第142話 Tー14 再会
アリスは断崖から海を見下ろしていた。
「……まじか」
波が崖にぶつかり、白い泡を散らす。
次にアリスは海色の空を見上げた。
「……まじか」
◯ ◯ ◯
地図もない、インカムもない、イベントステージに飛ばされると草原で誰一人もいない。
目印となるものもなく、アリスは
遠くに山がうっすらと見えるが、あれはレオ達の言う山ではないようだ。壁のような山脈。
アリスは待つか動くかで長い間逡巡して、やっと足を動かすことに決心した。
まずは遠くの山脈とは反対の方角へと進んだ。こう言う時は見晴らしの良い場所を選ぶらしい。しかし、例え今がレベル・ランク共に50であっても一人で敵に遭遇するかもしれない場所へ向かうのは危険と考えた。
◯ ◯ ◯
そしてアリスは草原を抜け、崖の上に辿り着いたのだ。崖の上から大海が眺望できる。波が踊りながらこちらへと向かい、そして崖に当たり、泡と散る。
「これって山に向かえば良かったってこと? ……でもなー」
アリスは肩を落とした後、ゆっくりと三角座りした。崖の上からはほぼ同じ色の大海と青空が望められる。
「皆、どこにいるんだろ? やっぱ山かな?」
基本は見晴らしの良い所に拠点を作る。
しかしそれは他のプレイヤーとかち合うことを指す。向こうもまた同じ様に見晴らしの良い場所を確保したいはず。
そうなれば戦闘は避けられない。
相手も自分と同じレベルなら攻撃しない手はない。さらに相手がたった一人なら尚の事。
仲間のいないアリスにとっては山を踏破するのは自殺行為でもあった。
「このままイベント終わるまでここに居よっかな?」
アリスは膝に顎を乗せる。
ゲーム内ではお腹が空かない。そしてじっとしていても死なない。
「どうせ私なんか活躍しないし」
◯ ◯ ◯
どれくらい経ったか?
海も空も黒味を帯び、世界は曇り始める。
アリスは意識して視覚内に時刻を表示させる。
17:11。
──そろそろどこか寝泊まりできるとこを探さないと。
アリス立ち上がり、尻を叩いた。
周囲を見渡し、海に対して左手に夕陽が差している。なら前は北で左は西。右は東でやって来た方角は南ということ。
アリスは南を向き、ホルダーから拳銃を取り出し、しゃがむ。そして銃口を地面に付け、手を離した。すると銃は銃口を東に向け倒れた。
「東か」
◯ ◯ ◯
崖に沿って東に進むと段丘に当たった。
さらに段丘の南側には森が。
アリスは今日は段丘で休んで明日は森を散策しようと考えた。
そして段丘に辿り着いたアリスは崖に背を預けてぼんやり座った。時刻はもう19時を過ぎていた。空は青黒く星が瞬いている。
星座というものに全く知識のないアリスには星々はただの光であった。綺麗である。だが、それだけ。
そんな光の中で一つの光が流れた。それに呼応するかのようにアリスは静かに涙を流した。
「皆、どこよ。バカ兄貴、バカエイラ、バカキョウカ、バカクルミ、バカカナタ」
実際彼等は何一つ悪くない。むしろ悪いのはこのゲーム世界に自分を閉じ込めた──。
「全部、ロザリーよ。あいつが全部何もかも。どうして、どうしてこんな目に。私が何をしたのよ。帰してよ。お願いだから帰してよ」
でも返事は返ってこない。
誰もいない中、アリスの声が
アリスは立ち上がり、海へと足を向ける。そして崖ギリギリのところで海に向かって拳銃をぶっ放した。
乾いた音が鳴り響く。
もう一度、トリガーを引く。そしてまた何度も。銃槍が空になるまで何度も。
そしてカチャッという空になった時の音が鳴る。
「ユウのバカーーー!」
最後にアリスは特大の雄叫びを上げた。
なぜユウなのか、それは不明。先程のみんをバカと言ってた中、ユウだけバカと言っていなかったからか。
「ユウのバカーーー!」
もう一度アリスは海に向かって叫んだ。
「なに人様をバカにしてんのさ」
「ふえ」
後ろから声が。
アリスは驚き、振り向く。
するとそこにはユウがいた。
「だ、誰? ……へっ、ユ、ユウ!? あんたどうして、って、きゃあ!」
つい右足を踏み外し、バランスを崩し、崖下へと落ち──。
「危ない!」
ユウが右腕を掴み、自分の方へと引っ張る。
「大丈夫か?」
「うるさい! てか、あんたのせいでしょ」
「理不尽な!?」
◯ ◯ ◯
「なるほどね。そっちも地図にインカムもないのか」
崖から離れて、二人は段丘に尻を地面に着けて座っている。そしてロザリーから支給されたサバイバル食事セットで晩御飯を食べている。どうやら朝昼晩と食事が提供されるらしい。
その事についてアリスはろくに説明書を読んでいなかった。それゆえ食事が定期的に支給されるとは知らなかったのだ。そしてそのことをユウに教えられた時にはアリスは大層驚いていた。
今、二人が食べているのは特殊カップ麺。ラベル蓋を剥がすだけで出来上がるもの。ゲームならではの仕様である。
「インカムは初めっから無かったよ」
前回の制圧戦ではタイタン側だけ配布されていた。
「平等にするためインカムを無くしたってこと?」
その問いにユウは首を振る。
「それは違うような気がする。アヴァロン側でも連絡手段はいくつかあるようだし」
「どうやって?」
ユウは啜った麺を飲み込んだ後、
「ん、鳥とかを使うんだって。あと使い魔みたいものとか」
「へえ、ユウは使えないの?」
アリスはズズッと麺を啜る。
「そういうのは獣使いや魔法使いじゃないと」
「それじゃあ、今回のイベントはこっちが不利?」
「……どうだろう。タイタン側は何らかの連絡手段はないの?」
「う〜ん。そんなスキルやアビリティを聞かないわね」
「そういえば、さっきのは何?」
そう言って、ユウは最後の麺を食べ終える。
「?」
アリスは口の中で麺を噛みながら、首を傾げる。
「ほらさっきの人の名前とバカーっていうあれ」
「ああ、あれね、……ほら、海ってバカーって叫びたくなるじゃん? あんな感じ」
「え、あ、うん。それも気にはなっけど。その前の銃をぶっ放してたやつ。あれは何?」
「……まあ、気分転換よ」
「いやいや、超危険だから。いきなり銃声がしたから敵が近くにいると思ったよ。アリスも無闇に銃をぶっ放すと敵に位置がバレるよ」
「てかアンタ敵じゃん」
「まあ、そうだけど」
二人は同時にスープを飲む。
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