第212話 Aー1 迷い
鬼ごっこイベント終了してから3日経つがセシリアは部屋に閉じこもったままだった。
「セシ、ご飯作っておいたから」
ユウはドア越しにそう言ってから、その場を立ち去る。
拠点としている家を出て、今日もユウはソロでモンスターを狩りに出かける。
別にモンスター狩りは生活に必須なことではない。
ゲーム世界には空腹もない、眠気もない、死ぬこともない。
だから何もしなくても問題はない。
ただ、あくまでこのままだと腑抜けてしまうのでモンスターを狩りに出掛けるのだ。
それ以外にも憂さ晴らしや、考えるべきことを先延ばしにしたいという理由もあるが。
ユウはランクとソロ討伐に適したフィールドに向かい、モンスターを狩る。
周囲にはユウ以外誰もいない。中級プレイヤーはいないのか、はたまたソロプレイヤーはいないか、もしくはどこかでもういいやという想いがプレイヤーの心を侵しているのだろうか。
ここ最近はプレイヤーの姿を見かけない。それはモンスターのいるフィールドだけではなく町中であってもだ。
アヴァロンプレイヤーの中で先のイベント「鬼ごっこ」は強く尾を引くものがあったのだろう。
あのイベントで大半のハイランカーが消えたとか。
しかも噂によるとやられて消えたのではなく、解放権を使ってリタイアしたとか。
それは他のプレイヤーは放っておくということ。
別に間違いではない。法にも倫理にも道理にも違反しない。
助かるなら助かる。
ただそれだけのと。
人として何も間違ってはいけない。
ここに残らないといけないという理由はないのだから。
それでも残されたものはショックを隠しきれなかった。
どこかで最後まで皆で手に取りやって助かるというイメージがあった。
性善説というものであろう。
でもそんなものは自分勝手な夢物語。
自分達は勇者のようなスタイルをしていようが、メッキが剥がれればただの人間。
本物の勇者ではないのだ。
ただの囚われた哀れな人間達。
そんな囚われた人間はどうすればいいのか?
今後の解放権を得られるイベントを待つのか?
そして負けて消滅。勝って解放。
それを全プレイヤーが島からいなくなるまで繰り返すのか。
まさに地獄だ。
けど、そんな中、クルエールを自身の体の中に入れたユウだけは本当のことを知っている。これは偽りのデスゲーム。誰も死なないということ。
そのことを話してはいけない。教えてはいけない。
今もこのデスゲームで苦しんでいるプレイヤーがいる。セシリアもその内の一人。教えて楽にしてあげたいという気持ちはある。けれど、一人教えれば、自分と同じ様に誰かに告げるのかもしれない。そしてまた一人、また一人と増えていき──。
──駄目だ、駄目だ、駄目だ。
ユウは大きく
その隙にモンスターから攻撃を受けた。
──集中! 思考を前のモンスターに!
ユウはダガー・ウィンジコルを振り、モンスターを狩る。
◯ ◯ ◯
ホワイトローズの屋敷にあるハーフバルコニー。
そこには今、スピカとメイプル、リルの3人しかいない。
他は狩りに出かけたとか買い物、用事にというわけではない。
文字通り、ホワイトローズのメンバーは3人しかいない。
先のイベントでやられた者、解放権を使った者、そういったことでメンバーが減り、今は3人だけ。
「お嬢様方、お茶です」
黒を基調としたメイド姿のメイプルが紅茶の入ったカップを差し出す。
「どうも」
「……なにスルーしてんのよ。お嬢様って何よ!?」
スピカが普通にスルーしているのでリルが突っ込んだ。
「暇でしたので」
「……まあ、いまは暇だけど」
頬肘を突いてリルは言う。
「どうする? これから?」
「まずはリーダーを決めましょう」
「リーダーねえ?」
ちらりとリルはスピカを伺う。
そのスピカはぼんやりと視線を前に向けている。
「リーダーねえ?」
もう一度、リルは言う。今度はわざとらしく声高に。
「……私は無理よ。そういうガラじゃないし」
「私とメイプルでは箔がないのよ。でもあんたはEXジョブを習得しているハイランカーなんだから」
「というか3人でこれからどうやって活動を」
「出来るじゃない。ギルドは無理でも普通のパーティーとしてなら」
「新しくパーティー結成? この屋敷は?」
「3人にしては大きいわよね」
「でしたら誰かをスカウトするとか?」
メイプルが提案する。
「スカウトねえ。てか、あんたいつまで突っ立ってんのよ」
「そうよ。一緒に茶しばきましょ」
「……茶しばき?」
「お茶休憩するってこと」
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