでしょ?」


 今、部屋にはロザリーと葵しかいない。ロザリーは椅子ではなくテーブルに腰を下ろしている。


「ええ。そのようでしょうね」


 ロザリーは大きく息を吐き、やれやれと手の平を上にする。


「自由過ぎやしませんか?」

「少しくらいは大目に見ましょう。彼女もこれ以上は好き勝手しないでしょうし」

「ならいいんですけどね」


 そう言ってロザリーはテーブルから腰を離し、歩き始める。部屋を出る手前で立ち止まり、振り返る。


「でもこれから長くなるというのに初っ端からごたつくのは嫌ですね」


 ロザリーはそう言い残して部屋を出た。

 部屋に一人ぼっちになった葵はため息混じりの息を吐いた。




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