第12話 A-8 カブキオオトカゲ戦
ユウはカブキオオトカゲに追われている魔女っ子に見覚えがあるなと思っていたら、その魔女っ子は昨日、噴水広場で会った魔女っ子であることに気づいた。
アルクは魔女っ子に駆け寄り、カブキオオトカゲに向かって高く飛んだ。そして、カブキオオトカゲの背に剣を突き刺す。攻撃を受けたカブキオオトカゲは口を大きく開き、悲鳴を上げた。
「そこの魔女っ子、今のうちに早く逃げて」
「ありがとう」
と、魔女っ子はアルクに礼を言い、すぐにユウの元まで駆け寄る。
「あれ? どこかであった?」
魔女っ子はユウの顔を見て首を傾げた。
「昨日の噴水広場で」
「ああ! あの時の初心者君。で、あの人は君の仲間?」
ユウは頷いた。
カブキオオトカゲの雄叫びで二人は戦闘に目を向けた。敵は黒く巨大な爪でアルク切り裂こうと前足を振る。それをアルクは体をしなやかに動かして爪を躱し、横腹を剣で叩き斬る。
敵は悲鳴を上げ、そのまま開けた口をアルクに向け、噛みつこうとする。アルクはそれを左にステップして避け、敵の顔に爆炎魔法を放つ。夜の中、そこだけ赤色が映える。アルクが放った魔法はゼカルガに撃った魔法より強力で轟音を上げ、熱風が巻き起こり周囲の気温を押し上げる。
それからアルクは高速でカブキオオトカゲの周囲を駆けまわり、敵の爪、尻尾、かみつき攻撃をかわしつつ斬撃を繰り出す。
カブキオオトカゲのHPがみるみると減る。本当に一人で屠ろうとしている。決してカブキオオトカゲが弱いわけではないアルクが強すぎたのだ。ユウが援護する隙もない。
そしてとうとうカブキオオトカゲのHPバーが赤くなるまで減った。
もう終わりだなとユウは思った。
だが、あともう少しというところでカブキオオトカゲが天に向けて吠えた。
その咆哮の後、カブキオオトカゲの全身から電流が周囲に走る。電流の光は強く。遠くから観戦していたユウや魔女っ子の目を瞑らせるほどであった。アルクは片目を瞑り盾を前面に向け、バックステップで電流を避けようとするも、電流は広範囲に放たれ、盾を回り込みアルクは電流を受け止めてしまった。
大丈夫かと心配になりユウはアルクのHPバーを見た。HPバーにはさして変化はなかった。だが、アルクの動きが鈍り始める。今まで避けていた爪や牙の攻撃を盾を使って受け止める。敵の爪や牙の攻撃が盾に当たるたび火花が散る。
「様子がおかしい!」
「あれ、たぶんスタンかかってる」
「どうすればいいの?」
「アイテムとか魔法で回復かな」
アイテム。しかし、昨日始めたばかりのユウは回復アイテムを持っていなかった。
「お願いアイテムを」
ユウは魔女っ子に頼む。
「ごめん。今、切らしちゃってて」
魔女っ子は眉を下げ、申し訳なく顔を下に向ける。
これなら今朝がたにでも街でアイテムを買っておけば良かったと後悔する。でも昨日今日で始めてゴールドがなかったはずだ。いや、ゴールドは初心者応援プレゼントにあった。
と、そこでユウはあることに思い出した。そう初心者応援プレゼントの中には回復アイテムもあったはす。ユウは端末を操作し全状態異常回復アイテムを見つけた。そしてそのアイテムを取り出した。
「これどうすればいいの?」
魔女っ子に尋ねた。
「相手に向けて投げるか、端末に戻して端末から相手を指名して使うかの二つ。だけどこの場合は端末からの方がいいよ」
端末画面から『使用』、そして『アルク』をタップした。
これで元に戻るはず。アイテムは消え、アルクの体から緑色の光が。
しかし、アルクの状態は依然と回復されなかった。今も盾で攻撃を受け止めている。
「どういうこと?」
「もしかして永続型?」
「その永続って?」
「戦闘終了までアイテムや状態異常回復魔法でも回復しないやつよ」
魔女っ子は親指の爪を噛む。
敵は尻尾を振るう。アルクはそれを盾で受け止めるが、押し負けて後ろへ飛ばされる。なんとかすぐ体勢を立て直し、連続の尻尾攻撃を受け止める。
――やはり参戦すべきだ。
ユウは剣を抜こうと柄を握る。
「何やってんの?」
魔女っ子がユウの腕を掴む。
「助けなきゃ」
「君が行っても意味ないわよ。相手はレベル65よ。レベル30の、……って短期間でよくそこまで上げれたわね」
魔女っ子はユウのレベルを見て驚く。昨日今日でここまで成長するとは。しかし、
「あれはただのモンスターじゃないの。マルチモンスターよ」
「マルチ?」
「多人数で戦うやつのこと。基本は剣士、格闘家、盾使い、魔法使い、僧侶のパーティー編成で挑むの。あいつはレベル65だからパーティーメンバー全員のランクが65は最低越えないといけないの」
「ならなおさらアルク一人では」
「馬鹿。最低で65よ。65で余裕で倒せるんじゃなくて65でぎり倒せるってこと。それをたかがレベル30が一人増えて何ができるの」
「なら君も手伝ってよ」
「わ、私も? 私、ランク48だし」
「君、魔女っ子でしょ。魔法が使えるなら少しはやつの気を反らすことも可能だろ。俺がやつに近づいて注意を引き付ける。やつが俺に攻撃し始めたら魔法で援護して。アルクの攻撃ならあと一撃で倒せるかもしれない。だから一撃分の時間を稼ぐだけでいいんだ」
ユウはブロンズソードでなくすばやく動けるようにダガーのウィンジコルを手にする。
「本当に行くの?」
「ああ」
ユウは決意の眼差しを向ける。
「まあ、元は私の責任だし。分かったわ。やるだけやってみようじゃない」
魔女っ子は杖を強く握る。
呼吸を整え、敵がこちらに背を向け無防備になったところで意を決し、ユウは全速力で走った。
尻尾に当たらないように注意し、右後ろ足をウィンジコルで斬る。
ユウの攻撃は相手からするとかすり傷程度のもので気づいてもいないのか、こちらにも振り向こうともしない。
ユウは何度も後ろ足をかっ斬る。
そして、ようやく敵がユウに気づいた。顔をこちらに向ける。
「今だ!」
ユウが叫ぶと無数の光の弾がカブキオオトカゲの体にぶつかり爆発する。
「やったか?」
しかし、煙からしっぽが飛び出しユウの体を吹き飛ばす。
勢いよく地面にバウンドし転がり、うつぶせに止まる。
ユウの耳に猛獣の足音が聞こえてくる。
うつぶせのままユウは顔を上げる。カブキオオトカゲの顔がすぐそこに。もう駄目だと思い、目を瞑った。
だが、敵の攻撃は来なかった。
ゆっくり目を開けると敵が口を開けて止まっていた。その口の中からは剣先が見える。カブキオオトカゲの頭上を見上げるとアルクがカブキオオトカゲの頭の上に乗り、剣を突き刺していたのだ。
カブキオオトカゲは消え、頭に乗ってたアルクは地面に落ち、尻餅をついた。そしてゆっくりと立ち上がって、剣を鞘に戻した。
「もろ一撃くらってよく無事だったね」
「駄目かと思った」
そう言ってユウは笑い、起き上がった。
魔女っ子が近づいてきて、
「二人とも無事? 特に君、攻撃受けて吹き飛ばされてたけど。あれ? HP減ってない」
ユウは自身のHPを確かめた。確かにHPは全く減っていない。
「どういうこと?」
「そう言えば、ギガマッチョの時もそうだった。そのダガーどうした?」
「登録者100万人記念でプレゼントされたんだけど。皆もらってない?」
アルクと魔女っ子は首を振る。
「そんなものもらってない。効果はどうなってるの?」
「えっと極稀に相手のステータスを削るって」
「ふむ。ならその効果でカブキオオトカゲの攻撃力が減ったってことね」
「それならどうしてあんなに吹っ飛ばされたの?」
「攻撃力がないけど、力はある。で、攻撃力がないからダメージがない。いや、違うね。うーん、わからないや」
アルクは腕を組みながら悩む。
「なんにせよ、やったね」
魔女っ子は握り拳をして喜ぶ。
○ ○ ○
「カブキオオトカゲ討伐に乾杯」
魔女っ子が黄色いジュースの入ったジョッキを掲げる。
「ちょっと魔女っ娘、声が大きい。迷惑でしょ」
アルクが嗜める。
「魔女っ娘じゃない。私にはセシリアという名前があるんだから」
今、三人がいるのは街の酒場。討伐後、疲れたので宿で休みたかったのだが、魔女っ子がお礼にと二人を誘ったのだ。ユウもアルクも明日でいいと言ったのだがセシリアが今日じゃないと嫌と駄々をこね、ユウたちを無理矢理酒場に。
「ぷっはー、うんまい。ほらどんどん食べて食べて」
セシリアはジョッキ半分ほどのジュースを一気飲んだ。
「ああ」
二人もセシリアにならいジョッキを持ちジュースを飲む。
甘酸っぱい味が口に広がる。
「確かにおいしい。疲れた後にいいかも」
「でしょでしょ」
「味覚があるって本当にすごいな」
「ほんと。技術革命さまさまだねー」
「技術革命というよりシンギュラリティでしょ」
セシリアの言葉にアルクが訂正をいれる。
「シンギュラリティでもゲームを作ったのは人だしー。だから技術革命なのー」
「はいはい」
と、アルクは受け流す。
「シンギュラリティって機械の反乱ってイメージがあったけど結局何もなかったよね」
ユウはジョッキをテーブルに置き、
「量子コンピューターが人の管理下から抜け出したとかだけど、今も一応人の管理下なんだろ」
「本当はもう人の手を離れているんじゃない?」
「なわけないでしょ」
アルクは呆れて首を振る。
「ん~でも、この状況を見ると否定できないよね」
と、セシリアが言うとアルクたちは口を閉じ神妙な顔になる。
「ごめん。さ、みんな食べよう。ほらこのグラタンとか超おいしそう」
と、セシリアは無理に笑顔を作りグラタンをスプーンですくい頬張る。
「ああ、本当だ。このリゾットおいしい」
アルクはリゾットを頬張り緊張した顔をわずかに緩める。
「肉うんめー。誰だよ、つまんないこと言ったやつ」
グラタンの次に肉を頬張るセシリア。
「お前だよ」
「ぶははは」
「食べながら笑うな」
リアルだったらソースや肉片が口から飛び出していただろう。
「ゲームだからいいじゃん」
「エチケット」
アルクはため息を吐いた。
セシリアはナイフで肉を切ってはフォークで刺し口へと運ぶ。
「すごい食べるな。太らないか」
ある意味感心するユウ。
「ゲームだから太らないよ」
そう言って肉を食ってはジュースをがぶ飲みする。そう言えばVRMMOでは太らないから、ダイエットの一貫で始める人もいるというのをユウは思い出した。
そしてジュースを飲みほして、
「ロロノアもう一杯。それと肉追加で」
どうやらこのジュースはロロノアと言うらしい。セシリアは空になったジョッキを掲げNPCの店員に注文する。
「あんた金あるんでしょうね」
「大丈夫よ」
セシリアは親指を立て、にんまり笑った。
○ ○ ○
「それで二人ってパーティー組んでるの?」
飯もだいぶ片付いたころセシリアが二人に聞いた。
「別に。アルクとはリアルで同じクラスなんだ」
「それじゃあ私たちでパーティー組まない?」
「パーティー?」
「実は今、私一人なんだ。兄貴たちはイベントに参加してなくて。たまたま兄の知り合いたちがイベントに参加してて、今日の朝までは一緒に行動してたんだけど。解放エリアの件で揉めて、結局一人になっちゃったの」
一人という単語にユウの心を揺さぶった。自分もた一人にされた身。
「だから一人でカブキオオトカゲに挑んだのか?」
アルクが聞いた。
「違うわよ。解放エリア見つけてゼカルガを狩ってたのよ。そしたらさ、カブキオオトカゲが急に現れて。本当にびっくりよ。あんな自分よりレベルの高いマルチモンスターを一人で挑むわけないでしょ」
そしてセシリアは唇を尖らせる。
「で、どう? 組まない?」
「俺は別にいいけど」
と、ユウは返答した。
「ありがと」
セシリアはユウにお礼を言い、そして祈るように両手を合せ、熱い視線をアルクに向ける。セシリアにとって本命はアルクなのだろう。
「わかった。ただし足を引っ張らないでよ」
「やったー」
セシリアは両腕を広げ喜んだ。
「よし。それじゃあパーティー結成にかんぱーい」
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