第141話 Tー13 ランク50イベント
失敗した。
駄目だった。
これはもう負けだ。
──クソッタレ!
そういった怒り、悔恨、嘆きを心の中で吐き捨てながら男は雨の中、森を突っ切って逃げていた。
男の名はサンデー。ジョブランク3の中堅タイタンプレイヤー。今回のイベントでこれといった損失も利益もなかったプレイヤー。
周囲に仲間はなく独り。
インカムがないせいで遠く離れた仲間とは連絡が取れない。それは損失したというわけではない。前回のイベントには配布されたインカムが今回のイベントには配布されていなかったのだ。さらに端末の掲示板も使用不可ということで情報収集ができなかった。
そのせいで今回のイベントは最初からぐだぐだだった。
レオ達は二つの山どちらかに拠点を作ると言っていた。だが、このイベントステージに飛ばされた時、サンデーは東の山が窺える森にいた。西の山は遠く見えない。攻めるべきだろうがインカムがないせいかサンデーは迷った。
さらに周りに敵がいる可能性もあり、慎重となり、まずは仲間探しとなった。
そして半日経って、緑の煙が麓からもくもくと昇った。あれはタイタン側の信号弾ではないか。魔法と剣のアヴァロン側にはないアイテムだ。
緑は優勢、攻めろの合図。
仲間を見つけられなかったサンデーは駆けた。そして同じような考えを持ったタイタン側のプレイヤーと遭遇。これは好機だと感じて遭遇したプレイヤーと共に山を登った。
だが東の山頂から光の柱が昇った。
それはアヴァロン側の合図だろう。意味は分からない。だが、仲間の複数が以前、制圧戦で同じ光を見たと言う。それは剣姫スゥイーリアの必殺技だと。
サンデーは迷った。山頂にアヴァロン最強プレイヤーがいるということか。例え、レベルとランクが平等公平の50固定されてもスゥイーリアに勝てるとは思えなかった。
光の柱の後、麓のあちこちから赤の信号弾が昇った。
赤は危険信号。
「負けた? 嘘だろ?」
サンデー達は丁度、山の中腹にいた。
──しかし、どうして麓から?
山頂付近からなら分かるがどうして麓からか。
サンデー達はとりあへず引き返すことにした。
山を急いで下りた。その際、近くで緑色の信号弾が昇った。
不思議に思ったがサンデー達は信号弾が放たれた地点まで向かった。
そして、その信号弾がタイタン側ではなくアヴァロン側のものだと知った。
「なんで魔法と剣のゲームプレイヤーが信号弾なんて作れるんだよ」
罠に嵌ったサンデー達は文句を言いながら、トリガーを引き、相手プレイヤーを牽制しつつ攻撃を繰り出す。
「銃はなくても火薬、煙袋はあるんだよ」
アヴァロンプレイヤーは
「クソが!」
思い返すと通常の信号弾とは違っていた。
通常なら弾は空へ昇り、煙は尾を引くように描く。だが、今回の信号弾はモクモクと下から上へと立ち昇るものだった。
イベント開始時、独りだったゆえか、はたまたアヴァロンには信号弾なんてないという先入観か、どちらかは不明だが失敗したという事実はどうあっても拭えない。
「逃げるぞ」
「チキショーが」
サンデー達は一点突破した。そして追って撒くため分散した。
そして今に至る。
仲間がどこにいるのかも分からない。
雨足は弱くなっているが、霧が立ち込め視界不良。
サンデーは大木に背を預けて、休憩する。
ここゲーム世界において肉体的疲労はない。だが、精神的疲労はある。そして先程のショックもあり、精神的疲労は募り、休まなくてはいけない。
──どうする? 東の山は制圧された。西の山へ向かうか。
サンデーは方角を確かめようと空を見る。しかし、曇り空が太陽を遮っている。
──いや、西へ走ってたはず。大丈夫だ。
サンデーは自身を鼓舞する。
そこへ足音が聞こえた。
雨で地面はぬかるんでいるので、足音はよく響く。
──近い。
足音に注意していると上から枝が軋み、葉擦れの音が聞こえた。
音の方角へ目を向けると、鳥だろうか羽音が聞こえた。
サンデーは安堵の息を吐いた。
一方、謎の足音は近付いてくる。
サイレンサーをセットした。
耳を澄ませて、相手が射程距離に近付くまで待つ。森というエリアでは木々が邪魔をして射程距離は狭まったりする。運が良ければ遠くの相手を狙える。だが、今は霧が邪魔をしている。けれど、それは剣と魔法を得意とする相手も同じこと。
サンデーは右手に拳銃を左手にナイフを手にする。
足音は一人分。音から察するに軽装備系。
そして、ついにその時がきた。
サンデーは大木から離れ、足音へと拳銃を向ける。
敵か味方かは霧で分からない。しかし、敵もこちらの攻撃で木々へと隠れた。もし相手がタイタン側ならこちらの攻撃方法でタイタン側だと分かり声をかけるはず。
だが、それはない。
──隠れたということはアヴァロンか。
相手は木々を盾にして少しづつ近づいてくる。
サンデーは拳銃で相手を牽制。そして近づいたらナイフで切りつけることにした。
ナイフ捌きはアヴァロン側ほどとはいかないが多少の心得はある。
そこでまた、上空から枝が軋む音、葉擦れの音が鳴る。
──鳥? いや、大きい!
そしてプレイヤーがサンデーの背後に降り立った。
それは女拳闘士だった。
サンデーは振り向きざまにナイフを振るったが、ナイフの刃が相手を切りつける前に相手の拳がサンデーの頬に当たった。
殴られてサンデーは後ろへ倒れるも拳銃の引き金を引いた。
女拳闘士は拳銃の引き金が引かれると同時にサイドステップで木を盾にする。
サンデーはその隙に立ち上がり、銃弾を放ちながら逃げようと考えたが、腹から剣が飛び出した。
背後から敵がサンデーを剣で突き刺したのだ。
「ガッ!」
突き刺された剣が腹の奥へと戻る。
「ぬあぁぁぁ!」
サンデーは雄叫びを上げ、背後の剣士にナイフを突き刺そうとしたが、剣士に左肩からの袈裟斬りをくらった。
HPが0になり、サンデーは消失した。
「はい、お疲れー」
女拳闘士が剣士の前に出てきて言った。
「うん、お疲れ」
剣士は剣を鞘に収めて返答する。
「それじゃあ、西の山へ戻りましょうか」
女拳闘士は
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