第144話 Tー15 エンカウント①

 二日目の朝、ユウとアリスはロザリーから支給された朝食を食べ終わり、今は森の前に立っていた。


 ユウは昨日、森を北に抜けてここへと辿り着いたという。それで今度は反対に南に向かって森を抜けようということになった。


「さすがに一緒は駄目だよな」

「もちろん。もしバレたら大変よ」


 ユウはアヴァロンプレイヤー、アリスはタイタンプレイヤーで、本来は相容れないのが普通である。


「じゃあ、少し離れて行動するか」

「ええ。私が十五、六メートルくらい離れて後ろを歩くから」

「見失わないように」

「わかってるわよ。何かあったら声を上げるから」


 2人は頷き合い、森へと入った。


  ◯ ◯ ◯


 そして最初にプレイヤーと遭遇したのはアリスだった。いや、遭遇というか見えたというべきであろう。

 そのプレイヤーはユウを狙っていた。初めは知らぬ服装で誰か分からなかったが、


「ケイティー!?」

 アリスはわざと大きな声で呼びかけた。


 ケイティーは苛立ち表情でアリスへと振り返った。そしてアリスと分かるや、いつも通りの笑みを浮かべる。

 そして人差し指を口の前に立てる。


「ん? なーにー?」

 またしてもアリスは分からぬフリをした。


 ケイティーは足音を立てずにアリスへと近付き、口を押さえる。


「ん?」

「しー! 静かに! ほら見て、向こうにアヴァロンプレイヤーがいるでしょ」

「あー、うん」

「こっちに気付いていないので、こっそりといきますよ」


 ケイティーはニヤリと笑う。


「えーと、ほっとくというのは?」

「駄目ですよ。絶対」

「でも、ほら、相手がハイランカーとか分からないでしょ?」

「大丈夫ですよ。あいつ、ローランカーですから?」

「? どうして?」

「あいつとは前の制圧戦で少々ありましてね」


 とケイティーは言う。その目には得も知れぬねっちこい光が灯っていた。


「へ、へえ。……そう言えばケイティー、服装が違うね」


 いつもと違い、全体的に暗い色。タイタンプレイヤー特有のプロテクターも装着していない。


「ええ。今回はあいつを殺すためにジョブを変えたのですよ」

「そ、そーなんだ」


 ──待ってよ。ユウを殺すためにジョブを変えた? もう、どんな因縁があるのよ。てか、殺すって何よ。倒すでしょ?


「ちなみにジョブは何?」

「アサシンです」

 と言い、ケイティーは喉奥で笑った。


  ◯ ◯ ◯


 そして二人でユウを挟撃することとなった。


 ケイティーが前、アリスが後ろから。


 ケイティーは一人で十分と告げたが、アリスが少しは手伝うと言い張ったので、根負け……というか獲物にバレて逃げられたくないのでアリスにも手伝わせることにした。


 ただ、アリスには相手に後ろを向かせるという役目だけである。合図はケイティーが上空に石を投げ、枝葉を揺らすとのこと。


 ──どうしよう。どうやってユウを逃さす?


 わざとこちら側が狙っていることを教えるように動くとユウとの仲が疑われる。

 しかし、このままだとユウは倒される。

 そうこう考えている内に枝葉が揺れた。


 ──ああ! 合図だ。


 ユウは枝葉に気を取られ上を向いている。


 ──逃げて!


 アリスはユウに向け、乱射した。

 本当は一発だけだったが、たくさん撃てばユウも驚き、逃げるだろうと。

 なるべく当たらないように撃つ。

 しかし──。


 数発が命中。


 ──いつも外すのに! なんでこういう時に限って!


 命中と言えどアリスはまだジョブランク2のガンナー。攻撃力は低く、大したダメージは与えなかった。

 アリスから攻撃を受けたユウは逃げるだろう。できれば早くこの場から去ってもらいたい。

 だが、ユウが取った行動はアリスへの接近だった。


「ちょっ! 何で来るのよ! バカ!」


 アリスは威嚇へと銃弾を放つが、それはユウの肩に当たる。


  ◯ ◯ ◯


 ユウがアリスへと向かったわけはからであった。


 ユウはプレイヤーの気配に気付いていた。だが、アヴァロンプレイヤーからタイタンプレイヤーか決めあぐねていた。


 そしてアリスが発砲したことにより、戦闘が開始されたと勘違いし、相手をアヴァロンプレイヤーだという勘違いが発生。そしてユウはアリスを狙うという役割を演じることにした。


 ユウはダガー・ウィンジコルを取り出す。


「ちょっ何で来るのよ? バカ!」


 アリスは訳もわからず銃を発砲。一発目はユウの肩に命中。二発目以降はユウが弾を躱して、後ろへと流れる。


 間合いに入ったユウはアリスへと切りにかかる。


 それをアリスは2丁拳銃をクロスさせ、ユウの攻撃を防ぐ。

 本気の攻撃ではないため、アリスはやすやすと受け止めた。


「ちょっと!?」

「逃げるんだ」

 ユウは小声で言った。


「何言ってんの?」


 ──逃げるのはアンタよ! 後ろにケイティーがいるのよ!


 アリスはユウの後ろを見る。


「え? ええ!?」


 遥か後方にケイティーがいた。


 だが──。


 ケイティーはアヴァロンプレイヤー二人と戦闘をしていた。


「あんれー?」

「ほら、逃げ……え?」


 ユウも後ろをちらりと振り向き、そして二度見する。


「え? ん?」


 その光景はユウにとっても驚きだった。アリスを狙うプレイヤーと思いきや、自分も狙われていたとは。


 二人は目配せして頷く。「いやー!」と叫んでアリスは逃げ、ユウは「待てー」と声を上げて追いかける。


  ◯ ◯ ◯


 先程の場所から離れた二人。場所はまだ森の中で二人は膝に手をつき休憩している。


「まさか二人とも狙われていたとはね」

「アンタがこっちに向かって来た時は意味分かんなかったわよ」


 アリスは両の手の平を上に挙げる。


「それよりどうする? 一緒にいるとまずいんじゃないか?」


 ユウは次の行動について問う。


「実はさ。さっきのタイタンプレイヤー、うちのというか兄のパーティーのメンバーなんだよね」

「そうなの? どうする? 助けに向かう?」

「ううん? 今、行ったらどうなってるかな?」

 とアリスは肩を竦める。


「戦闘終わってるんじゃない?」

「どっちが勝ってるかな?」

「知り合いは弱いの?」

「ううん。強いよ。ハイランカー」

「なら大丈夫じゃない?」

「でも戦ってた相手の実力分かんないし。それに二人いたよ」


 例えハイランカーでもレベルとランクが50にまで下げられているのだ。しかも相手は2人。


「じゃあ、助けに?」

「ううん。まあ、いいかな?」

「え? でも知り合いなんでしょ? 後で見捨てたとか難癖つけられない?」

「うーん? 私、弱いって知ってるしアンタが追いかけて来たのも多分、気付いているし大丈夫だと思うよ」


  ◯ ◯ ◯


 その後、ユウとアリスは西へと抜けることにした。北から西、つまり右手側を進むということ。


 前回と同じ様にユウがアリスの十五、六メートル前を歩くということに。


 ただ今回はプレイヤーとの遭遇時及びその後の行動の際のいくつかの合図を作っておいた。


 そしてまたアリスはプレイヤーと遭遇した。


 次に遭遇したのは──。


「あ、兄貴」

「なんだその嫌そうな顔は?」


 そこでアリスは合図を思い出した。


「おおー! 兄よ!」


 アリスは大仰にセリフを発して、腕を広げる。そして抱き着こうとした。


「何やってんだ?」


 抱きつく手前でアリスは頭頂部を殴られる。


「あべし!」


  ◯ ◯ ◯


「ここの東の最果て岬が敗れたタイタンプレイヤーが飛ばされるエリアだ。で、今はここだ」


 と、レオは枝を使い、地面に地図を描きながら現在地と敗れた際、飛ばされるエリアをアリスに教える。

 今、アリス達がいる森は東の最果て岬から真西に進んだ所にある。岬との間には平原が広がっている。


「へー。近いね」

「近くない」

 レオにぴしゃりと返答される。


「え?」

「この島でかいんだ。この平原だって突っ切るのに時間がかかる」

「……一日経った今、兄貴がここにいるってことは負けたの?」

 アリスはニヤけながら聞く。


 それにレオはすかさずアリスの頭にチョップをかます。


「あべし!」

「悪かったな敗れて。初めに俺たちはこの山……拠点を作ろうとした山から少し離れた所にいたんだ。なんとか味方を集めて山に向かったんだが、東の山でスゥイーリアに敗れたんだ」

「エイラも?」

「いや、エイラには飛行能力があるからタイタンプレイヤーの誘導を頼んだ」

「一緒にやれば、もしかしたらいけてたんじゃない?」

「……さあな。そればかりは分からん」


 と言い、レオは地面に描いた地図に視線を下ろす。


 内心はレオでも参戦してくれたら戦況は大きく変わってたと感じているのだろう。


「俺はすぐにここへ向かう」

 と、レオは地面に描いた地図の中の丘を指す。


「なるほどここで集まって進軍ね。腕が鳴るわね」

「お前はここの渓流にでもいろ」


 と、森を南に出て、そのまま南下すると渓流がある。


「なんで?」

「足手まといだ」

「ひっどーい。レベルとランク同じなんだけど」

「同じでもジョブランクと修得数が違うだろ。ジョブランクが一つ違うだけでも大きな開きがあるんだ。そこに数を含めると……分かるな?」

「……」


 返してとしてアリスは唇を尖らす。


「ましてやお前はジョブランク2だ。正直、使えん」

「むー!」

「お前はちまちま戦って、ポイントを稼げ、……いや、何もするな。戦わなければ負けることもない。所持ポイントはそのまんまだ」

「え? ひどくない?」


 かなり過小評価されアリスはショックを隠しきれない。


「なら、倒せるのか?」

「それは……分かんないけど」

「だろ」


 そしてレオは歩き去ろうとする。


「え? まじで? 妹をほったらかしにするの?」

「どうしてもと言うならついて来てもいいぞ」

 と、レオは背を向けて告げる。


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