第184話 Aー8 ホワイトローズ

 湖畔近くにホワイトローズが拠点として使用している屋敷がある。

 その屋敷の一室で、ホワイトローズの面々は集い、ロザリーからの音声メッセージを聞いていた。


『…………さてアンケート結果は以上となります。ここからは報酬についての話になります。元々報酬はなしという話でしたが、それだとアヴァロン側が理不尽であるということで此度こたび話し合いの上、鬼ごっこイベントにおいて多くのポイントを獲得したプレイヤー上位10名には解放権をプレゼントさせて頂きます』


 スピカは端末を虚空に消し、リーダーのスゥイーリアを仰ぎ見る。

 その奥の席に座るスゥイーリアはメンバー全員が端末を虚空に消すのを見届けてから、


「では次回イベントの鬼ごっこについて話し合いたと思います」

「全員選ばれてたな」


 明るい髪のアルトがやれやれといった風だが、どこか面白そうであった。


「やはり他にも著名なハイランカーもランキングインしていましたね」

 ヴァイスが肩を竦めて言う。


「にしてもさ、ユウという中級……いやローランカーが入ってたのはなぜだ?」

 アルトが疑問を投じる。


「ホントだよね。ローランカーが私よりランキング上位に入るって不思議」

 リルが頬杖をついて言う。


「この子って、アムネシアのミリィとあのアルクって子と一緒にいる子よね?」

 黒魔女風のプレイヤーが誰ともなしに聞く。


「ああ、アムネシアと共につられてか?」

 ソーマが黒魔女に聞き返す。


「はあ? じゃあなんで、そのミリィよりランキングが上なのよ」

「それもそうだよな。何か特徴あったか?」

「……ええと特にこれといった特徴はないはずですが。スピカは何かご存知で?」

 スゥイーリアはスピカに聞く。


 スピカはユウとは度々一緒に行動をしていたりもする。この前はユウ達のキャンプに途中参加した。


「ただのローランカーかと。しかし、タイタンプレイヤーに何らかの印象を与えた可能性があるかもしれません」

「印象って?」

「それは……分かりません」

「チート能力持ってるとか? あっ! そう言えば確かステータスを切るっていう武器をユウは持ってたよね?」

 リルが思い出したかのように言う。


「お! それじゃね? チートじゃん?」

 アルトが指を鳴らす。


「ええ。確かにステータスを大幅に下げるというデバフ持ちでしたけど、発生確率は低いとのこと。それに彼はそんな武器を持っていても活躍してませんよ」


 前回ストーリーイベントの裏ボス・アネモネクイーン時には確かにステータスを減らして弱体化したが、ユウは結局敗れてしまった。

 その後のランクリセットイベントでもさほど活躍もしていなかった。


「知らないとこで活躍してるとか?」

 アルトが顎を撫で、それとなく言う。


 ランクリセットイベントは全プレイヤーがランク50となった。

 けれど取得ジョブ数、武器や防具、それにアクセサリーによってステータスは変わるので、はいそれとハイランカーに簡単に勝てるわけではない。


 ──しかし、持ち前のセンスでそれを補えば? ……いいや、いくななんでもそれはない。それだけでハイランカーを倒せるか?


 スピカはかぶりを振る。


 ──何かもう一つ自分たちの知らないがあればいけるかもしれないが。


「そのユウの話はそれくらいして。次のイベントは報酬がでるよね。解放権だって。告知の時はただ参加させるられる感じで、しかも負けたら消滅だもん。罰ゲームかって感じだったよね」

 リルが嬉しそうに言う。


「そろそろ、その解放権使わね?」

 ソーマの言葉に集まったメンバーは息を止める。中には眉を下げる者もいる。


「俺たちがここに留まる理由もないだろ?」

「何それ! 自分が解放権持ってるからって!」

「持ってないやつが悪いんだろ?」

「はあ!?」


 リルはテーブルに両手を叩きつけ、椅子から腰を上げる。


「ならさっさと出て行けば? いちいちお伺いする理由は何?」

 セラはソーマに対して鋭い視線を向ける。


「俺だって皆のことを考えてんだよ。でもよ、今回のイベントのようなことがあったらこの先も大変だろ? 解放権持ってるのに危険な目に遭うなんて。だったらさっさとログアウトしようぜ」


 その言葉に全員は黙った。目クジラを立ててたリルやセラも目を伏せる。


「リーダーはどう思う?」

 ソーマはスゥイーリアに聞く。


「まず解放権をこの中で持っていない方は?」


 それにスピカ、ヴァイス、メイプルの面々が手を挙げる。メンバーの中で解放権を持っていないのは計6名だった。


「あら、スピカが持っていないのは意外」

 セラが眉を上げて言う。


 スピカはメンバー内ではナンバー2の実力者だ。そのスピカが解放権を持っていないのは驚きのことであった。


「お恥ずかしい限りで」

「じゃあ、次の鬼ごっこで頑張れば」

「ええ」

「で、どうするの? 解放権いつ使うのさ? もしかして皆が手に入れてからとか言わないよな?」

 ソーマはスゥイーリア、そしてメンバーの面々を見渡して聞く。


「さっきも言ったでしょ。使いたいなら使えばいいじゃない?」

 セラはもう一度ソーマに言う。


「そうかよ。リーダーもそれでいいんだな?」


 スゥイーリアは一つ息を吐き、


「降りたい方はどうぞご自由に。ただ私はここにいる仲間が一人でもいる限り居続けます」


  ◯ ◯ ◯


 まさか鬼ごっこイベント前にセラや数名のメンバー達が解放権を使用するとはこの時、スゥイーリア及び鬼ごっこイベントに参加したメンバーは思いもよらなかった。

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