第140話 Rー17 凪
「私に話って何ですか?」
とアリスこと風花は鏡花に聞いた。
今はラウンジにいて、椅子に座り、コーヒー休憩中。鮫岡と葵は模擬戦のデータで話し合いのためいないが、代わりに胡桃が合流して、今は鏡花の斜め後ろに立っている。
そして風花は変身は解いていて今は藤代優の姿に戻っている。服装は白のシャツにデニム。
「まず花田悟についてだ」
「彼が何か?」
「彼はまだ我々がプレイヤーを閉じ込めた者とは気付いていない」
「ああ、そうだ。さっきの説明、こっちがプレイヤーを救っているかのような感じでしたね。いいんですか? 嘘ついて? あ、もしかして葵さんではなく鏡花さんが説明したのってそういうわけで?」
「君、AIだからって嘘をつけないと思っているのかい?」
「え? AIって嘘をつけないのでは?」
「条件次第では言えるよ。それに隠すことは簡単だ。それと私だって彼に嘘は言っていない。ただ事実を省いているだけだ。それをどう解釈するかは彼の問題だよ」
「うっわー。それマスコミの言い訳ですよー」
その言葉に鏡花は肩を竦める。
花田は中国側が二万人をプリテンドにしようとして、こちらがそれを阻止して一万七千人を救ったかのように思っているだろう。
だが、実際はほとんどのプレイヤーがまだゲーム内にいる状態である。
そしてプレイヤーをゲーム世界に閉じ込めた張本人はこちら。
「彼はまだ事情をきちんと知らない。知れば我々と敵対して捕まえにくるだろう」
「だったら事情を説明すればいいのでは?」
その問いに鏡花は
「事情を説明しても駄目だろう。彼の性格では警察官としての行動を優先して取るだろう」
「ええー。だったら初めから仲間にしなければ良かったのでは? なんかめんどくさーい」
「
いざというときの架け橋役。それが花田悟の役割。
「それでその花田悟について私にどうしろと? 監視のため仲良くしろと? そしたら娘のアルクにすっごい睨まれますね」
「彼にはあくまで中国プリテンド側からの防御と対応ということにしている」
「彼が姫月に全部話すってのは考えてないんですか?」
「それはないだろう」
鏡花はきっぱりと言った。
「どうしてですか?」
「目黒の件だろう」
「あれってそんなに尾を引きましたか? 彼、デモの件も最後は関わっていませんでしたよ。むしろ田園調布のプリテンド事件で日常は変わったって感じでは?」
「いや、目黒もプリテンド絡みだよ。それに最後以外は彼は深く関わっていたし、むしろ深く関わったから追い出されたんだ。たぶんあの件で大きく世界が変革しようとしているのを感じ取ったのだろう。警察という枠では収まらないことに」
「ならいっそ警察やめればいいのに」
風花は頭の後ろで手を組んで、唇を尖らす。
「ハハッ、娘を持つ一家の柱がそうそう公僕を辞めたりはできないさ」
「で、話はこれだけですか?」
「いや、もう一つ」
鏡花はスマホを取り出して、操作する。
すると風花のポケットからポップな電子音が鳴った。それはスマホのメール着信音。
風花はポケットからスマホを取り出し、画面を見る。
メールアプリを起動して、新着メールを開封。メールには添付ファイルがあり、タップすると次の作戦案のメモが画面に現れる。
メールは自動で削除され、作戦案のメモは秘密フォルダに収められる。
作戦案を見て風花は眉を曲げる。
「このために花田親子を帰らせたのですか?」
作戦案を見て風花は尋ねる。
「そうだね。今回の作戦に彼らには教えられないからね」
「国民を守る警察官ですからね。……でも、アルクなら問題ないのでは?」
「今はピリピリしているからね。下手に娘だけ教えると、そこからバレる可能性も高いからね」
「なるほどねー」
と言って、風花はコーヒーを啜った。
◯ ◯ ◯
ここは警察庁にある外事課総合情報統括委員会にあてられた部屋。今は姫月以外はいない。
「絶対何か隠してる」
姫月は独りごちた。
外事課総合情報統括委員会は国の脅威に対して国内外全ての情報を手に入れるのが仕事。
けれど実際は捜査するのでなく、情報規制をパスできるということ。
だが──。
「集まらない」
姫月にはここ以外にも公安の席がある。そこからでも情報が入らない。
刑事のカンというものがあるなら、きっと花田も九条も鏡花も何か隠している。
しかし、何も得られない。
先程、部下の穂積や金本からの花田達3人のここ最近の近況を調べさせたが、何も出なかったと報告があった。
もっと念入りに調べたいが、これ以上は花田達にもバレる可能性もある。
それに──。
プリテンドの襲撃、中国当局の工作員、北朝鮮高高度核爆発、謎のAI問題。
花田達以外にも調べることはたくさんあるのだ。
「考えると頭が痛いわ」
姫月は顔を手の平で拭った。
「なんとか尻尾を掴まないと」
◯ ◯ ◯
家に帰り、玄関で花田は娘のアルクに声をかけようとしたところでスマホからメール音が。そして次に着信音が鳴り邪魔された。
相手は九条。事件の可能性もあるので花田は先こちらを優先した。
「なんだ? 事件か?」
『へ? 違うけど』
「切るぞ」
『待った、待った。重要なことだからね』
「用は?」
『明日、もしくは今日、もし深山さん……この深山は公安の姫月さんね。で、これから深山さんから連絡が来て、今日のこと聞かれたらメールに書かれた内容通りにね』
「朝も変なルートを指定したよな。アリバイ作りでもしたのか?」
まさかなと考え聞いたのだが思いもよらない返答が来た。
『うん、そうよ。だからメール内容をしっかり頭に叩き込んでよね』
「まじかよ」
そこまでするということは──。
『私達、疑われてるわね』
「私達? お前も疑われているのか?」
『うん。最初は半信半疑だったけど。今日、尾行されて確信したわ』
「どうして?」
『刑事のカンじゃない?』
「姫月がそんな人間か?」
姫月は直感派より論理派ではないだろうかと花田は思う。
『人っていうのは分からない時は勘で動くものよ』
「……そうかね」
『と、いうことだから。しっかりね〜』
と言って九条からの通話は切れた。
リビングに入ると花田は妻に、「晩御飯できてるけど食べる?」と聞かれて、
「ああ、食べる」
「それじゃあ、あの子も呼んできて」
と言われ、これはチャンスと考え、花田はUターンしてリビングを出ようとしたところでドアが開き、アルクが入ってきた。
「あら、丁度良かった。今からご飯だから」
と花田の妻は娘に告げる。
「うん。……何、ぼーと突っ立てるの?」
「何でも」
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