第143話 Aー13 一方その頃①

「やあ!」


 アルクは敵に対して袈裟がけに剣を振る。


「グアッ!」


 相手はうめき声を出して消失。


 ここは森の中で先程消失した相手は自動拳銃をメイン武器とするタイタンプレイヤー。

 アルクは剣を地面に刺し、一息吐いた。


「ふう。なんとか倒せた」


 全プレイヤーはレベル・ランク共に50となっている。


 だが、ステータスも同じというわけではない。ジョブを修得すればステータスボーナスが付く。それゆえ多くのジョブ、とりわけジョブクラスの高いジョブを修得すればたとえ相手と同レベル・ランクであってもステータスに開きが生まれる。


 アルクは上級に足を入れたばかりのランカーであるが修得したジョブは多い。さらに誰にも話していない秘密のEXジョブを修得している。


 だが──。


「しんどい」


 イベントが開始してからアヴァロン側のプレイヤーとは会うことがなく、逆にタイタン側のプレイヤーばかり遭遇する。そしてその度に戦闘。もう五度目の戦闘。相手のジョブクラスが分からないため、ハイランカーかローランカーかも見分けがつかない。


 ──もしかして敵陣営内? いやいや、違うな。こういう時って山とか見晴らしのいいとこに拠点作るし。ならなんで敵プレイヤーとしか遭遇しないんだよ。


 アルクは頭を抱え、溜め息を吐いた。

 地図もないし、端末の掲示板も使用できない。


 端末を操作して武器も変えることも出来ないし、回復アイテムも使えない。使えるのは現在所持している武器とアイテムだけ。一応その件は事前の知らせで知っていた。


 しかし、地図と端末の掲示板が使えないのは意外だった。これでは自分がどこにいるのか分からないし、仲間と連絡が取れない。


「大丈夫かな? 特にセシ」


 パーティー内で1番ランクが低く、つい最近デビューしたばかりなのはユウではあるが、頼りなさで言うとセシリアであった。


 アルクは剣を鞘に収めて、森の中を進んだ。


  ◯ ◯ ◯


 そのセシリアはというと運良くアヴァロンプレイヤーと出会っていた。


 ただ、そのプレイヤーがこのデスゲーム開始時に一時的にパーティーを組んでいた子だった。


 名はペリーヌ。ジョブは白魔法使い。兄経由で知り合った仲。


 デスゲーム二日目でペリーヌと方向性を巡って仲違いをしてセシリアは退団。


「そこそこ頑張ってるらしいじゃない」

 ペリーヌが重苦しい空気の中、話を振る。


「まあね」

 セシリアはそっけなく答える。


「…………あんたまだ根に持ってるわけ?」

「別に」

「それが根に持ってるって言うのよ」

「ちょっと五月蝿いわよ。敵に見つかったらどうするのよ」

「何? ビビッてんの?」

 ペリーヌが小馬鹿にしたように言う。


 それにセシリアは額を引き攣らせて、

「はあ? あんた……」


 そこで鳥の羽ばたく音が言葉を遮った。


 セシリアは少し屈み、ペリーヌは木に擦り寄る。


「……とにかく、敵に囲まれたどうするのよ!」

 セシリアは声を小さくして言う。


「何? 鳥にビビッてんのさ」

 ペリーヌはニヤリと笑う。


「あんただって、木に擦り寄ってるじゃん」

「それは相手の攻撃を受けないようによ!」

「私も頭に銃撃を受けないようによ!」

「嘘つけ!」

「そっちで……」


 次は爆撃によって言葉が遮られた。それは音ではなく衝撃で。


『ぎゃあ!』


 セシリアは十数メートル吹き飛ばされ、地面に顔をつけさせられた。


「げふっ! 何よ! いきなり!」


 セシリアは起き上がり、すぐに近くの木に体を隠した。


「あいつは?」


 周囲を窺い、ペリーヌを探すが見当たらない。


「直撃して消滅? ま、どっちでもいいか?」


 セシリアはその場から走り去った。

 しかし、数メートル離れて、足を掴まれて転んだ。


「ぶっ! ……な、何?」


 セシリアの足を掴んだのは地面に転がっているペリーヌだった。


「ちょっと、放しなさいよ!」

「あんた見捨てる気?」

「どうしろって言うのよ?」

「戦いなさいよ?」

「私が戦ってる内に逃げる気でしょ?」

「そんなわけないでしょ!」

「信じ……」


 また爆撃が二人を襲う。


『ぎゃあー!』


  ◯ ◯ ◯


 ミリィはこのイベントステージに飛ばされた時、西の山の麓に飛ばされた。


 その後すぐ、敵タイタンプレイヤーに遭遇。それをホワイトローズのヴァイスに助けられた。


「おや、助けてくれるとは。ありがとうございます」

「いえいえ、この山に拠点を作らないといけませんからね。ここだけはパーティーの垣根を越えて手を合わせて攻略すべきでしょう」

「ですね」


 それから他のアヴァロンプレイヤーと出会い、仲間を増やし山頂を目指した。

 山中、何度もタイタンプレイヤーと遭遇し、その度に戦闘が発生。


「さすがは古参プレイヤーだけあって、的確なフォローですね」

「それはどうも。でも最強パーティーのあなた達に比べたら全然ですよ」


 古参プレイヤーとは言え、所詮はジョブランク3の中堅ランカー。ジョブランク5のハイランカーとは天と地ほどの実力差があり、戦闘でそのことをしみじみと認識させられる。


「あんれーヴァイスじゃん?」


 現れたのはホワイトローズのメンバー二人だった。


「アルトにベル。リーダー達は?」

「さあな? で? それよりどうする?」

「? それは前もって話し合って通りにこのまま山頂を目指すべきでは? あと少しですよ」

「それは分かるが下の方にタイタンプレイヤーが

「ならすぐ拠点を作るべきでは?」

「いやいやいや、から、ここは集まる前に潰しておくべきだろ?」

「ふむ。そうですね。皆さんはどう思いますか?」


 ヴァイスは後方のミリィ達に聞く。


「あの、下でタイタンプレイヤーが集まり始めてるとはどうしてわかるのですか?」

 ミリィがアルトに尋ねる。


「お前、アムネシアの。へえ、珍しい面子だな」


アルトは面白そうに笑う。


「質問にお答え下さい」

「……ああ、味方にテイマージョブのやつがいてな。そいつの動物経由で周りと連絡したり、敵を監視して得た情報さ」

「なるほど。それで下の方にはタイタンプレイヤーが集まりつつあると?」

「そういうこった」

「どれくらい集まりそうなので?」

 ヴァイスがアルトに敵の人数を聞く。


「集まると13人だってさ。相手の強さは知っての通り、レベル・ランク共に50になってるから強いかどうかは分からん」

「……集まると13人ですか。では、集まらないように攻撃をすべきでしょうかね。もしくは集まったところを一斉に」


 ヴァイスは目を瞑り考える。


「私に良い案があります」

 ミリィが言う。


「何ですか?」

「火薬と煙袋はありますか?」

「あん?」


 アルトが眉を曲げる。


「相手は信号弾を持っています。多分、信号弾を使って合図を送るかと」

「だから何だってんだ?」

「僕、分かりましたよ」

「じゃあ、ベルよ、何だって言うんだ?」

「似たような信号弾を使って敵を混乱させるのでしょ?」

「はい」


 ミリィは頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る