第169話 Pー7 集団自殺

 家に帰ってからアルクは今日のオフ会についてのことをノートを開いて文字にして纏めてみた。


 一応、もし万が一に読まれても問題ないように走り書きで文字を連ねる。


「んん〜」


 書き込んでから改めて再確認するも、これといってゲームに関して新たに刺激するものはなかった?


 ただ──。


「やっぱり薬を盛られてたのかな?」


 気になったのは元プレイヤーからの告白ではなく、あのオフ会のドリンクサービスだった。


 会場に集まった人達はどこか朧気だったし、ステージには積極的に立ち、同じ様な告白をしていた。普通は前の人と同じ内容は言わないのに、それを気にもせず同じことを発言していた。


 山田も途中からおかしくなり、ステージに立ち発言をした。


「オフ会の主催者は誰なんだろう?」


 アルクはノートに主催者と書き、丸で囲む。


「それに山田が言ってた掲示板だっけ? あれも気になる」


 次に掲示板と書き、主催者と繋げる。

 そしてパスコード、オフ会、クスリと繋げる。


 と、そこで階下からアルクを呼ぶ母、恋歌の声が聞こえた。


 アルクは部屋のドアを開けて、「なーに?」と聞く。

「ご飯できたわよ」

「うん。わかった」


  ◯ ◯ ◯


 夕食を食べているとアルクの父、悟が帰ってきた。

 いつもは遅く帰ってくるのに、今日はなぜか早い。


 なぜか早く帰ってきたにも関わらず、くたくたの悟がテーブルを挟んで対面に座ると、酸っぱい匂いがアルクの鼻腔を刺激した。


「クッサ!」


 アルクは鼻を摘み、顔を顰める。そして匂いの元である悟を睨む。


「ああ! すまんな。ここんところ、ずっと張り込みしてたからな」

 と言い、悟は右腋を嗅ぐ。


「あなた、先にシャワーを浴びてきたら? 今、食事中だから」

 恋歌が旦那である悟を席から立たせる。


「わかったわかった。そう急かせるなよ」

 と言い、悟は廊下に出て、脱衣所へと足を向ける。


 その廊下からは「そんな臭いかな?」という声が聞こえる。


「昨日、お父さん、帰ってなかったっけ?」

 アルクは母に聞いた。


「そうよ。一昨日から帰ってなかったでしょ?」

 母は呆れたように言う。


「なんか大事件?」

「さあ? 後でお父さんに聞いてみたら?」


  ◯ ◯ ◯


「ねえ、アイリス社の事件どうなった?」


 アルクはシャワーを浴びてダイニングに戻ってきた悟にかつて世間をざわつかせ、かつアルクも関わっていたVRMMO事件について聞いた。


「さあな? あれは公安案件だからな。……友達やクラスメートに未帰還者はいたっけ?」


 久々にアルクから話しかけられて嬉しく感じた悟。


「いない。でも、帰還できるからって問題ないわけでもないでしょ?」

「? どういうことだ?」

「あー、ほら、後から問題起こるとか?」

「もしかしてお前、VRMMOをやったのか?」


 悟が探る様な目を向ける。

 刑事の目だ。

 アルクはそれが嫌いだった。


 悪い事をしていなくても、まるで自分が悪者にされているような気分が嫌だった。


 反射的に顔を逸らして、

「してないし」


 と、ここで悟の晩御飯を持ってきた母が、

「駄目よ今は。危険なんだから!」

 と悟の茶碗をテーブル置いて注意する。


「分かってるよ。ただ、いつになったら解決するのかなって」

 アルクは唇を尖らせる。


  ◯ ◯ ◯


 それから十日後に事件が起こった。アルクがそれを知るのは翌日の登校時、教室に入った時だった。


「花田! 大変よ大変! 山田が自殺したって!」


 クラスで一番話したがり屋の佐伯が、アルクが教室に入ってくるなり、アルクを捕まえて自殺のことを告げてきた。


「山田って? うちのクラスの?」

「うんうん」


 佐伯は何度も頷く。


 アルクは山田の席を見る。

 その山田は昨日から休んでいる。


「そう! 山田が!」

「なんで?」

「知らない!」


 佐伯は大きく首を振る。


「集団自殺っていう噂だよ」

 と別の女子が情報を話す。


「お前、何か知ってるのか?」

 男子生徒が席を動かず、アルクに向け言葉を投げる。


「知らないけど」

「本当か?」

「くどいな。そっちの方が知ってるんじゃないの?」


 その男子生徒は名を旗本悠太と言い、山田と仲が良く、山田がVRMMOをプレイするキッカケを与えた人物でもある。


 アルクは自分の席にスクールバッグを置き、チャックを開き、教科書と筆箱、教科端末を机に入れる。


「ねえアンタ、この前さ、山田と揉めてなかった?」

 と、山田と仲の良かった女子生徒が質問する。


「へ?」


 顔を上げるとクラスメート達の視線がずっと自分に集まっていることをそこで知った。

 どうやら何か嫌疑をかけられているようだ。


「ほら廊下で揉めてたじゃん?」

「…………?」


 アルクにはいっさい身に覚えのないことで首を傾げて応える。


「二週間か十日くらいかな? 音楽の授業前にさ……あの、階段の踊り場で」


 二週間か十日ほど前で、音楽、踊り場。

 少し思案して、アルクは何を指しているのか思い出した。


「ああ! あれかな? でも、揉めてないよ。あれは……同じだから驚いていた……みたいな?」

「何がだよ?」

 旗本が声を尖らせて聞く。


「アイリス社のやつだよ!」

 アルクはイラッとして投げやりに言葉を返す。


「どういうこと?」、「アイリス社って、あの未帰還者の?」、「なんでいまさら?」、「それとなんか関係あるの?」

 と女子生徒達が続けてアルクに聞く。


「ちょっと皆、落ち着いてよ。結局、アルクは山田の自殺と関係ないんだし」

 ユウが間に割って入り、アルクを擁護する。


「同じって何がだよ? それとアイリス社のやつで山田と何の話をしたんだ?」

 旗本がまたアルクに問いかける。


「大した事じゃないし」

「大した事ないなら話せるだろ?」

「アンタ何様?」


 アルクは旗本を睨んだ。それに旗本も睨み返す。

 ピリッとした空気が教室を支配する。


  ◯ ◯ ◯


 ホームルームにて担任から山田の自殺の件が告げられた。


 クラスのほとんどはホームルーム前に知っていたので誰も悲しみや驚きはなかった。


 むしろ一部生徒を中心に苛立ちや不穏な空気が出ていた。

 そして一コマ目の授業はなくなり、続いてホームルームへと変更になった。


 そのホームルームではアンケート調査が行われた。

 山田のことでもそうだが、自身のことや、クラス内で気づいたことをアンケートで問われた。

 学校側はいじめやクラス内の人間関係によるトラブルも考慮しているのだろう。


 一コマ目のホームルーム以降は通常の授業が行われた。休み時間には隣のクラスの生徒から山田の件が話題に上がることはあったが、それ以外は何もなかった。


 ……ただ、その日はずっと教室の空気が悪かったということを除けば。


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