第211話 EXー1 潜入

 タイタンプレイヤーが閉じこめられている島『カシドニア』。その草原に4つの光が生まれる。

 光は人の形をして、徐々に光は弱くなる。

 そして現れたのはプレイヤーだった。


「どうやら成功したようね」


 見た目年齢は二十歳前後の金髪長身の女性が自身の体を目視して言う。


「潜入大成功! 超余裕じゃん。うっしし」


 黒髪で中学生程の背格好の少女が八重歯を見せつつ笑みを浮かべる。


 それを、

「ニアール、あまりはしゃぐな。アンチウイルスソフトが起動したらどうする?」

 と、中性的な顔立ちの女性が少女に注意する。


「何? チェンはビビってんの?」


 ニアールと呼ばれた少女は相手に対して小馬鹿にするような表情を向ける。


「殺すぞ!」

「ああん?」


 二人は顔を寄せ合い、互いに睨み合う。


「ニアールにチェン、喧嘩するな! 作戦の成功が最優先事項ということを忘れるな!」

 秘書風の女性が二人に怒鳴る。


『了解』


 二人は睨み合いをやめるが、雰囲気は悪いままであった。


「で、アーミヤ、皆こっちに来たけど本当にこっちで当たりなの?」


 秘書風の女性が金髪長身の女性ことアーミヤに聞く。


「ええ。坊やはここにいるわ」

「ふうん。なら作戦通りで問題ないわね」


 アーミヤは頷いた。


「ニアールとチェンはプレイヤーとコンタクト。エクシアはフィールドとNPCを」

『了解』

「私は坊やの居場所を探すわ」


 アーミヤは草原の東の方角に聳える都庁タワーを見やる。


「それじゃあ、まずは首都カシドニアに向かいましょうか」


 4人は東へと進む。


「ねえねえ、首都名と島の名前が同じってことは何かあるのかな?」

 ニアールが誰ともなしに聞く。


「特にないんじゃない?」

 前を見つつ、アーミヤが答える。


  ◯ ◯ ◯


 都庁ビル45階の都知事室にてセブルスは妙なざわつきを感じた。


 そして椅子を後ろへと回して、立ち上がる。


 窓ガラスからは首都カシドニアの街並みが下に広がっている。そこにはプレイヤーとNPCの営みがある。


「どうかした?」


 2人掛けのソファに横になって寛ぐロザリーが聞く。


「なんか胸騒ぎが……」


 ロザリーは続く言葉を待ったが、セブルスが何も言わないので、


「へ? 何、その人間臭いそれは? 胸騒ぎって? ノイズ? エラー?」

「分からない。本当に胸騒ぎとしか言えない」


 セブルスは胸に指を当てる


「変なの。まあ、こっちでも精査しておこうか?」

「ああ。頼む」


 しかし、論理の塊のようなAEAIが非論理的な胸騒ぎなんて。

 ロザリーはゲーム内のアルゴリズムをチェック。その後、プレイヤーの中で重篤もしくは不安定な精神状態のプレイヤーを調べた。


「一部不安定なプレイヤーはいるけど……他はいつも通りかな」


 その一部不安定なプレイヤーはレオを中心としたプレイヤーだ。アリスの件で不安が伝播しているようだ。


 だが、消滅ではなく解放ゆえ大きな精神異常は見当たらない。

 あくまで寂しさというものであろう。


「麒麟児は?」

「麒麟児? あの子はマリーが担当しているし、問題があったら連絡がくるでしょ?」

「だがキョウカの件もあるだろ?」


 それはキョウカに麒麟児とマリーことがバレ、さらに仲間に参入したことだ。

 あれにはロザリー達は驚いた。いち人間がこちら側に接触してきたのだから。


「何かあってからでは遅い」

「分かったわ。マリーに連絡しておくわ」


 そこでふとロザリーはある起因について心当たりを思い出した。


「もしかしてそれってユウのことじゃない?」

「ユウ?」

「ほら、クルエールとくっ付いたじゃない。あんたの胸騒ぎって、ユウとクルエールの件じゃないの?」

「うーん、それは……違うな。ユウはアヴァロンだろ。ここはタイタンだし、胸騒ぎとは関係ない気がする。それに何か違和感を感じたらヤイアが動くだろ?」

「そうね。本当に何なのかしらね、その胸騒ぎは」


 とりあへずロザリーはマリーに麒麟児について怪しい点はないかとメールで聞いておく。

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