第13話  A-9 ランキング

 三人は酒場を出て今晩の宿を決めた。部屋は個室でばらばらに。ユウはベッドに横たわり休憩をしていた。


 21時になり軽快な電子音が頭に鳴った。ユウは驚いて跳ね起きたがすぐに運営からのお知らせと気づいた。もう一度横になり端末を取り出して、運営からのお知らせを開く。お知らせにはビデオメッセージが一つ。ユウは再生をタップ。端末画面から映像が流れ始める。


『みなさーん。こんばんはー、ロザリーでーす。えーと、実はみなさんにお伝えするのを忘れていたことがあって急遽ビデオメッセージをお送りいたしましたー。ごめんなさーい』


 メッセージの相手はロザリーだった。画面にはロザリーが手を合わせて謝っている。だが、謝ってるわりには口調は軽い。


『伝え忘れてたのは解放エリアのことなんです。この南の森と岩山エリアを解放したんですよー』


 画面に二つの島のマップが現れて、ロザリーが赤ペンで両方の南の森と岩山エリアに丸をつける。


『と、言ってもみなさん気づいてましたよね?』


 と、言われてもユウは解放されたエリアには自分達三人しかいなかったはずと思い出す。何か嫌な予感がした。


『お詫びといってはなんですがアヴァロン、タイタンの総合獲得ポイントで今日一日どちらが上かを特別に発表しまーす。ジャカジャカ、ジャカジャカ』


 どうしてそれがお詫びなのかさっぱりだが、画面のロザリーはこっちの気持ちを知らずに勝手に進行し自らの口でドラムロールを口ずさむ。


『ジャッジャーン、タイターン。タイタンが今のところポイントが上です!』


 ほんの少し期待があった分、ユウは残念からか顔を下げた。そして肩を落とし、落胆の息を吐く。


『タイタンが上なのですよー。総合ポイントがどれくらいかは秘密でーす。その代わりにお互いのトップスリーのランキングを発表しまーす。まずはアヴァロンから』


 ユウは顔を上げ画面を見つめる。もちろん自分がランキングに入っているとは思えないが上位陣はどれくらい稼いでいるのか気にはなる。


『アヴァロンプレイヤー第3位スクワネス、累計ポイント291,515。第2位スゥイーリア、累計ポイント310,199。第1位アルク、累計ポイントは583,012です』


 アルクの名が呼ばれユウは驚き、起き上がる。


 ――同名のプレイヤーだろうか?


『次にタイタンプレイヤーのランキングを発表しまーす。ジャカジャカ、ジャカジャカ、ジャッジャーン。第3位レオ、累計ポイント1,078,311。第2位オルタナ、累計ポイント1,132,674。そして第1位はケント。なんと累計ポイントは2位の2倍で2,353,312!』


 ユウはまずいなと思った。向こうのトップスリーのポイントの桁はミリオンを越えていてこちらの約4倍はある。


『それでは皆さま。おやすみなさーい。あ、イベントモンスターは夜21時以降は出ませんので』


 そして画面は切れ、ブラックアウト。


  ○ ○ ○


 ユウはノック音を耳にし、どうぞと言うと部屋着姿のアルクが部屋に入ってきた。


「見た?」


 主語がなかったがすぐにユウはランキングのことだと理解した。


「ああ。見たよ。1位だったね」

「びっくりよ。どうして私がって。一時間くらいゼカルガ狩ってただけなのに。やっぱ最後のカブキオオトカゲかな?」

「一体あたりポイントいくらくらいだったんだろう」

「ゼカルガの時、累計ポイントは6万位だったはず」

「カブキオオトカゲ一体で約50万くらい?」


 アルクはかぶりを振る。


「違うと思う。実際はもっとかもしれない。ここに来たのはユウのポイントを知りたくて」

「俺の」

「獲得ポイント見せて。プロフィール画面にイベント獲得ポイントが記されているから」


 ユウは端末を操作しポイントを確認する。画面には獲得ポイント、95,002。


「9万!」

「やっぱりユウにもポイントが分配されてる」


 そこでノックもなく、勢いよくドアが開かれた。入ってきたのはセシリア。セシリアも部屋着姿で上下共にピンク色の服装。


「ポイントすごいことになってるわ。あら、アルクここにいたの。1位おめでと」

「ありがと。で、セシのポイントはいくらなの?」


 そう聞かれセシリアは不敵に笑った。


「17万よ」


 そしてVサインをする。アルクそれをスルーして、


「カブキオオトカゲでどれくらい増えたの?」

「わかんないけど6万くらいかな?」

「ユウとセシはたぶん同じくらいだと思うから、カブキオオトカゲは一体で65万ポイントだと考えられるわ」

「すごいポイントね。でもタイタン側が上なのよね」

「しかし、このことを皆に教えたらいけるかもしれない。たぶんこっちのプレイヤーは解放エリア及び、カブキオオトカゲの情報を知らないはず」

「えー。教えるの?」

「占有したってなんの得にもならないでしょ」

「うーん?」


 不服なのか腰に手を当て、セシは唇を尖らせる。


「どうしたの?」

「ほら、酒場で私、言ったよね。今朝までは他のパーティーと一緒だったって」

「言ってたね。解放エリアがどうたらと」

「そう。私が抜けた原因は解放エリアの件で揉めたからなの」


 セシリアは悲しさと苛立ちの視線を床に向ける。


「向こうのパーティーに気が合わないというか仲の悪いのがいてね。そいつがさ、私の意見にことごとく邪魔するの。私が南の丘の上を確かめようと言うと馬鹿にして邪魔してくるのよ」

「周りの人は助けてくれなかったの?」


 ユウは聞いた。


「元々私はパーティーメンバーじゃないし。その前に東エリアで失敗したから」

「失敗?」

「朝に東エリアが解放されてるんじゃないのって言ったのよ。その時は、数人ぐらいも同意見でね。それで東エリアに向かったの。そしたら透明な壁があって進めなかったの。それで、ね」


 と、そこでセシリアは肩をすくめる。


「それじゃあセシが発信すればいい」


 アルクが提案する。


「発信って、掲示板?」

「そう。匿名でなくきちんと名前を出して言えばいいよ。『私たちのパーティーが南の森でカブキオオトカゲを倒した』って。信じられないならパーティーメンバーを言えばいいわ。私の名前があれば信じると思うわ」

「名前出していいの?」

「既にランキングで名前が出てるし。明日になって色んな人が聞きにこられても困るしさ」

「ありがとー」


 セシリアはうれしくてアルクに抱きついた。


「ちょっと、離れなさい」

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