第221話 Pー3 勧誘①

 藤代優こと井上風花と御堂雫は近くのファーストフード店に移動した。


 風花はコーラとフライドポテト。雫はホットコーヒーを注文した。


 そして風花はエイラがいなくなった後のこと、ロザリー達の目的、そして敵、現在の状況を話した。


 それらは突拍子のない話で頭のおかしい陰謀論や都市伝説を織り交ぜたようなフィクションにしか思えない──はずだった。


 けれど雫の囚われていた頃の記憶と一致する。


 その記憶は誰にも話してはいなかった。もし話せば恋人が未帰還者になり、精神異常になったと思われるから誰にも話していなかった。


 その当時のことを目の前の少女は知っている。


 けれども──。


「そんな突拍子のないこと、まだ信じきれないわ」


 と雫は口にするが、内心では信じきろうとする自分がいるのもの本当のこと。


「ならついてきて」

「よくも知らない人についていくとでも?」

「深山鏡花さんなら?」


 深山鏡花。深山家の令嬢でネットでググれば顔写真の一つはすぐに出てくる身元が分かる人物だ。


「分かったわ。読んでちょうだい」


 優はスマホを取り出し、深山鏡花に連絡を取る。


「お手数ですが…………はい、説明は………大丈夫かと…………えっと、スカイツリーから…………え!? あっ、そうですか」


 と優さ通話を切り、「すぐ近くにいるんだって」と雫に言う。


 ホットコーヒーが飲み終わる頃に深山鏡花と胡桃がファーストフード店に入ってきた。


「リアルでは初めてだね。深山鏡花だ」


 鏡花とはリアルでの対面は初めてだが、顔はネットで見たことがあるので新鮮味はなかった。


「初めまして。御堂雫です」

「私は胡桃です」

「どうも」


 胡桃が雫へと丁重に頭を下げるので雫も釣られて頭を下げる。


 鏡花を真ん中として3人が雫の対面を陣取る。


 1対3。周りからおかしく見えるだろう。そんな気恥ずかしさを雫は感じた。


「先程、この子から話を聞きましたが、中国からの侵略……プリテンドとかの話は本当ですか?」

「本当だよ。このままだと侵食されつつある」

「もし本当なら警察にリークすべきでは?」

「中国も一部が暴走ということになってるからね。もし日本政府が知れば中国は穏便に済ませようと動く。今の日本は外交が弱いからね。中国側が本気でないと知れば、ちょっと外交を交えると日本政府はイエスマンさ」


 日本が外交に弱いのは雫でも知っていること。

 今やアメリカに次ぐ大国化した中国と戦争をする気はない。いや、できないと言うべきだろう。


「だから、日本政府、いや日本国民に危機感を与えること。そして中国政府にを出せないようすること。その上で敵を倒すこと。それが我々の目的だよ」


 雫は目を閉じて額に指を当てる。


 嘘か本当か?

 普通に考えるなら嘘だ。


 だが、今の雫には囚われていた記憶がある。


「それは本当に?」

「うむ。証拠を見せよう」

「証拠ですか?」

「葵に会わせてあげるよ」


 4人は外に出て、乗用車に乗る。


「お嬢様だからリムジンかと思った」

「あっはっは、あれは目立つし、我が家の専門の運転手を使うしね。それに足がつきやすいんだよ」

「そうなんですか」


 乗用車に乗り込み、雫は、


「それはそうと囚われた人間は無事なんですよね?」

「無事だよ」

「彼を解放することは?」

「今は無理だね」


 皆が乗り込むと乗用車は発進した。


「どうしてですか?」

「まずは日本政府と国民全てに危機感を知ってもらうため。それとロザリー達はやられた」

「やられた?」

「うん。残念なことに中国側のAEAIの5体がタイタン内侵入してきてね。さらに現実世界こっちでも雷電公主から攻撃を受けてね」

「それってピンチなのでは?」

「ピンチと言えば仲間になってくれるかい?」


 鏡花はにやりと笑う。


「人をゲーム世界に閉じ込めた者達を信じろと?」

「私は閉じ込めてないよ。あくまで途中から手を貸しているだけさ」


  ◯


 乗用車はビルの前で停まった。


「着いたようだね」

「どこですか? ここは?」

「怖がることはない。深山家が持っている新虎のビルさ。すぐそこを曲がれば飲食店街だよ」


 まあ、もし分からなくてもスマホのGPS機能で位置を割り出そうと雫は考えた。


 運転席から1人の女性が降り、その女性を先頭に計5人がビルの中へと入った。

 階段で2階に進み、廊下奥の部屋に入る。


「そこに座りたまえ」


 と鏡花に言われ、雫は二人掛けソファに座る。隣には優が座る。対面の席に鏡花が座り、胡桃はどこかへと向かう。そして乗用車を運転していた人物は座ることなく鏡花の隣に立つ。


「まずこの子の挨拶をしておこう。この子は葵。AEAIの一体さ」

「AEAIの葵です」

「……」

「どうした鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「AEAIって、本物の?」

「本物だよ」


 雫は葵の体を上から下まで視線を何度も往復させ、そしてじっと顔を見つめる。


「人間にしか見えない」

「ありがとうございます」


 雫は驚いたが、すぐに怒りが込み上げてきた。


「どうして閉じ込めたの?」


 そう。このAEAIはロザリーの仲間で人間をゲーム世界に閉じ込めた存在。


「それは先程説明しただろう」


 鏡花が溜め息交じりに言う。


「分かってる。……でも!」


 頭では分かっている。どちらかというと葵達は雫達を守っていた方だと。けど閉じ込めていたという事実は変わりなく、感情が勝り、怒りが沸々と込み上げてくるのだ。


「すみません。今の私にはそれしか言えません」


 葵は深く頭を下げる。


「謝られても……」

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