第7話 T-2 バグータ戦
エイラに連れられアリスが次に訪れたのは荒野のハバリスと呼ばれるエリア。このエリアは脱初心者用の経験値エリアとしてプレイヤーに知られている。大地はひび割れて赤く、空は紫色。岩山のみが聳え立つ荒野。
二人はエリアに入って、ちょうどある一団が狩りを行っているところを見つけた。
アリスとエイラは岩山の上からスコープ越しに戦闘を観戦した。
「あれが次の獲物よ。あ、今見てるのは狙っちゃあ駄目よ。あれと同じ名のモンスターを探して倒すの」
アリスは象型のモンスターと思っていたがそうではなく。巨大な銀色のアリクイだった。名はバグータ。レベルは45。
バグータは背に六つの穴を持ち、そこから緑色の霧を噴き出している。
「あの穴から噴いている緑色の霧は何?」
「あれはビームを軽減させるの。あと煙幕代わりかな」
「え、ビーム兵器なんてあるの?」
「普通にあるわよ。ここSF世界よ」
エイラは当然でしょという顔をする。
「SFのわりにはファンタジー系のモンスターなんだけど」
スコープでモンスターを見てアリスは呟く。
「ここの惑星生物。いえ、現生生物ね。ほら空を見て。どう見ても地球じゃないでしょ」
「現生生物ねえ」
バグータの鼻は長く、自身の体を巻くほどである。それを鞭のように振るい、プレイヤーを攻撃する。地面に鼻が当たると、地響きが鳴り、土煙が立つ。
「私たちってどういう設定なの?」
「新天地を求め、移住可能惑星に降り立つと現生生物が邪魔をしてきて、それを退治するという話だっけ」
「私たちもろ悪人じゃん。侵略者じゃん」
エイラは肩を竦める。
「侵略者ってのはどうかしら? 一応、惑星を調べ、なるべく現生生物に被害を与えないようとしているし。それに現生生物の中には人に無害なものもいたり、味方になるのもいるのよ」
「ホーンラビットはどうなの?」
角を生やしただけの白うさぎだ。あれを初心者の訓練のために狩らせようというのはかわいそうではないか?
「あれは繁殖能力がありすぎて、ある程度狩らないといけいないらしいわよ」
○ ○ ○
観戦していたバグータ戦が終わり、エイラは背を伸ばした。
「さあ、私たちもバグータを探して狩るわよ」
「あんなの無理だよ」
アリスは弱気の声を出す。
「あら私がいるのよ。言っとくけど私ぐらいの実力ならソロでも狩れるのよ」
「そうだけど。私だとたぶん足手まといになるだけだよ」
アリスは自信がないのか左右の人差し指をくっつける。
「私が囮になるから。アリスは遠くから狙えばいいの」
エイラは胸を叩きまかせろと。そして岩山を下りる。
アリスも続こうとしたが崖のようにきりだっていて、怖くて下りれない。
「ま、待ってよ」
アリスは安全な斜面を探し、ゆっくりと慎重に下りる。
「怖がらないで。痛みはないんだから」
下からエイラが声をかける。
「無理。怖いし」
アリスは悲鳴交じりの声で返す。
「なかなか見つからないわね」
もう何度目になるかわからない岩山の上からスコープを片手にエイラは言った。
アリスは何度も色々な岩山を登らされ、エイラの後ろで地面にぐったり座っていた。
「もう疲れたよー。どうしていないのよ。もしかしてもういないんじゃないの?」
「レアモンスターだからね。遭遇率も低いんだよね」
アリスは足を伸ばし、空を眺めた。紫色の空に雲が浮かんでいた。ここは地球でないとある惑星だという。どうして紫色になるのだろうか。
視線を戻すとエイラの後ろ姿が目に入った。うなじ、ぜい肉のない背筋、引き締まったヒップ、健康的な太もも。
「ねえ、エイラのアバターってガチャ産だよね」
エイラはスコープから目を離した。目をぱちくりさせ、
「当然でしょ。リアルで何度も会ってるでしょ」
エイラは兄の彼女だ。もう何度も家に遊びにきたこともあり、一緒に食事をしたことも。アリスの買い物に付き合ってくれたこともある。
「うん。……そのね、エイラはどれだけガチャ回した?」
「一応上限」
アバターガチャは十回まで回せる。そして回して得たものから一体をアバターとして選ぶ。
「私も。だけどいいのがこれだけだったの」
「いいじゃない。かわいらしいわよ」
「私もエイラのようにセクシーなのが良かった」
エイラは自身の胸に手を当てる。
「おっきくないわよ」
「そうじゃなくて色気があるみたいな」
「そうかしら?」
「モデル体型で、顔もなんかさ大人っぽいというか。ゲームの中なんだから良いアバターが欲しかったな」
「あまり良いアバター使うと大変な目に会うわよ。現実が嫌でゲームに入り浸ってしまい現実の体がボロボロになるとか。最近じゃあ死んだ人もいるのよ」
「それ知ってる。話題になったよね」
「そういうこと。さ、無駄話してないでバグータを探すわよ」
エイラはスコープに目を当て周囲を探る。
「ねえ、手分けして探す? その方が効率よくない?」
そのアリスの提案に、
「そんなことしたらアリス、すぐそこらへんの雑魚にやられるでしょ」
「うっ。ひどい」
「地道にって、……っあ! いた!」
アリスはエイラの指差す方をスコープで見る。
そこにはのそのそと緩慢な動きのバグータがいた。
「行くわよ」
エイラはすぐに坂を駆け下り獲物に向かった。
「ちょっと。もう、待ってよ」
○ ○ ○
「メインウェポンをメンバー内共有武器のロールスワンに」
エイラはアリスに装備変更を指示する。
「これね」
端末を操作し装備をスピードスターからショットガンのロールスワンに。ロールスワンはスピードスターと同じオリジナル武器。
「アリスは遠くからそれで撃ちなさい。私はあれの注意を引きつけるから」
「でもどうやって注意を引き付けるの?」
エイラは端末出さずに装備、ジョブを替える。
黒のスーツから白のハイレグに。プロテクターもブラックフレームに。膝上から足先までをロングブーツのようなブラックフレームが。
武器は銃身が箱型の赤いハンドガンを両手に二丁。
「なにその恰好。エロくない? そのハイレグの角度とか超きわどくない?」
「じろじろ見ないでしょ。恥かしいでしょ。こればっかはどうにもできないのよ」
「どうして?」
「これはジョブスーツだからよ。せいぜい色替えか、上にアクセサリーを着けるくらいなの。羽織ることもスカートもできないの」
エイラは顔を赤らめ、両手で股を押さえる。ジョブスーツを手に入れた最初のうちはエイラも恥ずかしがった。しかし、何度も着用し、人に見られていると慣れてしまった。しかし、このように指摘され、じろじろ好機の目で見られると恥ずかしさがよみがえる。
エイラは大きく数度咳を鳴らし、恥かしさを
「まず私がこのレッドファイヤーで攻撃して注意を引き付けるから」
と、言って二丁のハンドガンをアリスに見せる。それは先程口にしていたデュアルというスタイルだ。
「ずるい。二丁拳銃なんて」
アリスが頬を膨らませる。
その反応でエイラはよし食いついたと心の中でガッツポーズをした。本来、エイラはデュアルは得意ではない。しかし、今回はアリスにデュアルについて関心を持たせるために装備した。二丁拳銃のガンマンからデュアルに変更を促そうと。
「正確にはこれは二丁拳銃ではなくて、さっき話したデュアルというスタイルなの。どうかっこいいでしょ」
エイラはいくつかポーズを取ってからアリスに聞く。
「かっこいい」
アリスは目を輝かせて頷く。
――よし。
「それじゃあ行くわよ」
エイラの背中から四つの虹色の羽根が生えた。そしてエイラの体が浮いた。
「えー飛べるの?」
「私は上から攻撃して注意を引きつけるから」
そしてエイラは目標に向かって飛んで行った。
○ ○ ○
戦闘開始には相手を撃つか、相手の視界に立ちこちらに対して敵意を持たせるかだ。ほとんどの人は前者を望む。先手必勝という理由もあるが、エンカウントされたというのを嫌うからでもある。
エイラが近づくとバグータはエイラを認識し敵意を向ける。バグータのロックが赤くなる。ロックになると他のプレイヤーは討伐参加ができない。だが、エイラは設定で救援・支援対象をアリスに設定した。なのでアリスは遠くから攻撃をしかけても問題はない。
エイラはバグータの真上からレッドファイヤーを噴かす。弾丸の雨がバグータに降り注ぐ。
レッドファイヤーは引き金を引き続けるだけで最大30発の弾丸を放つ。
弾丸を受けたバグータは吠えた。鼻を回しエイラを叩き落とそうとする。エイラはそれを高速飛行でかわしつつ、引き金を引き弾丸を当てる。
倒さないように威力の低いハンドガンを選んだが、長期に渡ると倒してしまう。アリスはまだかとじれったく思った。その時、レッドファイヤーとは違う轟音が鳴る。
バグータの左側の頭から煙がもくもくと立つ。バクータは左を向こうとするが、それをエイラがレッドファイヤーを噴かし再度注意を引き付ける。バクータは鼻を天高く反らす。そして、鞭のように鼻を回しエイラに叩きにかかる。その攻撃もエイラは悠々と躱す。躱された鼻は盛大に地面にぶつかり、地響きと土煙を立てる。
エイラはそれからアリスの攻撃を待ちながら、敵の攻撃を躱しつつ、レッドファイヤーの引き金を引き続ける。
○ ○ ○
五度目のアリスの攻撃が当たったところでバグータは雄叫びを上げ、消失。
エイラはアリスの元へ降り立ち、
「お疲れさま」
「そっちもお疲れさま。というかエイラの方が大変だったでしょ」
「そうね」
と、言いエイラはレッドファイヤーの銃身で自身の肩を叩いた。
「それでレベルはどう?」
聞かれてアリスはレベルを確認する。視界の左上端、HPバーの上を。
「23! 五発撃っただけだよ。こんなに上がったよ」
「まあ、バグータのレベルは45だしね。それにあれメタル系なの。メタル系は経験値いっぱい得られるの」
「あ、でも、ランクは15だ」
ランクはそのままでアリスは若干気分を落とす。
「まあ、威力の高い銃で引き金引いてただけだしね」
エイラはレッドファイヤーをアリスに見せ、
「で、どう? デュアルもいいと思わない?」
「それはないや」
アリスは結構ですと手を振り、即答する。
「どうして?」
「なんかマシンガンみたいだし。私の理想とするスタイルじゃないや」
「ええー」
エイラは肩を下げ、落胆する。
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