第14話 T-5 祝宴

 ブラームスのタイタン攻略隊、レオ率いるパーティー、そしてイベント攻略に率先して参加してくれたその他のパーティーを含めてバーで祝宴を催していた。


 ロザリーのランキング発表時、ちょうど講堂では昨夜と同じメンバーが集まり討伐報告を行っていた。そして総合ポイントでタイタン側が優勢、ランキングでは約4倍近く放していたことからブラームスがバーで祝宴でもと提案し、今に至る。アリスからしたらあと六日もあるなかで、たった一日の結果で騒ぐことかなと思う。しかし、貢献してない自分が言えたことでもないので口をつぐんだ。


 その騒ぎの中心から離れたテーブルでアリスは肘をつき、カクテルグラスに入ったチェリージュースをちびちび飲んでいた。まるで仕事で嫌なことがあったあとの女性のような雰囲気を醸し出す。


「どうしたのこんな暗いところで」


 エイラが心配して尋ねてくる。


「私のことはほっといて」


 アリスは顔を向けずに答え、カクテルグラスに注がれた桃色の液体を揺らしながら息を吐く。


「もう。今日のことは気にしなくてもいいのよ」

「別に気にしてないし」


 今日は一日最悪だった。初心者だからレオたちとは別行動でレベルの低いゼカルガを一人で倒していた。別行動といってもレオたちから少し離れたポイントでの戦い。ピンチのときはレオかエイラに救援を頼むことになっていた。だから心配もなかった。


 なんとかゼカルガを一人で倒して続けて一時間くらい経ったころだろうか、飽きてきたので少しブラブラしてたところをカブキオオトカゲに遭遇し襲われたのだ。近接格闘技術のないアリスは逃げるしかなかった。


「アリスのおかげでカブキオオトカゲの発生地が特定したんだから」


 エイラはなんとか励まそうとする。

 追われてすぐ逃げレオたちに救援を送ったが、皆はゼカルガを単体で狩り始めていて、メンバーは散り散りと展開していた。だからアリスがレオたちのいたポイントまで逃げたころには誰もいなかった。それからアリスは必死で逃げ回り、やっとメンバーの一人と出会い助けてもらった。その後、エイラやその他のメンバーも来てくれた。兄のレオは最後の方に現れた。こうしてアリスはカブキオオトカゲから逃げ延び、カブキオオトカゲはメンバーたちにより駆逐された。助けに駆けつけたみなは、口々に意外と楽勝と言う。それはレオたちクラスなら単体でもカブキオオトカゲを倒せるということ。


「そうね。私が第一発見者だものね」

「じゃあどうして拗ねてるの?」

「別に拗ねてないし。あのクソ兄貴が」


 アリスはカクテルグラスを強く握り、中の液体を睨む。

 カブキオオトカゲが狩られた後、レオはアリスにカブキオオトカゲの遭遇場所をしつこく聞いてきた。恐怖とパニックでしどろもどろになっていたアリスはきちんと覚えていなく、それでも叱責して聞いてきたのだ。


「あとから来たくせに偉そうにしてさ」

「そうでもないですよ」


 割って入ってきたのはパーティーメンバーのケイティー。アリスをカブキオオトカゲから最初に助けてくれたメンバーだ。身長はアリスより低く、ゆるふわヘアーの女の子。人懐っこい笑みをする。


「ああ見えてめちゃくちゃ心配してますよ。遅れて来たのはアリスさんが最初にいたところに向かったからだそうですよ」

「入れ違いね」

「そう」


 そのレオは皆と談笑しながらビールを飲んでいる。


 そこへドアの鈴が鳴った。ドアが開き二人の女性がバーへと入ってきた。

 一人は白いドレスを着た金髪の女性で、いかにもお嬢様然として品のある姿勢。もう一人は付き人のようにお嬢様の後ろについている。茶髪に右のサイドーテール、服は青と黒の戦闘服。


 二人はレオたちに挨拶するとメンバーが二人に椅子を用意した。お嬢様は礼を言って座り、付き人は座らず立ったまま。


「誰?」


 離れたところから眺めていたアリスは誰ともなく聞いた。答えたのはケイティーで、


「深山グループの令嬢ですよ。後ろの付き人はクルミさんです」

「ふぅん」

「スポンサーですよ。うちの」


 と、言ってスポンサー名の入ったプロテクターを指す。ケイティーの胸プレートの下にパーティー名があり、その下に深山グループとある。


「深山グループは日本のインフラや医療品、電子機器で有名なとこですよ」

「そうなんだ」


 どうでもいいという風にテーブル向き直り、アリスはカクテルグラスのジュースを飲む。


  ○ ○ ○


 朝7時にパーティーメンバー専用のブリーフィングルームに着くと。


「今日の戦闘はいいわ」


 と、エイラに告げられた。


「え、なんで?」

「今日からカブキオオトカゲ狩りだからアリスはちょっとね」


 エイラ肩を上げる。


「はいはい。私は足引っ張るからね」

「まあまあ。でも、今日はショッピングだから」

「ショッピング?」

「そう。今日やってくるお客さんと一緒にショッピングに行くの」


 エイラは手を合わせ、にこやかに言う。


「誰?」

「深山さんよ」

「深山?」


 アリス反芻して相手思い出そうとするがなかなか思い出せない。


「ほら昨夜の令嬢さんよ」

「ああ! あのスポンサーの」

「そう。深山さん、あまりゲームに詳しくないの。それでうちに白羽の矢が立ったの」

「その人も初心者なの?」


 エイラは首を振る。


「いいえ。ただ慣れてないだけなの」

「よくわかんないけど。まあいいや」

「ショッピングは10時からだから」

「わかった」


 アリスはブリーフィングルームを出て、のんびりと朝食を摂ろうと食堂へ向かった。


  ○ ○ ○


 10時手前に客の深山たちは宿舎にやって来た。しかし、


「あら、この子は?」


 客は深山と付き人のクルミの二人のはず。そこにもう一人いる。小学校低学年くらいの小さな男の子だ。


「ああ、この子は一昨日一人でいるとこを見つけてね。どうやら知り合いがいなく一人ぼっちだったらしい」

「それはかわいそうに」


 エイラが沈痛な表情をする。


「で、この子もいいかな?」

「ええ。構いません」


 エイラはしゃがんで男の子に名前を聞いた。


「名前はなんて言うの」

「カナタ」

「そう。カナタ君ね。よろしくね」


 カナタはこくりと頷いた。


「今日は本当に買い物に付き合ってくれて助かるよ。どうも囚われてから縁を切る輩が増えてね、困ってたんだよ」

「うちのパーティーはそのようなことはありませんから」

「しかし、イベント攻略で忙しかったのでは?」

「大丈夫ですよ。それに皆が強いわではありませんし」


 と、エイラはアリスの方に視線を配る。


「初心者なんだから仕方ないでしょ」


 アリスは鼻を鳴らしてそっぽを向く。


「初心者なのかい。それは大変だね。こんな狂気なイベントに参加させられて」

「いいえ、そんな」


 目の前に小さな子がいて泣き言は言えなかった。


  ○ ○ ○


 まず最初に訪れた店はアパレルショップだった。深山とクルミが部屋着を持っていないということで。アリスも部屋着を持っていないので一緒に買い物をする。


 店はNPCが経営してるので、こちらがヘルプを出さない限り店員が近づいてこない。なので変に薦めてきたりしないので気を楽にして部屋着を選ぶことができる。


「ん~」


 アリスはエイラに選び抜いたピンクと黄色の部屋着を持たせ、両方を目を細め見比べる。そして、


「ちょっと待って」


 と、言いまた他の服を物色し始める。それにエイラは辟易する。店内中の服を見て、やっと二つに絞って選んだのに。それなのにまだ悩んでいる。


 そして、ピンク色の部屋着を抜き取る。部屋着を持ち上げ熱心に見つめ考える。エイラの持つピンクの部屋着は襟が四角で今、アリスが持っているのは襟が丸い。違いはそれだけ。ほとんど同じなのにアリスはどちらかを選べないでいる。


「それじゃあこの黄色の服はいいよね」


 エイラが黄色の部屋着を戻そうとすると、


「待って。それも持ってて」

「どうして?」

「だってそれ、かわいいじゃない」


 とは言うもののエイラにはどうのか検討もつかない。正直これと似たような黄色の部屋着は他にある。別段、エイラが服に無頓着というわけではない。アリスが妥協をしないタイプなのだ。


「それじゃあ、この黄色のにすれば」

「でも色がねえ。私、ピンクが好きなの」

「それじゃあピンクを選んだら」

「でもねえ。う~ん」


 アリスはピンクの部屋着二つを見比べる。

 ああ、これは長くなるなとエイラは思った。


「あれ? そう言えば深山さんは?」

「深山さんは先に済ませて隣の喫茶店に行ったわ」


  ○ ○ ○


 深山は店内ではなく外のオープンテラスでミルクティーを飲んでいた。


「ごめんなさいね。ずいぶん待たせてしまって」


 原因のアリスではなくエイラが深山に謝った。アリスも隣でぺこりと頭を下げる。


「問題ない。大丈夫だ」


 深山は笑顔で答えた。


「あれ? 一人ですか?」

「ああ。先に済ませたクルミがカナタの服選びに行ったよ。君たちも何か飲むかい?」


 アリスとエイラは椅子に座り、アリスはオレンジジュース、エイラはアイスコーヒーを注文した。


「いい部屋着は見つかったかい?」


 深山がアリスに尋ねた。


「一応は」

「本当に長くてすみません」

「いやいや、女の子なんだから。うちのクルミは逆に淡白すぎて困るよ」


 と、言って深山はやれやれと首を振る。


「深山さんはどんなの買ったんです?」


 アリスは聞いた。


「深山は止めてくれ。ここではキョウカで」

「あ、はい。それでキョウカさんどんな部屋着を?」

「白ワンピの部屋着だよ」

「白もいいですよね」

「白は好きでね」

「そのせいで私はいつも黒ですよ」


 会話に声が割って入る。振り向くとクルミとカナタがいた。

 割って入ったのはクルミだった。


「コントラストだのと言って私はいつも黒です」

「赤でもいいんだよ」

「私が目立ってどうするんです」

「それより服は選んだのかい」


 キョウカはカナタに聞いた。


「うん」

「それは良かった」

「即決ですよ。全く」


 クルミは呆れたように言う。


「君だっていつも即決ではないか」

「私はお嬢が選んでる間に自分のを選んでるんですよ。お嬢が長いだけです。一着でどれだけ悩むんですか」


 アリスは話を聞いてこの中で一番時間を取ってしまい少し居心地を悪く感じた。


「次はどこに行きますか?」


 エイラはキョウカに尋ねる。


「そうだね。ポシェットを買いに行きたいね」


 アリスは手を叩き、


「いいですね。私もちょうど欲しかったんですよ」

「では次はポシェットを買いに行こう。でもその前に昼食はどうだい?」


 アリスは時刻を確かめると12半だった。


「もうこんな時間なの」

「ほんと、部屋着一つにものすごくかかりましたからね。休憩がてら食事もいいですね」


 エイラは昼食に賛成した。


「カナタは何か食べたいものはあるかい?」

「特にない」


 即答だった。


「アリスは何かあるかい?」


 キョウカとしては子供のことを考えた答えを期待したが、そんなことも露知らずアリスは答える。


「う~ん、気分的にはパスタかな?」


 それでも子供っぽい答えが返ってきた。


「では洋食屋にしよう」

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