第21話 Aー10 ジョブチェン

 昨夜のロザリーによる解放エリア発表の影響からか南の丘の上、森、岩山、荒野に大勢のプレイヤーがカブキオオトカゲを狩っていた。


「これは私たちの分はないわね」


 セシリアが視界一面の戦闘を見て言った。確かにユウたちの狩れるスペースがない。地面にはラインが引かれている。


「私、こういうライン嫌いなのよね」


 セシリアはライン足の爪先で蹴る。しかし、実体のないラインは消えない。


「セシ!」


 アルクが叱責するが、


「大丈夫よ。ほら彼らは中心に向いててこっちに気づいていないんだから」


 プレイヤーは皆、白い矢を同心円状に展開している。白い矢はアイテムで矢を放つと周囲にラインが引かれ、矢を放ったプレイヤー及び、そのプレイヤーのパーティーメンバー以外は狩りに参加できない仕組みとなる。


「別のエリアに行ってゼカルガでも狩る?」


 ユウは提案する。


「今日はさ、街で買い物しようよ」


 狩りではなく買い物をしようとセシリアは言う。


「買い物?」

「そうよ。君、アイテムや部屋着持ってないでしょ。それにそろそろジョブチェンしたら?」

「そうね。見習い剣士っていうのもね」


 アルクもセシリアの提案にに賛同のようだ。


  ○ ○ ○


 まずはアイテム屋でHP、MP、状態異常回復アイテムを購入。そして部屋着を買いに被服屋に。


「これなんてどうじゃない?」


 セシリアは上が黒のTシャツ、下は青のハーフパンツを薦める。


「いやいや、こっちよ」


 アルクは赤のノースリーブに、デニムを薦める。


「赤のノースリーブなんてクソダサいよ」

「そっちだって黒に青なんおかしいでしょ。コントラストを考えなさいよ」

「部屋着にコントラストってなによ」


 二人は服をユウに薦めながらお互いの服をけなしながら火花を散らす。


「あのさ……俺はこの」

『ユウは黙ってて』

「はい」

「よし。一回着てみよ」

「そうね。試着してみないと」


 試着行為そのものは試着をタップするだけで簡単早着替えなのだが、もう一時間近く着せ替え人形状態となっている。


  ○ ○ ○


「よう兄ちゃん。えらくモテモテじゃあねえか」


 食堂で昼飯を取っていると三人組の男たちに絡まれた。三人とも見た目がすぐにやさぐれた人間とわかる風貌。中央にモヒカン、右後ろに眉なし、左後ろにリゼーント。中央のモヒカンがリーダーなのだろう。全員、闘士スタイル。


「こっちはイベントポイント稼いでるってのによー」


 眉なしが口を歪めて文句を言う。


「え?」

「無視よ。無視よ」


 セシリアが嫌な顔して呟く。


「向こうにポイントに負けてたのはお前たちのせいだろ」

「はあ? 何言ってるの? アンタ達のような雑魚が街でうろついているからでしょ」


 無視と言っておきながらすぐにセシリアは食いつく。


「んだとクソアマが。低レベルがいきんなや」


 そしてモヒカンはユウのレベルを見て笑った。


「この子は最近始めのよ。そんな子にしかいきれないなんて男のくせに情けないわね。こっちだって低レベルながらイベントに多少は貢献してるし」

「このアマが。だったらポイント見せろや」

「なんであんたらに見せないといけないわけ?」

「見せられないってことは貢献してないんだろ?」

「その言葉ブーメランよ。そっちが言いがかり付けたんなら見せなさいよ。やましいから見せられないんでしょ」

「んだと、ゴラァ調子こいてんじゃあねえぞワレ」


 そこでバンとアルクがテーブルを叩いた。そして立ち上がり男を睨む。


「んだよ」


 アルクの気迫に男たちはたじろぐ。


「……わかった。ほら、これが私のポイントだそれても貢献してないと?」


 アルクのポイントを見て男たちの顔が曇る。


「おい、アルクってあの?」

「い、一位の」


 その言葉に店の中にいたプレイヤーたちもざわめく。彼らは先程からちらちらとこちらを窺っていた。


「けっ、て、てめえじゃなくてそいつらだ」

「私のポイントを見せたんだから次はお前らのポイントを見せろよ。まさか私のポイントより低いわけないよな?」


 と、言うが一位の上があるわけがない。


「だ、だからお前じゃなくて……」

「私の仲間を疑うのか?」

「アルク! 別にいいわよ。見せてあげるわ。ユウも」


 ユウは頷き、端末を操作し獲得ポイントを表示させる。そしてその画面を男らに見せる。

 男らは二人のポイントを見て一歩後ずさる。


「けっ、この金魚のフンが」


 その言葉でアルクはぶち切れ、モヒカンをぶん殴った。


「ふざけるな。お前ら、こいつは俺がピンチの時、助けた恩人だ。お前たちのように現実でいきれないからってジメジメゲーム内でいきってる奴とは違うんだよ」


 アルクの怒鳴り声が店内に響く。


「さあ、見せなさいよ」


 セシリアも立ち上がる。自分一人だけ立ち上がらないのもおかしいと思うのでユウも立ち上がる。

 三人の圧に屈し、男らは、


「イ、イカサマしたんだろ」


 と、眉なしは言うがもうすでに背を少し向けている。


「ペテン師が」

「てめらだけ情報を占有してんじゃねえぞ」


 モヒカンのその言葉にアルクはもう一度、拳を放った。


「ひっ!」


 しかし、その拳はモヒカンの顔に当たる前に止められた。

 アルクは自分の腕を掴む男に目を向ける。

 腕を掴んだのは爽やかイケメンだった。


「こんなクズ殴る必要ないよ」

 爽やかイケメンは優しくそう言ってア

ルクの腕を解放する。


「それとそこお前たち、彼女たちはきちんと情報を公開しているよ」


 金髪の爽やかイケメンがモヒカンに目を向ける。声色は優しいが目がどことなく怖い。


「だ、誰だ?」


 モヒカンが狼狽えて聞く。


「あっ! その紋章は?」


 リゼーントが爽やかイケメンの胸あてを見て驚く。

 そこには薔薇の紋章が刻まれている。


「スゥイーリアの!」


  ○ ○ ○


 男たちが逃げ去った後、


「ランキング一位のアルクだよね。少し話があるんだけど」


 爽やかイケメンは椅子を寄せ、アルクに窺う。

 一応助けてもらった恩があるので、


「いいけど」


 ユウとセシリアも頷いた。


「ありがとう」


 と、ユウたちに言って柔和な笑みを向ける。その笑みを向けられただけで胸がざわつく。イケメンは椅子に座り、


「僕はヴァイス。ホワイトローズのメンバーなんだ」

「それは知ってる。用件を」

「そうだね。実はうちの団長がアルクさんに会いたいらしいんだ」

「スゥイーリアが!」


 セシリアが声を上げた。


「あの、さっきからちょいちょい出てくるスゥイーリアって?」


 ユウが尋ねる。


「知らないの? ってそうだよね始めたばっかだもんね。って違うリアルでも有名でしょ?」


 アヴァロンは子供から大人まで幅広い層のプレイヤーがいる。普段ゲームをプレイしていない一般層もアヴァロンはゲームとはカテゴリーせずにプレイしている人もいる。VRMMOを有名にさせたのもアヴァロンである。それゆえ、何かとテレビ、ネットニュースで取り上げられている。だからゲーム内で有名になればリアルでも名が知れ渡るのだ。


「ごめん」

「いや、いいんだよ。スゥイーリアはうちの団長」

「はあ」

「はあじゃないでしょ。スゥイーリアはアヴァロン最強プレイヤーよ」

「最強!」

「それで最強プレイヤーが私に何の用があると?」

「すまないがそれは彼女に直接会って聞いてくれないかい」


 アルクはユウたちに目を配る。


「会ってきたら?」

「うん。今日はジョブチェンだけだしさ。ユウのことは私に任せて」

「わかった」


  ○ ○ ○


 アルクとは食堂手前で別れた。ユウとセシリアはギルド。アルクはヴァイスと共にホワイトローズのホームに。


「アルクってさ、なんか口調変わってなかった? キレたからかなと思ったんだけどヴァイスに対してもさ」

「元々ああいうキャラだったんじゃない? 俺も始めてゲームで会ったときあんな感じだったよ。厳つい女剣士みたいな」

「へえ、そうだったんだ」

「そういえばジョブチェンはどこで?」

「ギルド本部よ」

「ギルドって討伐依頼とかあるとこじゃあなかった?」

「それはギルドよ。今から行くのは本部。と言っても本部も大抵はギルド内にあるから同じなんだけど。でも、この街はギルドとギルド本部は別れているらしいわね」


  ○ ○ ○


 ギルド本部は街の中央から北へ少し進んだところにある。大きな円柱のある建物で外見はまるで国会議事堂みたいである。


 二人は中に入り、1階左手にある三番受付でジョブチェンを申請した。ロビーで待っているNPCの事務員キャラがやって来て、2階の206号室に案内された。六畳程度の小さい部屋で右側にテーブルと椅子。壁には様々なジョブの絵が張られている。そして左側に試着室が。


「ここでどうするの?」

「そこのプリントにジョブ名を書いて試着室に入るの」

「服は?」

「服はいらない。入るだけでいいの」


 ユウは机にプリントと置き、ペンを握った。


「それで、お薦めのジョブとかある?」

「クラス2は別に深く考える必要もないと思うわ」


 テーブルに張られているプリントにはクラス2のジョブ一覧があり、剣士、魔法使い、弓兵、槍使い、シーフ、僧侶の六つがある。各々に職業の特徴が記されている。ユウはテーブルのプリント、壁のジョブの絵を交互に見ながら考える。


「パーティーバランスを考えるなら僧侶かな?」


 アルクは近接戦特化の魔法剣士、セシリアは遠距離攻撃特化の魔法使い。なら支援ジョブだろうとユウは考えた。


「クラス2の回復は微々たるものだし。別に回復は気にしなくていいわよ」

「う~ん。遠距離の弓兵かな?」

「遠距離は私がいるし、タイタンプレイヤーの狙撃に対してこっちは弓っていうのもねえ」

「それじゃあ、シーフかな?」

「そうね。その方がいいかも。シーフは回避率高いし。タイタンプレイヤーの銃弾も怖くないよ」


 ユウはプリントにシーフと書き、試着室に入った。すると一瞬で服装が、――全く変わらなかった。


「あんまり変わらないんだけど」


 剣と盾が消えたぐらいだ。


「クラス2は装備が変わるくらいよ」

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