第213話 Tー1 行動原理

 そもそもだ。どうして自分達はデスゲームに参加させられているのだろうか。


 何か悪いことでもしたか?


 それにロザリーの目的はなんだ?

 解放されたプレイヤーは本当に解放されているのか?

 消滅されたプレイヤーは殺されたのか?


 そういった様々な疑問が答えもなく、ただずっとプレイヤーの中に沈澱し積もる。時々、掻き回されて、沈澱された疑問は溶かされ、プレイヤーの中に染み渡り、怒りを生む。


 そして内なる怒りが外へと発露して、プレイヤーは異常をきたす。


 それらをなるべく抑えるために葵達はプレイヤー達に快楽物質を作らせるように遠隔操作して、異常を前もって防ぐ。


 ここ最近、プレイヤー達は大人しかった。

 けれどあるプレイヤーだけは違った。


 それは──。


「レオ!」


 仲間の声にレオは意識を戻し、目の前の敵を屠る。


「しっかりしてよ」

「すまん」


 しかし、すぐに心ここにあらずとなる。


「やっぱアリスが居なくなってからおかしいよね」

「だよな」


 パーティーメンバーはこそこそと話し合う。


「元に戻るかな?」

「エイラの時よりかはマシでしょ」

「でも、あん時はアリスがいたからじゃん」

「なーに、今回は解放だろ。できの……ゲフンゲフン、まあ、ローランカーだったんだから先に解放されて良かったじゃないか」

「……けどねぇ」

「ん? どうした? 何かあったか?」


 ぼんやりしていた意識を戻して、レオが皆に聞く。


「いや、何もないよ」

 仲間は慌てて言う。


「そうか」


 普段ならちょっとした仲間の異変にも勘付くのだが、今のレオは気づかなかった。


  ◯ ◯ ◯


「イチカ! そっちに行ったよ!」


 砂漠地帯でオオカミ型のモンスターが駆けていた。その先にはイチカと呼ばれた女性プレイヤーがいた。


「まかせなさい!」


 イチカは連射にセットしたライフルの銃口をモンスターに向けて照準を合わせる。そしてトリガーを引く。


「馬鹿! 近接だ!」


 オースティンが声を張るも、ライフルからの乾いた音がオースティンの声をかき消す。


 イチカはトリガーを引き続けて銃弾を繰り出す。その銃弾はきちんとモンスターに漏らすことなく全てヒットする。


 が、銃弾の威力が弱いためか敵は消滅しない。


 イチカはこのままだとぶつかると判断して左に避けるが、避けきれず右脇腹に衝突し、吹き飛ばされて地面に転がる。


 モンスターはしばらく突き進み、そしてUターンして再度イチカはと突進し始める。


 イチカは起き上がろうとした時、モンスターはすぐ近くまで接近していた。


 やられる。そう思った時、仲間のサラーサが自身より大きいモンスターに横から体当たりして吹き飛ばした。


「あり……」

「何ちんたらしてんのさ! 早く立て!」


 お礼を言う前に叱れたイチカ。


 イチカはすぐに立ち上がり、ナイフを取り出す。


「ぶつかった時にナイフで腹を刺したんだけどね」

 とサラーサは言う。


「こいつ弱いくせにHPだけクソ高いんだね」

「イチカは左から。私は右から」

「了解」


 二人はモンスターに向けて左右に別れて駆ける。


 モンスターはどっちを攻撃しようと逡巡したが、サラーサの方が強く厄介だと判断し、サラーサへと狙いを定めた。


 自分へと突っ込んでくるモンスターにサラーサは上手く躱しつつ、ナイフで切り刻む。後ろからはイチカがナイフで切り刻む。


「二人とも離れて!」

 駆けつけてきたオースティンが叫ぶ。


 イチカとサラーサはオースティン達が銃火器を構えているの見て、互いに頷き合い、そして一気に跳躍してその場から離れた。

 それと同時にオースティン達はトリガーを引き、モンスターを銃弾で蜂の巣にする。


「ランチャー!」

「了解!」


 ランチャーを構えてたマサルがトリガー引く。

 ロケットは見事モンスターに命中して爆発。


「終わった?」

 イチカがぽつりと呟く。


 煙が晴れ、モンスターはいなかった。代わりにリザルトが表示されていた。正確にはプレイヤーの視界内に表示され、モンスターがいたであろう場所には何も現れていない。


「皆、ごくろう。終了だよ」


 オースティンが討伐終了を告げる。


「今日はこれで終了だろ。飲みに行こうぜ」


 マサルがジョッキを持つ手を作り提案する。


「いいね。美味しいエスニックのお店に行こうよ」

 モニカが言う。


「その前に反省会」

 と言い、イチカに目を向けるサラーサ。


「えー」

「あんた、飯が不味くなるからって文句を言うでしょ」

「まあ、反省会をしておこう」


 イチカの肩に手を置いてオースティンが言う。


「何よ。私だけみたいにさ」

「というか、あんただけよ。なんであの距離で近接戦闘に変えないのよ」

「いやー、いけると思って」


 アハハとイチカは後頭部に手を置いて笑う。


「いけるか!」

 サラーサが吠えた。


  ◯ ◯ ◯


 ゲーム世界に囚われてから、プレイヤーは何かにかされるとかなく、普通に生活をしていた。


 特にイベントが告知やイベント前日を除いて、のんびり過ごしていた。日中から酒に溺れる者。趣味に走る者。レオ達のように強敵を狩り、楽しむ者。


 さまざまなプレイヤーがそれなりゲーム世界に順応していた。


 だがしかし、ローランカー達は次のイベントで活躍するため、ほとんどがモンスターを狩ったり、トレーニングで自身を鍛えていた。


 そしてイチカ達もグループもまたその中に含まれる。


 けれど、一朝一夕でハイランカーになれるわけではない。


「さくさく強くなる方法ってないのかな?」


 酒場で夕食を食べていたイチカが誰ともなく呟く。


「あったらいいわね」

 サラーサが溜め息交じりに返す。


「ねえー、マサル、掲示板で何か美味しい話とかない?」


 イチカは掲示板で情報チェックしているマサルに尋ねる。


「んー、ないねー」

「ないかー」


 つまらなさそうにイチカは右手で頬杖をつきながら左手でポテトを摘み、口に入れる。


「地道に行くしかないわね」

「そーだねー」

「次のイベントはいつかしら?」

「もう次? しばらくは休みたいよ〜」

「あん──」


 あんたと言おうとしたところでマサルが、


「待った! 何か変な情報がある!」


 マサルが声を上げ、端末画面を皆に見せるようテーブルに置く。


『なになに?』と皆は前のめりになり、端末画面に目を向ける。


「これ。このっていうプレイヤーの話」


 マサルは掲示板の【外からの情報】というスレッドを指す。


『外から?』

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