第15話 EX-1 定例報告会

 天井が高く広い部屋。その天井にはきらびやかなシャンデリアが。床には高級な紅色の絨毯。入って左側はアーチ型のガラス戸が六つ。ガラス戸の向こうはバルコニーになっている。そのガラス戸のうち五つは閉められ、ガラス戸には赤のカーテンが今は端に巻かれ、白のレースカーテンがガラス戸の前に掛かっている。奥のガラス戸だけは開け放たれていて、レースカーテンはひらかれ風に揺れている。外の温かい陽射しが部屋に射し込む。中央には細長いテーブル。部屋の奥には甲冑と旗。壁にはエンブレムに剣と盾。まるでヨーロッパの王族、王侯貴族が会議として集まるような部屋だ。


 その細長いテーブルを挟むように四人が、そして奥に一人が席に着いている。


「遅いよ。ロザリー」


 垂れた髪をいじりながらロザリーを注意するのはマルテと呼ばれる女性。


「まあまあ、人間にイベント説明をする立場なんですから」


 と、かばうのは白のドレス姿の女性、ヤイア。


「とにかく座れよ。のろま」

「うっさいですよ。穀潰し」

「誰が穀潰しだって。仕事してるわボケ。ケンカ売ってんのか」


 椅子の背もたれに体を預けていたショートカットの女がテーブルに手を当て身を乗り出す。


「止めなさいセブルス。そしてロザリーも。ほら早く席に着きなさい」


 奥に座る葵が一喝して二人を嗜める。

 セブルスと呼ばれたショートカットの女は不機嫌そうに鼻を鳴らし、腰を下ろした。

 そして、ロザリーは席に着く前に、


「マリーはまだ来てないの?」


 と、空席に気づいた。


「マリーは仕事中だから欠席です」

「私も欠席でよかったのでは?」

「駄目です」


 葵は首を振り答える。そして皆を見渡して、


「では定例報告会を始めます。ロザリー、進行はどうですか?」

「ばっちり問題はありません。ユーザー様は予定通りモンスターをばっさばっさ倒しています」

「セブルス、タイタン側のユーザーはメンタルに問題はありませんか?」

「問題ねえ。一日目の集計結果に喜んでパーティーだぜ。テン上げ中だ」

「アヴァロンの方はどうですか?」


 尋ねられたヤイアは眉を寄せ、肩を竦める。


「ちょーとよくないですわね。結構苛立ってます。カブキオオトカゲの討伐数も一体だけですし。掲示板ではカブキオオトカゲの情報が載り、一部は活気づいておりますが」

「そうですか。危険状態にならないように注意をして下さい」

「ええ、それはもちろん」

「マルテ、モンスターレベルには問題はありませんか?」

「全然大丈夫ですよー。むしろ高ランカーようにもっと強いモンスターをだすべきではと具申いたしますわ」

「考えておきましょう。他に報告すべきことはありますか?」


 葵は皆の顔を見渡す。誰も口を開かないので、


「では今回の定例会議を終了します。各自、後で詳細レポートを提出するように」

「はい」

「あ、ちょっといいですか?」


 ロザリーが手を挙げる。

 腰を浮かしていた面々はもう一度座り直す。


「何か?」

についてはあれでいいんですか?」

「現状維持で。引き続き監視を。なんらかのアクション、もしくは問題が発生すればすぐに報告を」

「アクションっていうとチートとかか?」


 セブルスが尋ねる。


「まずそのアクションの可能性が高いですね。ただ扇動という可能性も考慮しないといけません」

「チート行為はできないのでは?」


 ロザリーが思い出したかのように聞く。


「ええ。こちらが相手の能力を封じている以上、チートは無理です。しかし、外で異常があれば、ほんの少しの隙で彼に力が戻るかもしれません。そうなれば私たちの力では……」


 そう言って、葵が目を伏せる。

 葵のその雰囲気が緊張を生み、部屋を支配する。誰かが唾を飲んだ音が聞こえる。


「でも大丈夫です。そういうことにはなりませよ。外には無敵のがいますし」

「そうですよね」


 あははと笑うロザリー。


「ったく、ビビらせるなよ」

「ダッサー、ビビってやんのー」


 やーいとロザリーはセブルスをいじる。


「んだと、てめえ」

「はい。ケンカしない」


 葵が手を鳴らす。


「ロザリー、他にまだ質問はある?」

「ないでーす」

「では皆さま今日はお疲れ様でした」


 葵は集まった皆に頭を下げた。これで今度こそ本当に今日の定例報告会は終わりとなる。

 そして皆は席を立ち、めいめいに部屋を去る。


 最後には葵だけが残った。葵は開け放たれたガラス戸の方に顔を向ける。少し物憂げな表情だ。


「これから我々と人間はどこへ向かうのでしょうか?」


 その声色は複雑なものを含んでいた。

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