第134話 Aー12 告知

「どうしたのユウ?」


 モンスターをハンマーでトドメを刺したセシリアが心配して尋ねる。


「ん? なんでもないよセシ」

 ユウは笑みを返す。


 それでもセシリアは、

「なんか今日はずっとぼーとしてない?」

「そんなことないよ。セシが思ってたよりも頑張ってくれるから驚いただけだよ」


 ジョブチェンしてからの翌日、ユウとセシリアはジョブ慣らしのため先日と同じ様に二人だけでモンスター退治をしていた。


 先日と違いセシリアは武器がハンマーになったことにより、先日よりモンスターへの近接攻撃を得意としていた。


「本当に? なんか心配ごとでもあった?」

「ないない!」

 と言うがそれは嘘だ。夢の出来事について、つい心を奪われていた。


 クルエールのこと、そしてリゾートアイランドでのことをアルク達に話すべきかどうかを。


「……ふーん。なら、いいけど。あんた、初心者なんだしなんか悩みがあるなら経験者の私達に聞きなさいよ」

 とセシリアは言ってユウの肩を叩いた。


「たいして変わら──」

 ないでしょと言おうとしたところで、頭の中で軽快なメッセージ音が鳴る。


「このメッセージ音は?」

「ロザリーね」

「二人とも!」


 アルクとミリィが駆け寄ってきた。二人は戦闘には参加せず遠くで観戦していたのだ。メッセージが着てユウ達の下へ駆けてきたのだ。


 視界右上端の端末マークに赤い点が灯っている。ユウが取り出しを意識すると、虚空から端末が現れる。それを手にして操作する。

 新着メッセージ欄にはロザリーからの映像付きメッセージが一件着ていた。


「イベント告知だろうな」とアルクが言う。

「とりあへず開封しましょう」


 ミリィの言葉に皆は頷いた。

 そしてユウはメッセージを開封。そして再生をタップした。

 すると端末画面に映像が流れる。


『はいはーい、皆さーん、ロザリーでーす!』


 間延びした声と共に金髪の少女が画面に現れる。

 彼女の名はロザリー。プレイヤー達をゲーム世界に閉じ込めた者。


『イベントの告知をしたいと思いまーす。次のイベントはバトルアイランドでーす! 一つの島にプレイヤーがランダムで配置され、敵プレイヤーを倒してポイントを稼ぐ内容となっております』


 島の地図が現れる。


『皆さんには持ちポイントとして1000ポイントが付与され、ランク150以上プレイヤーを倒した場合は3000ポイント加算され、150未満75以上のプレイヤーは1000ポイント、75未満のプレイヤーは500ポイント加算となっております。 さらにランク75未満のプレイヤーがランク150のプレイヤーをソロで倒した場合はポイントが100倍となる仕様でございます。

 …………今、皆さん、それでもこれって低ランクプレイヤーに超絶不利なんではと思いましたね。でも安心してください。なんと今回は特別にイベント開始時にランク及びレベルがリセットされます。皆さんはランク・レベル50での参戦のなります。頭上のランク表記は50ですので誰がハイランカーかは戦ってみて判断して下さい』


「え! なんだって!?」


 アルクが驚いた声を出す。


 それもそうだろう。せっかくランクを上げたのにそれがリセットされるのだ。


『でもでもハイランカーの皆様、ご安心くださいませ。ジョブはそのままですので』


「それはどうなのかしら? やっぱハイランカー有利?」


 セシリアが動画を見つつ小首を傾げる。


『ただ注意事項として、イベント中はジョブチェンできませんのであしからず。イベントが始まった時点でのジョブでイベントをプレイしてもらいますのでご注意を』


「……まじか」

 とアルクが声を漏らす。


『イベントは三日後の6月4日のお昼13時からとなります。報酬及びポイントについての詳しいことは動画視聴の後にイベント詳細のデータが端末に送られますので、そちらの方をご覧くださいませ。ではでは、今日はこれにて』


 最後にロザリーは笑みを向けて手を振った。


 動画が消えて、

「……ジョブチェンは出来ずか」

 アルクはどこか思案顔。


「どうしたの? あんたずっと魔法剣士だから問題ないでしょ?」

 セシリアが聞く。


「まあ、……そうだな。よし。三日後のイベントに備えてジョブ慣れしとかないとな」


  ◯ ◯ ◯


 ホワイトローズの屋敷にある広い一室は会議室として使われている。


 大きな円卓に二十三の椅子。

 今そこにホワイトローズメンバーの全員が集まっていた。


「これまた大規模なイベントですね。本家でもこのようなイベントは一度もありませんでしたね」

 とヴァイスが口火を切る。


「……本家って。まあ、いっか。ランクリセットなんて初めてよね。全員ランクとレベルが50なんだっけ。どんな感じになるのかしら?」

 セラが誰ともなしに聞く。


「超絶デバフをかけられたみたいなものでは?」

 とベルが答える。


「それはさておき報酬と罰についてですけど」

「ああ、確かポイント獲得上位百名が解放権を得られるんだろ?」


 アルトが笑みを向ける。もう得たも同然と考えているのだろう。


「ええ。今回はどちらが勝つとかでなく両ゲームプレイヤーに報酬があります」

「いいわね。うちらで総なめよ。全員現実へ戻るのよ」

「おいおい、逃げるのか?」

 とソーマが言う。


 それに機嫌を悪くしたのかセラは、

「は? 逃げるって何よ? 現実に戻るために頑張るんでしょ? まさかずっとここにいるつもり?」

「そりゃあ、ずっとってわけではないけどよ。他のプレイヤーを残して現実へ戻るのか?」

「はあ? 何それ? うちらが導かないといけないわけ?」

「リーダーはどう思いますか?」

 ヴァイスがスゥイーリアに聞く。


 そしてみなの視線がスゥイーリアに集まる。


「私は解放権を手に入れたのなら各々自由にすべきだと思います」

「リーダーは解放権を手に入れたらどうするの?」

「私はここにいる皆が解放されたら解放権を手に入れて使います」


 まっすぐとした視線でスゥイーリアは言葉を返す。


「そう。じゃあ私が使っても文句はないわけね」

「はい。皆さんもどんどん現実へと帰ってくださいね。さもないと私、ずっとここにいることになりますから」

 とスゥイーリアは苦笑する。


「決まりね」

 と言ってセラは立ち上がろうとする。


「まだ終わってませんよ」

「え?」

「罰についてですよ」


 ヴァイスに止められ、セラは浮かせた腰をまた下ろして椅子に座る。


「ああ! 確か罰があるんだっけ? 本当びっくりよね。動画では罰について話してなかったのにね」


 動画の後に端末へと送られた詳細では罰の記載があった。

 罰とは最もポイントが削られたプレイヤー二十名が消されるというもの。


「ロザリーはイベント開始時に全員プレイヤーに1000ポイントが付与されると言っていました。そしてこのポイントはどうやらマイナスになっても退にはならないようです」

「つまりやられても退出にならないということよね?」


 制圧戦イベントの時はやられるとイベントステージから退出扱いとなっていた。しかし、今回はそれがないらしい。


「はい。やられた後、一定期間経つとHPが全快するらしいです」

「つまりはイベント期間中はやられても何度も立ち上がって戦いまくれってことね。これならローランカーにもチャンスはあるってことね」

「ええ。そして低ランカーがハイランカーを倒すとポイントが100倍になるということ。それはすなわち──」

「300000ポイント減るということよね」


 ヴァイスは無言で頷く。


「それでもうちらでは罰に引っかからないんじゃない?」


 リルが聞く。それにヴァイスが、


「油断してはいけませんよ。レベルが50になるんですから」

「大丈夫でしょ。ジョブクラスは変わらないんだし」

「正確にはジョブですけど。それとアビリティも武器も変わらないらしいですね」

「なら問題ないじゃない。三日後のイベント開始まで低いジョブにチェンジしなければいいだけでしょ?」


 今、ここにいる全員のジョブは高いもの。なら、イベント開始までずっとそのままでいいだけである。


「そうです。それさえ気をつければいいのです。ですので皆さん、これからイベント開始まで低いジョブにならないこと、そして低レアの武器を装備しないことでお願いしますね」


 最後にスゥイーリアがそう言って締め括った。

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